ベライゾンが「NVIDIA AI」と提携=エッジ事業、プライベート5G事業が急転するのか
NVIDIAのAI事業が堅調だ。12月17日(米国時間)、米通信大手ベライゾンが両社によるエンタープライズ向けのAIソリューションを発表した。ベライゾンの5GプライベートネットワークとMEC(モバイルエッジコンピューティング)基盤で「NVIDIA AI」を提供し、DXを推進する。
同ソリューションは上記のコンポーネントをパッケージ化した拡張可能なマルチテナントソリューションとなっており、サードパーティによるエンタープライズアプリケーションを実行できるように作られている。たとえば、生成AIのLLM(大規模言語モデル)やVLM(視覚言語モデル)、ビデオストリーミング、配信管理、コンピュータービジョン、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、XR(クロスリアリティ)、自律走行車とロボット、IoTなどの用途を想定している。
顧客はNVIDIAのマイクロサービスアーキテクチャ「NIM」を使用してアプリケーションにアクセスする。ポータブルプライベートネットワークサービスを介したリモート利用、あるいは常設のプライベートネットワークを介したオンプレミス利用が可能となっている。
ベライゾンはコンサルティング会社の調査結果をいくつか紹介し、企業がビジネスチャンスの拡大を目指してAIサービスに注目していると述べている。たとえば、PwCの「Global Artificial Intelligence Study」では、企業幹部の大多数が「AIをビジネス上の利点と考えており、すでに利用しているか、今後利用する計画を立てている」ことがわかった。
ベライゾンのCEOを務めるHans Vestberg(ハンス・ベストベリ)氏は、何年も前から、エッジコンピューティングサービスの提供については自社が有利な立場にあると力説していた。今のところ大きなリターンは得られていないものの、飽かずに可能性を膨らませている。
「当社には高効率な周波数ポートフォリオと光ネットワークの容量があります。モバイルエッジコンピューティングを展開し、提供することもできます。当社はAI経済の屋台骨を支え、AI市場のプレイヤーにとって最適なパートナーになることが可能です」。昨年のある決算説明会で語った。「当社は顧客に最高のAIサービスを提供できます。AIに関しては、モバイルエッジコンピューティングの提供能力と光ネットワークのカバレッジで他社と一線を画しています。リアルタイムでのAI利用には、セキュリティと超低遅延、高帯域幅が必要になりますが、データを発生源に近いところで処理することでこれを実現しています。当社のネットワークが真価を発揮する領域であり、これまでは実現不可能だった可能性が開かれているのです」
最近では、テクノロジープランニング担当シニアバイスプレジデントのAdam Koeppe(アダム・ケッペ)氏がSDxCentralの取材に応じ、ベライゾンのアーキテクチャについて説明している。AI出力を利用したユースケースを実現できることをアピールした。
「アーキテクチャの枠内で何が可能なのか、どのようにAIで――真のAIです――既に行っていることを強化したり、全く新しいものを生み出したりできるのか、といった点について検討することが本当に大事だと思います」と氏。
「私のみるところ、進展がみられるケースというのは、先進的なクラウド基盤があって――当社にはあります――、当社がすでに提供しているようなオーケストレーション層があって、そのうえ新しいAI機能をそこに組み込む方法もわかっている場合です。そうすると、エンジニアチームや運用チームによるインタラクションの仕方も変わってきます」
AIとのインタラクションという新たな機会が登場したことで、エッジへの投資もさらに進むことになりそうだ。
「AIに関してはトレーニングに焦点が当たっている段階ですが、これが推論に移っていけば、待ち時間の短縮、プライバシーの強化といったニーズに対応するためにエッジコンピューティングが必要になってきます」。調査会社IDCのクラウド/エッジサービス調査担当バイスプレジデント、Dave McCarthy(デイヴ・マッカーシー)氏が最近執筆したレポートの中で述べている。「こうした流れが進めば、運用効率が最適化されるだけでなく、従来の集中型インフラでは不可能だった新たなビジネスモデルが生まれるようになります。アプリケーションやデータをエッジロケーションに分散すれば、ネットワークの輻輳を軽減し、(AIによる)意思決定を迅速化できます」
通信事業者のエッジ事業―NVIDIAを選好
ベライゾンと提携する少し前、NVIDIAはTモバイルUSともAI開発で緊密な提携を結んでいる。両社はエリクソンとも協力してイノベーションセンター を設立し、AI-RANおよびクラウドRAN技術とAIの開発を統合的に進めるとしている。
この目的について、TモバイルUSがプレゼンテーションの中で説明している。統合型インフラ製品を使用してクラウドRANとAIの機能を統合し、同時に数百万人のモバイルユーザーにサービスを提供できる水準の拡張性を持たせることだとした。
「AI RANでは、新たにAIアルゴリズムを使い、無線ネットワークの可能性を最大限に引き出すことが可能になります。AIアルゴリズムについては、SD-RANを使って素早く開発し、AIデータセンターでトレーニングを行い、正確なデジタルツインを使ってファインチューニングすることになるでしょう。周波数利用効率とエネルギー効率の劇的な改善につながります」
計画しているアーキテクチャでは、通信事業者が各基地局または複数の基地局にサービスを提供している中央基地局のRAN機器を更新する。こうした拠点がエッジデータセンターやクラウド接続の機能を提供し、AIワークロードの処理が向上する仕組みだ。
「この種のAIワークロードについては、デバイス上で処理を行うことがますます要求されるようになるでしょう。そうした例も出てきていますが、限界があることは明らかです。デバイスの近くにあるクラウドで処理するという選択肢もあり、こちらについては今後のビジネスチャンスになると見ています」
ベライゾンのプライベート5Gに勢い
ベライゾンはNVIDIAと契約を結んだことで、プライベート5Gの商機を拡大させられる可能性もある。同社はこの分野について、進展に時間がかかっているものの、このところは勢いが出てきたとアピールしている。
「当社では、月に1、2件のプライベートネットワークを新たに提供していました。今ではその数が大幅に増えています」。コンシューマー部門CEOのSowmyanarayan Sampath(ソウミャナラーヤン・サンパス)氏が調査会社モフェット・ネイサンソンの「メディア・インターネット・テレコム・カンファレンス2024」に登壇し、聴衆に向けて説明している。
これはベライゾンの第2四半期決算説明会でVestberg氏が語った内容を踏襲したものだ。氏によると、同事業はまもなく発展し、さらには別の商機に寄与することにもなるという。
「5Gのユースケースに関しては、プライベートネットワークについてお話しすることが多くなっています。件数が増えているためですが、利益としてはまだかなり小さいと言えます」と氏。「ですが、エンタープライズ向けマネージドスペクトラム(サービス)の構築が完了し、プライベートネットワークを支えるようになれば、いずれ営業部隊がモバイルエッジコンピューティング(MEC)を追加でご紹介できるようになり、大きな商機となるでしょう」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
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