VMwareからの移行にはどのくらい時間がかかるのか
Broadcomは新たにVMwareの親会社となった後、さしあたり大口顧客の流出をうまく食い止めているという。競合各社がしぶしぶながら語った。一方で、小口の顧客であれば、ものの1か月でベンダーを変更することも可能だという。
HCI(ハイパーコンバージドインフラ)ベンダーのNutanixによる直近の決算説明会では、Rajiv Ramaswami(ラジブ・ラマスワミ)CEOがこの件について語った。VMwareの顧客がどのくらい移行してきそうか、恩恵がありそうかというと、短期的にはそれほどでもなく、複数年かかって実現するという見通しに変わりはないという。
「市場の動きは活発ですが、当社の好機かという点では、まだほとんど変化はみられません。シェアを奪う機会ではありますが、複数年かけての取り組みになるという見方をしています」。金融アナリストからの質問に答えて同氏が説明している。「今四半期についても、その点に関しては過去数四半期と大きく変わらず、関連取引の受注・失注率にも大きな変化は特にみられません」
進展が進まず「変化が見られない」理由としては、顧客が現在使用しているVMware製品の更新サイクルが関係しているケースが多いという。
「関連取引はVMware製品を利用している企業のハードウェア更新時期が迫っている場合に発生しています。もっとも、当社としては、既存のハードウェアで当社のソリューションをお使いいただけるというメリットの強化もしています」と氏。デル・テクノロジーズとの協業を例に挙げた。企業がHCIやデータセンターストレージの管理で抱えている課題を緩和することを目的に、新製品をリリースしている。
「Dellと協力して3層アーキテクチャ向けの取り組みを進めています。VMware HCIをすでに導入している場合にも、引き続き当社のソフトウェアを導入いただけます」
Broadcom側も顧客の流出を抑制しており、特に大口顧客の維持に成功している。Ramaswami氏は以前、大口顧客との取引についてはBroadcomも価格設定に柔軟になるだろうと話していた。また、数を減らしたVMware製品のうち、いくつかについては、最近になって機能やメリットが強化されている。
「Broadcomがそうした顧客の維持に積極的になるのを目にすることもあります。特に、かなり大口の顧客の場合です。そういう意味で、市場の動きは活発です」と氏。「ですので、結局のところ、ほとんど何も変わっていのです」
株式調査を提供しているウィリアム・ブレア&カンパニーが最近発表したレポートでは、Nutanixについて取り上げている。その中で、VMwareの顧客のうち、最大で30%に当たる40万社以上(インストールベース)が「いずれはVMwareから離れる」という市場調査会社予測があることが書かれている。これについては米フォレスターリサーチのプリンシパルアナリスト、Naveen Chhabra(ナヴィーン・チャブラ)氏もSDxCentralの取材で同じような見解を話している。「(世界の大企業のうち、最大で20%が)離脱を――この言葉はとても慎重に解釈していただきたいのですが――VMwareスタックから離脱を始めるでしょう」
「一夜にしてすべてを入れ替えるわけではなく、徐々にですが、始まると思います」と氏。「いま現在、実際にそうなっているのをはっきりと目の当たりにしています。この予測が正しかったと言えるようになるまでに、さらに5か月もかかるということはないでしょう。いま起きていることです」
Nutanixは直近の四半期に新規の顧客を630社獲得している。ウィリアム・ブレアのあるレポートでは、「VMwareの顧客の不満が高まる中で、Nutanixが移行先として着実に成果を上げている」と書いている。
BroadcomによるVMwareの変更を受けて、利を得ようというベンダーはNutanix以外にも多くある。
最近開催された投資家向けカンファレンスでは、IBMのJames Kavanaugh(ジェームズ・カバノー)CFOが登壇している。VMwareに不満を持つ顧客の流出があるかもしれず、傘下のRed Hatが一部を受け入れることになりそうだと語った。時期については数年先になる可能性もあるという。
「Broadcomによる買収の結果、現在あらゆる企業顧客がプラットフォームアーキテクチャに関する意思決定を迫られています。仮想化なのか、コンテナ化かという選択です」と氏。IBMのコンサルティングサービスや生成AIプラットフォームのIBM watsonx、Red Hat OpenShiftをアピールしつつ語った。「顧客が成長要因に関する非常な関心を持って当社に来られるのはそのためです。私たちがわくわくしているのはこのことです」
時期については、ウィリアム・ブレアによる最近の企業調査でも同じような結果が出ている。「顧客の大多数はVMwareに対し、少なくとももう1年分の支払いを行っている(即座の移行には課題が伴うため)。とはいえ、顧客やチャネルパートナーの多くはBroadcomのせいで大損をしたと感じている」。不満を抱えた顧客は短期的/中期的な代替先を探してNutanixやRed Hat、Microsoft、Scale Computingなどのベンダーやパブリッククラウドの利用を検討しているとした。
移行作業には時間がどのくらいかかるのか
不満を抱えた顧客が新しい事業者のプラットフォームに移行する場合、時間はどのくらいかかるだろうか。Nutanixの決算説明会でRamaswami氏が詳しく説明している。「最も簡単」な例は、現在vSphereを利用している顧客の場合だという。「そうした顧客にはハードウェアを交換する意思がありますから、移行は非常に簡単です。比較的小規模なものであれば、1、2か月で移行できます」
移行作業の多くは自動化されており、パブリッククラウド事業者間で移行を行う場合についても同じような期間で可能だとした。
「さきほどVMware Cloud on AWS(Amazon Web Services)に関する質問を頂きました。実際、こうしたサービスはごく簡単に移行できます。こうしたサービスの顧客についても、やはり1カ月以内にNutanixのサービスに移行していただけます」
一方、複雑で大規模な移行の場合には「何年もかかる場合がある」という。
「対極にあるのが、大規模な資産を抱えていて、多くのVMware製品を利用している大手企業の場合です」と氏。
「1度に移行するということができないために、移行に3年かかることもあります。複雑なカスタムスクリプトを書いていたり、VMware製品に加えてカスタマイズに投資したりしていると、変換するのにプロの手を借りる必要があります。こうした移行は複雑なものになりがちで、プロに依頼することになるため、数年かかる傾向にあります」
フォレスターのChhabra氏はこうした場合について、複雑さというのは顧客にとって大きな問題だと強調している。VMware製品が顧客企業のシステムに深く織り込まれ、根付いているためだ。
「私がクライアントと話をする時には、依存関係がありますから、シンプルにVMwareのハイパーバイザーを他社のハイパーバイザーに変更するというのは簡単なことではないかもしれないと話しています。エコシステムに影響があるのです」と氏。「私見では、VMwareの現在の地位は、製品そのものではなくネットワークの力によるものと考えています。VMwareは何年もかけて、上位レベルと下位レベル、両方のパートナーとエコシステムを築いてきました。これがVMwareという選択肢を有力なものにしているのです」
Broadcomの方は、VMwareで提供している選択肢について、相変わらず自信を持った見方をしている。
同社は長期の顧客と新たにサブスクリプションライセンスモデルで契約を結ぶ取り組みを進めている。第2四半期決算説明会では、Hock Tan(ホック・タン)CEOが進捗を伝え、大口顧客10,000社のうち、3,000社近くと契約を交わしたと説明した。
「こうしたお客様には、おおむね複数年契約を結んでいただいています」。契約額を年率換算すると、今年第2四半期の総額は19億ドルとなり、第1四半期の12億ドルから増加する。
「進捗は順調です」と氏。「まだ決して完了したわけではありませんが、期待通りに移行が進んでいます」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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