OPEN-RAN
文:Dan Meyer

オープンRANに必要な後押しはAIなのか

オープンRANに必要な後押しはAIなのか

米通信大手TモバイルUSが先月18日、「AI-RANアライアンス」の参加企業3社と提携、ワシントン州ベルビューに試験施設を建設すると発表した。同施設では、クラウドRANやオープンRANの制御にAIを使用する取り組みを行う。オープンRANの導入が始まる中、この取り組みの重要性は増していきそうだ。

TモバイルUSが主導し、NVIDIA、エリクソン、ノキアと共同で「AI-RANイノベーションセンター」を設立する。クラウドRANとAIを組み合わせた開発を重点的に行う予定だ。

TモバイルUSは最近、あるプレゼンテーションの中で次のように説明している。目標としているのは、統合インフラにクラウドRANの機能とAIを搭載し、同時に数百万人のモバイルユーザーにサービスを提供できるような拡張性をもたせることだ。

「AI RANでは、新しいAIアルゴリズムを使って無線ネットワークの潜在能力を最大限に引き出すことが可能になります」「AIアルゴリズムについては、SD-RANを使って素早く開発し、AIデータセンターでトレーニングを行い、正確なデジタルツインを使ってファインチューニングする形です。これによって周波数利用効率とエネルギー効率を劇的に改善できるでしょう」

クラウドRANやオープンRANの導入、管理にAIを活用する利点についてはアナリストも指摘している。こうしたネットワークはマルチベンダーによるディスアグリゲーション構成となり、オーケストレーションが複雑になるためだ。AIを活用すれば、従来型のRANとオープンRANの性能差を縮小できる可能性がある。

TモバイルUSが主導する同取り組みは、AI-RANアライアンスとしても最新の取り組みに当たる。同団体は今年2月に発足、当時の創立メンバーにはAWS、Arm、エリクソン、マイクロソフト、ノキア、サムスン電子、ソフトバンク、NVIDIA、DeepSig、TモバイルUS、ノースイースタン大学が名を連ねた。その後、参加企業の数は30以上に増えている。

最大の目的は、RANにAIを導入してパフォーマンスの向上や運用コストの削減、効率性の向上、新しい事業モデルの基盤を実現することだ。今回の取り組みでは、AIを使ったRANの周波数利用効率、ネットワーク利用効率の改善、新しいサービスを支えるエッジAIの導入などを行う。

同プロジェクトの試験はTモバイルUSとソフトバンクが主導する。

AI-RANアライアンス8月、Alex Jinsung Choi(アレックス・ジンスン・チェ)氏を議長に指名、組織として指導力を強化した。同氏は以前にO-RANアライアンスの議長も務めた人物だ。

米ABIリサーチが最近発表したレポートでは、この人選について、オープンRAN担当リサーチアナリストのLarbi Belkhit(ラルビ・ベルキット)氏が次のように述べている。

米ABIリサーチが最近発表したレポートでは、オープンRAN担当リサーチアナリストのLarbi Belkhit(ラルビ・ベルキット)氏が次のように述べている。「(この人選は)オープンRAN分野の状況を物語っているようにも思います。業界としては、総じてオープンエコシステムを拡大するよりも、『AI for RAN』(訳注:AIを活用して既存のRANの周波数利用効率および性能を向上する技術)の開発に重きを置いているのではないでしょうか」

オープンRAN市場の落胆―AIで解決は可能か

そうした可能性が指摘されているオープンRANエコシステムは現在、転機を迎えている。

Belkhit氏は同レポートで、次のような状況も浮き彫りになったとしている。通信事業者のオープンRAN計画については重要なものがいくつか発表されており、米AT&Tなどは140億ドルを投じて年内にも機器の導入を開始する予定だ。その一方で、オープンRANのエコシステム全体としては、あまりうまくいっているとは言えない。

「AT&Tからはそのような発表があったものの、オープンRAN市場全体としては、期待されていたほど進展していないという状況です。相互運用性に関する課題もありますし、オープンRANに限らずRAN投資全体がそうなのですが、MNOが新しい機器に投資する額がおそろしく少ないことも原因です」と氏。「持続可能な水準ではないにしても投資が回復し始めたとして、MNOが主な優先事項とするのは、ネットワークの『仮想化』や『クラウド化』だということになりそうです」

米テラルリサーチが最近発表したレポートによると、現在、世界で150社を超える通信サービス事業者がオープンRANシステムの試験や導入を積極的に進めているという。一方で、ベンダーにとっては市場のダイナミクスがなおも財務面のプレッシャーになっているようだ。

「予測していたとおり、オープンRANを早期に導入したグリーンフィールドネットワーク事業者が構築を終えてからというもの、ブラウンフィールドネットワークに広がるのはゆっくりとしたペースになっています。オープンvRAN市場は(2024年上半期、前年比で)7%縮小しました」とレポートにはある。「こうした環境下で、大規模なオープンRANエコシステムは持続可能性を試されている状況です。市場の集約や企業再編、資本の再編や倒産が発生するかもしれません」

懸念の声は通信事業者からも上がっている。

TモバイルUSのMike Sievert(マイク・シーベルト)CEOは、直近に開催した投資家会議の席で、クラウドベースのオープンRANモデルはもっと焼き固める必要があると述べている。

「この業界には長いあいだ、もっとオープンなRANアーキテクチャへ、SD-RANへというトレンドがありました。あらゆる技術を無線装置からクラウドに移行して、当然期待できる金銭的なメリットや効率化を実現しようとしたのです。ところが、どうやら世界規模で実現するのは難しいのではないかということがわかってきました」

ベライゾンもオープンRAN技術の成熟を待っているところだという。昨年のMWCラスベガスでSDxCentralが取材した際、エグゼクティブバイスプレジデント兼グローバルネットワーク&テクノロジー担当プレジデントのJoe Russo(ジョー・ルッソ)氏が述べている。

「今の時点では――いつも同じようにお話ししているのですが――多くの試験をしていますし、結果がどうなるかはとても興味深いと思っています。ですが、今のところ大規模な検討はしていません」と氏。「どこかの時点でそうならないということではなく、この分野に関してはまだ長い道のりがあると思いますし、どのように進展していくのかを見ていこうと考えています」

また、オープンRANにまつわる課題の中でも、相互運用性やソフトウェア、拡張性、パフォーマンスが相変わらず大きな課題になっていると語った。

「ベライゾンのネットワークでは高い性能基準を設定しています。音声でもデータでも、ネットワークに接続するにもとどまるにも、必要な機能を実行できるかについても高い基準があるのです。ベライゾンのネットワークに何かの機能を追加しようとすると、たいていの場合、これが高いハードルになります」と氏。「これまでのところ、こうした水準を確実に満たすのは難題になっています。(中略)まだ早いのです。関心がないということではなく、どのように進んでいくのかはもちろん見ていきます」

ベライゾンは最近、新たに発足したオープンRANハードウェア/ソフトウェアのテストに関する助成金プロジェクトをAT&Tと共同で主導すると発表した。米国政府は地政学的緊張の中で、オープンRANや5Gエコシステムで保っている主導的な立場をさらに強化する取り組みを続けている。

アナリストは、各社の協働によるこうした取り組みが、広くオープンRANのエコシステムにとって朗報となるのではないかと述べている。

「忍耐ですね」。米フューチュラムグループが最近配信したポッドキャストで、リサーチディレクターのRon Westfall(ロン・ウェストフォール)氏が話している。「こうしたことが起こるのはオープンRANに限ったことではありません。他の技術でもそうでした。といっても、つまりはAI RANがオープンRANの良き友となって、その結果オープンRANの実装が活気づくのであれば、全体として見れば本当に良いニュースなのではないでしょうか。つまり、RANの実装全体のうち、(オープンRANの実装は)まだ10%にも満たないわけですが、オープンRANのメリットを実現しようという流れになっていくと思います。実際、大手通信事業者の計画の中でもAI RANの優先度は高くなるでしょうし、現にTモバイルがそうしようとしています。繰り返しになりますが、AI RANは既存のオープンRANアーキテクチャをも大幅に強化できることから目立って急激に人気を集めたわけですが、それと同時に、共同での取り組みを可能にしました。こうした共同取り組みというのは、AI RANであればオープンRANの潜在能力を十分に引き出せるだけでなく、端的に言って、期待を超えるものにすることさえ可能だということを証明するためには欠かせない取り組みだと思います」

Is AI the kick open RAN needs?

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
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