AIの時代に成功するには=プラットフォームエンジニアが不可欠に
AIは急速に進化し続けている。あらゆる企業が規模を問わず、この革新的な技術を活用したいと考えている――それも、できるだけ迅速に。
とはいえ、(AIに限らず)アプリケーションを本番運用にもっていくまでには、スムーズには進まなかったりするものだ。開発チームは進捗を遅らせる障害やボトルネックに遭遇する。それは長たらしい承認プロセスであったり、部門間の業務フローの効率の悪さ、あるいはリソース不足であったりする。
そこで登場するのがプラットフォームエンジニアリングだ。ここ数年で広まり始めたばかりの概念で、DevOpsの発展形だという人もいる。DevOpsとは、開発とIT運用の統合、自動化によって開発ライフサイクルの改善と短縮を図るものだが、プラットフォームエンジニアリングでは、開発と運用のみに焦点を当てるのではなく、セルフサービス機能の提供とインフラ運用の自動化を可能にする。
「AIの時代にあって、DevOpsが十分な発展を遂げました」。レッドハットのディスティングイッシュト・エンジニアで新興技術担当ディレクターを務めるErin Boyd(エリン・ボイド)氏は言う。「プラットフォームエンジニアリングは、私たちの業界のカルチャーを変える好機となるものです。仕事を成功させるために、関係者全員のニーズを、もっと鋭敏に察知することが可能になります」
プラットフォームエンジニアリングの説明
米ガートナーによると、プラットフォームエンジニアリングのプロセスは、専任のプロダクト・チームが開発者などのニーズに応えたプラットフォームを作成、保守するところから始まる。プラットフォームで提供されるのは、共通の、再利用が可能なツールや機能、それから複雑なインフラのインターフェースだ。
プラットフォームがどのようなものになるかは、完全にそれぞれの状況でのエンドユーザーのニーズしだいとなる。全体としての目的は、企業のソフトウェアデリバリーのプロセスを最新化し、開発者が自分でアプリケーションを実行・管理できるようにして、開発者体験と生産性を向上させることだ。信頼性とセキュリティの確保、人材の維持にも役立つという。
「新しい世代のツール群が開発されたことで、プラットフォームエンジニアリングはDevOps界隈で話題の的になっています」。バイスプレジデント・アナリストのPaul Delory(ポール・デロリー)氏が述べている。「プラットフォームの構築・保守を簡単にするためのツールです」
実際、ガートナーは「2024年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」10個のうちの1つとしてプラットフォームエンジニアリングを挙げており、「2026年までに、ソフトウェア・エンジニアリング企業の80%が、アプリケーション・デリバリーのための再利用可能なサービスやコンポーネント、ツールの社内プロバイダーとしてプラットフォーム・チームを結成する」と予測している。Delroy氏は、開発チームと運用チームの協力にまつわる問題を解決するのに役立つプラクティスだと指摘する。
たとえば、レッドハットが最近、オーストラリアとニュージーランドで営業している大手銀行と協業し、開発者がセルフサービスで利用するOpenShiftプラットフォームを設計した。期間は8か月で、業務を中断することなく移行を完了している。同行ではセルフサービスによってアプリケーションのオンボーディングが加速し、社内チケットや待機時間、作業ミスの件数なども減少したという。
Boyd氏によると、プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsとSRE(サイト信頼性エンジニアリング)を「実にうまくブレンド」してできたものだという。SREはライフサイクル全体というよりも、本番環境のデリバリーと安定性を重視するプラクティスだ。この2つの領域はこれまで非常に異なるものだったのが、プラットフォームエンジニアリングによって両者の優れた融合が可能になった。
結局のところ、プラットフォームエンジニアリングとは、開発者が可能な限り迅速に仕事に取り掛かれるようにするとともに、自社のポリシーを遵守させる適切なガードレールを敷いておくことを可能にするものだという。
「長年使用されてきたモデルやプロセスをどのように完成させられるかが、新しい視点で検討されたことで、さらに効率的で、状況に即した、チームにさらなる効果をもたらすものになったのです」と語った。
プラットフォームエンジニアリングでAIの実用化を支援
生成AIの動きは速い。処理を支えるハードウェアも同様だ。
「私たちは、開発サイクルの改善に大きな可能性があると考えています。これまでには不可能だったレベルの優れた自動化や、データによる優れた意思決定が可能になるかもしれません」とBoyd氏は言う。
一方で、モデルのリリースを急ぎすぎたり、間違った使い方や悪意のある使い方がされたりすれば、データの露出(特に、企業の独自データや機密情報、個人情報)が発生しかねないという懸念もある。
氏によると、プラットフォームエンジニアリングであれば、AIを安全に実用化することが可能だという。目指すのは、スピードを確保しつつ安全な形で技術革新を支え、ワークロードとデータを保護する(それも妥当なコストで)ことだ。また、AIはハイブリッドに展開できなくてはならず(クラウドやオンプレミス、両者が混在した環境などがある)、さらにはモデルを継続的に訓練する必要もある。
「あらゆるアプリケーションに言えることですが、一度デプロイすれば終わりというわけにはいきません」と氏。
AIも同じだ。モデルの本番運用が始まり、アプリケーションで使われるようになったら、保守はどう行うだろうか。バイアスやドリフトはどのように測定すればいいだろうか。
氏によると、長期にわたってデータを監視し、モデルが突然不要なバイアスを導入したり、汚染されたり、偽のデータを与えられたりしていないかを確認できるようなプラットフォームを、「セキュア・バイ・デフォルト」で構築することが重要だという。
SREとDevOpsを1つのプラットフォームに統合すれば、アプリケーションのライフサイクルにわたって必要となる、こうしたプロセスの一元管理が可能となる。導入時にガードレールを確実に設置することもできる。
「プラットフォームエンジニアは、組織を守り、生成AIを安全に使用するための入り口を提供するうえで、本当に重要な役割を果たすことになります」と語った。
プロダクトマネジメントの文化をつくる
ガートナーは、プラットフォームエンジニアリングがどういうものになるかは企業によって異なるとしつつも、概要レベルの有益なアドバイスをいくつか提供している。
通常はIDP(社内開発者ポータル)の構築から始める――厳選されたツールや機能、プロセスを提供するポータルだ――可能な限り成熟したものにするため、特定領域の専門家が選択し、開発者の利便性を考えてパッケージ化する。
Delory氏によると、再利用可能でコンポーザブル、かつ設定変更が可能な各種のコンポーネント、ナレッジや各種サービスを備えたプラットフォームを構築することが肝要だという。また、「プラットフォームを製品として扱う」ようにアドバイスしている。ユーザーと協力して、ユーザーにとって最も価値のある機能やツール、プロセスを明確にし、それらを中心にプラットフォームを構築するのがよいとした。
他にも欠かせないのが、プロダクトマネジメントの文化をつくり、プラットフォームエンジニアとエンドユーザーの間でフィードバックを回して、「安全で生産的な環境で双方向のフィードバックを共有する」ことだとした。
Boyd氏が言うには、結局のところ、AIの時代に企業が――特に大企業が――成功するためには、プラットフォームエンジニアリングが不可欠なのだという。
「新しくフルスタック開発の視点を取り入れるとともに、懸念すべき部分をすべて把握できる、優れた方法です」と氏。「アプリケーションについて、下はハードウェアから上はユーザーの使い方に至るまで、把握することができれば、はるかに効果的にユーザーのニーズに応えられるというものです」と語った。
Platform engineers will be critical to success in the age of AI
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