「5G RedCap/eRedCap」通信モジュール市場、急成長の見込み
IoT向けの新しい通信規格、5G RedCap(Reduced Capability)に対応した製品の開発や導入が進められている。これを受けて、IoT領域の機会が拡大することになりそうだ。米ABIリサーチの予測では、向こう5年間でRedCapモジュール8,000万個が市場に流通するとしている。主な成長ドライバーとなるのは、まもなくリリース予定のeRedCap(enhanced RedCap)だとした。
市場のポテンシャルは高く、クアルコムやメディアテック、UNISOC、ASRマイクロエレクトロニクスといったチップメーカーが関心を寄せている。5G RedCapの魅力となっているのが、低消費電力の5Gユースケースを長く支える規格になりそうな点だ。
同規格は3GPPが5G仕様の一部としてリリースしたもので、5Gネットワークとの相互運用が可能だ。基本的に、4G LTEで使用されるNB-IoTやLTE-Mといった規格の5G版となっている。
使用する帯域幅に規格自体で制限を設けており、Sub6帯で最大20MHz、ミリ波帯で最大100MHzとなっている。このため、送信機を1つ、受信機を1つか2つ搭載した、シンプルで小さなアンテナを設計することが可能だ。5G NRの機能をフルに備えたスマートフォンなどのデバイスはこれと異なり、もっと複雑なMIMOアンテナの設計が必要となる。RedCapであれば必要な電力が少なくなるため、使用できる電力に制約があることの多いエッジデバイスに適した規格となっている。
「5G RedCap規格とは、デバイス側を複雑にしなくてすむように、ネットワークとデバイスの最適な仕様をセットにしたものです。LTE Cat.4やLTE Cat.6の後継として自然な規格になっています」。ABIリサーチのJonathan Budd(ジョナサン・バド)氏がレポートに書いている。「5Gの機能をフルに搭載する必要がないため、IoTデバイスのOEM事業者が同規格を採用すれば、低コストで5Gに移行することが可能です。IoTデバイスの接続に対して中速のLTEカテゴリーが有用であることはすでにわかっています。RedCapはLTEと同等のスループットを発揮し、5G時代になってもネットワークを使用できることが保証されています」
ABIリサーチは、eRedCapと呼ばれるRedCapの新仕様では必要な電力がさらに少なくなるため、普及が進みそうだと予想している。すでに4G LTEの低消費電力通信が定着している分野でも使用でき、2029年までにRedCapモジュール市場全体の71%をeRedCap対応製品が占めるとした。
「LTE Cat.1やLTE Cat.1 bisの代替として、広くIoTの用途全般でデバイス接続に使用できます。チップセットやモジュールのメーカーは、できるだけ早期に顧客のロイヤリティを獲得しようと動くでしょう」
RedCapによる後押しは、IoTモジュール市場の勢いが全体として落ち始めた中でやってきた。ABIリサーチは以前、2023年の同市場が前年比5%縮小したと指摘している。
「5G RedCapへの対応によって、IoT分野でも5Gデバイスの台数が増えることになりそうです」。当時のレポートで、イネーブリングプラットフォーム担当バイスプレジデントのDan Shey(ダン・シェイ)氏が述べている。「5Gサプライヤー界隈による見通しでは、5Gでできること――低遅延であり、位置情報の粒度が細かく、LTEが衰退するのに対して今後有望であること――に納得して、こうした高収益製品に投資する顧客の数は増えていくと考えられています」
RedCapへの関心が高まっていることで、IoTと同様に、その他のエッジ分野も後押しされることになりそうだ。
米調査会社デローログループのリサーチディレクター、Dave Bolan(デイブ・ボラン)氏は今年1月、RedCapの導入が進むことで、MEC(Multi-access Edge Computing)基盤やMECサービスの普及にもつながると指摘した。
「市場では、RedCap NRを搭載したIoTデバイスが導入されることで、MEC市場の成長が加速し、それによってさらに多くの5G IoTデバイスが低価格で市場に流通すると期待されています」
RedCapサービスを整える通信事業者
多くの通信事業者も、RedCapへの取り組みに力を入れ始めている。
たとえば、米AT&Tが最近、5Gネットワークの一部を使用したRedCapサービスを商用化した。デバイスアーキテクチャ担当アシスタント・バイスプレジデントのJason Sikes(ジェイソン・サイクス)氏がSDxCentralの取材に応えている。5G RedCapネットワークははじめ、テキサス州ダラスと「西海岸のいくつかの地域」で提供を開始、いずれは全米で利用できるように拡大していく計画だと説明している。
商用化の際には、ネットワークエコシステム、デバイスエコシステム全体で統合を行なった。
「当社の考え方は、エンドツーエンドで考えなくてはならないというものです」と氏。「つまり、デバイスやチップセット、RANやコアネットワーク、プロビジョニングをどうするか、同社のシステムの中でどう構築するかなど、あらゆる側面を万端に整える必要があるということです。何か新しい技術を取り入れて市場に提供する際には、こうしたことをすべて考慮しなくてはなりません」
初期導入では既存のRANインフラを使用しており、現在構築を進めているオープンRANにいずれは移行する計画だ。
商用サービスを開始するに当たり、RedCap通信用の周波数帯も必要となった。氏によると、AT&Tはまず、FDD(周波数分割二重)方式の850MHz帯でサービスを提供し、「拡大していくにしたがい、必要に応じて追加計画を立てていく」という。
FDDでは通常、チャンネルを上り/下りで均等に分割した固定の帯域幅を使用する。TDD(時分割複信)方式では必要に応じて1つのチャンネルの上り/下り容量を調整することが可能だ。
RedCap担当テックリードのRob Holden(ロブ・ホールデン)氏によると、既存のLTE-Mネットワークに同サービスを追加し、高性能なエッジソリューションを顧客に提供するという。また、IoTやエッジの特定の領域で、長期のロードマップを描くことを可能にするものだとした。
「RedCapの使用がみられるかもしれない例として、警報盤やPOSセキュリティといった類のソリューション、帯域幅が低くてもよいもの、産業用ルーターですとか、そういった類の領域というのが真っ先に挙げられます」と氏。そのほかにも、ボディカメラで、あるいは「IT分野で新しいソリューションが数多く登場して」使用される可能性があるとした。
プライベート5Gネットワークで使われる可能性もある。特定の用途にRedCapデバイスを使用するケースだ。
「プライベートネットワークでRedCapを使ったらぴったりだろうなというケースはありますよ。プライベートネットワーク環境でも、セキュリティやルーティングなど、似た類の用途に使えます。そういったソリューションはプライベートネットワーク環境でもよく機能しなくてはなりません」と氏。「そうした観点からみると、RedCapを使うというのはとても理に適っています」
ユースケースについては、調査会社も産業用無線センサーやウェアラブル端末、スマートグリッドやFWA(固定無線アクセス)で使用する例などを挙げている。
「RedCapはIoTのユースケースすべてに使用できるわけではありませんが、RedCapが発展していく中で、通信事業者がIoTサービスを増やしたり、新しい市場セグメントがいくつも登場したりする可能性があります。価値ある機会と言えるでしょう」。英調査会社アナリシスメイソンのリサーチアナリスト、Stephen Burton(スティーブン・バートン)氏がレポートに書いている。
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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