どうなるHPEのジュニパー買収=Juniper Mistの分離・売却はあるのか

ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)によるジュニパーネットワークスの買収計画に対し、1月30日に米司法省(DOJ)が提訴していたことがわかった。調査会社によれば、一部の事業を売却するよう求められる可能性があり、Juniper Mist事業の評価額に大きな注目が集まることも考えられるという。
訴状では、HPEとジュニパーのWLAN市場における順位が問題だと明確に指摘されている。市場2位と3位のベンダーが統合すれば、選択肢の豊かさやイノベーションの進展が損なわれるとした。HPEはこれに対し、答弁書でこの見解に強く反駁している。
「訴状の主張に反して、本取引は “WLAN企業” の買収を目的とするものではありません」と答弁書にはある。「本取引に関するHPE取締役会の文書や投資家向けに公開したステートメントの中に、この主張を裏付けるものは1つもありません。本取引にはWLANは事業の買収も含まれてはいますが、HPEがおよそ140億ドルを投じてジュニパーを買収するのは米国WLAN市場の競争から身を守るためであるというのはおかしな言い分です。訴状が問題にしているWLANソリューション事業はジュニパーの売上高のわずか11%を占めているに過ぎません。HPEの主な目的が米国WLAN市場で1桁台のシェアを獲得することにあるのであれば、もっと簡単かつ大幅に安価な選択肢が存在します。」
HPEの言い分はこうだ。「本取引の主な目的は、ジュニパーのデータセンター向けルーティング/スイッチング事業をHPEのストレージやコンピュートといった製品と統合することです。ネットワーク市場全体の競争やイノベーションの促進にもなります」。具体的には、市場大手のシスコに対する競争力が増すこと、国際市場で中国のファーウェイに代わる選択肢になれることを挙げた。
この主張について、ブルームバーグ・インテリジェンスで独占禁止法訴訟を担当している上級訴訟アナリストのJennifer Rie(ジェニファー・リー)氏が見解を述べている。現在のところは疑問のある内容だと考えているという。
「HPEはこれまでのところ、事業売却の提案を全くしていません。Juniper Mistを獲得することが目的ではないのなら、ArubaかMistの売却を提案すればいいのです。それをしていません」と氏。「私から見ると、どちらかの売却を提案すれば、問題はすべて解決し、話が終わる可能性があるように思われます。HPEはそうしていないし、今のところその計画があるようにも見えません。この先そうするということはもしかしたらあるのかもしれません。」
HPEにとってJuniper Mistの売却は理にかなった選択肢なのか
司法省がWLAN市場の件にこだわるようなら、Mist事業が犠牲になる可能性はある。
Rie氏の同僚で、ブルームバーグ・インテリジェンスの上級業界アナリストを務めるWoo Jin Ho(ウ・ジンホ)氏の指摘によると、Mist事業が「争いの大きな原因」となり、買収が進まなくなる事態も考えられるという。
「HPEはデータセンター向けスイッチング事業、それも優れた事業を必要としています。そういう企業は多くはありません」と氏。「データセンター向けのスイッチング/ルーティング事業を探すとなると、選択肢はきわめて限られたものになってきます」
具体的には、シスコ、ノキア、ジュニパーといった企業になるという。仮想ルーター市場に関しては、「HPEが参入を進めている領域ですが、DriveNetsのような類似の企業であれば買収することはできるかもしれません。とはいえ、補足的な買収にとどまる選択にはなるでしょう」と語った。
「データセンター向けスイッチング事業であれば、(ジュニパーに)PTX、QFXといった製品があります」と氏。「ジュニパーの直近の決算報告書を読みましたが、書かれていたこととしては、要するにクラウド事業が200%成長したということでした。『価値はここにあるのだ』と主張することは可能です。HPEはサーバーやストレージの売上を促進しようとしているわけですし、AIの時代ですからなおさらです」
Mist事業を除いたとしても、ジュニパーの買収に対するHPEの関心は変わらないのだろうか。多くの人はそう考えている。
「Wi-Fi事業を除外したとしても、HPEにとっては価値のある買収になるだろうと思います。エンタープライズデータセンター向け事業の大きな空白を埋め、AIや従来型のサーバー、ストレージといった部門の補完になるためです」。Jin Ho氏が調査レポートに書いている。「同市場の規模は約220億ドルで、ジュニパーのシェアは3~4%にすぎませんが、ティア2のクラウド事業者と協力して攻勢をかけています。データセンター向けの(第3四半期)売上高は44%も成長し、クラウド向けの売上高も30%増、クラウド関連の受注は3桁増となりました」
氏は次のような予測も述べている。「当社の概算ですが、残りの事業の調整後評価額は100億ドルから110億ドル程度になるかもしれません」
Mist事業はどうなるのか
HPEがこの方針で進めた場合、ジュニパーを離れたMist事業への関心が一気に高まる可能性もある。
Mistはそもそも、ジュニパーが2019年にMist Systemsを4億500万ドルで買収し、運営してきた事業だ。Jin Ho氏の計算では、現在の評価額は40億ドル近くになる。ジュニパーの成長の中心を担ってきた事業と言っていい。
米調査会社ガートナーが昨年発表したエンタープライズ向け有線・無線LANインフラ市場のレポートでは、ジュニパーが「リーダー」企業の1社にランクインした。Juniper Mistが評価されたもので、ガートナーは賛辞を述べている。
「ジュニパーは世界中にさまざまな分野の顧客基盤を持っています。特に力を入れているのが一般企業市場であり、小売、教育、行政、医療・介護です」。レポートにはこのように書かれている。「AIOpsとMLOpsの統合、クラウドベースのセキュリティにも投資を続けています。当社としては、生成AIの統合と自然言語処理インターフェイスの強化にも投資するだろうと予想しています」
米調査会社デローログループもWLAN市場のリーダー企業にジュニパーを挙げている。同社もJuniper Mistの顧客基盤に焦点を当てた。
「市場で聞かれる声からすると、Juniper Mistはとても共感を呼んでいるようです」。リサーチディレクターのSiân Morgan(シャン・モーガン)氏がSDxCentralの取材で述べている。「各社の話では、注目すべきソリューションだということです。ジュニパーは機能面を含め、素晴らしいマーケティングをしました。最高の顧客に名乗り出てもらい、どのように業務が一変したのかを話してもらっています」
Mist事業は単体でもかなりの注目を集めることになりそうだ。Jon Ho氏が見解を語った。
「Mistの買収には相当な価格を付けなくてはならないでしょう。HPEがとても欲しがっている得がたい事業だとなれば、理由は何だろう、HPEが全力でMistを獲得しようと戦っているのは何故だろう、と誰もが目を開かれることになります」と氏。「そこには何かがあるはずです」
また、関心を示す競合はいくつも登場する可能性があるという。
「明らかな動きとして、ネットワークセキュリティの企業がネットワーキング分野への進出を目指しているということがあります。いずれもパロアルトが売り込んでいるような一種のプラットフォーム事業をやりたいと考えているのですが、そうした企業はネットワーキング市場での存在感が強いわけではありません」と氏。「もしMist事業が選択肢としてテーブルに載るようであれば、買収を申し出るところはあるでしょう」
HPEはジュニパーの買収を成立させるためであればとMistの売却を考えるだろうか。数十億ドルが動く問題だ。
米社債調査会社ギミー・クレジットのシニアアナリスト、Dave Novosel(デイヴ・ノヴォセル)氏は次のように述べている。「私の感覚では、HPEは変わらず買収を完了させたいと考えているように思います。そうだとすると、問題はHPEが何らかの条件に従う必要があるかもしれないこと、その場合にその条件を受け入れるのかどうかを決めなくてはならないということです」

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

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