GSMAの共通API構想「Open Gateway」=次の展開へ
通信事業者の共通API構想「GSMA Open Gateway」が大きく前進している。通信のエコシステムとクラウドエコシステムの間で統合を目指す取り組みだ。実現すれば、通信事業者は5Gに投下した多額の資本から、もっと収益を生み出すことが可能になる。とはいえ、それまでには道のりがまだあることも確かだ。
業界団体のGSMAは、2023年に開催した「MWCバルセロナ」でこの構想を発表した。通信業界のネットワークAPIを標準化し、開発者やアプリケーションコミュニティに提供することで、相互の関わりによる収益化のあり方を簡素化しようというものだ。
Open Gatewayでは、共通のNorthbound APIを使用し、モバイル事業者が提供するネットワーク関連機能を「一貫性と相互運用性を確保した、フェデレーション」の中で提供する。このプロジェクトは、「SIM Swap」「QoD」「Device Status」「Number Verification」「Edge Site Selection and Routing」「2FA」「Carrier Billing」を含む8つのAPIで開始された。
同構想の基になったのが、GSMAが2022年早期にLinux Foundationと共同で立ち上げた、オープンソースプロジェクトの「Camara」だ。8種類のOpen Gateway APIは、Camaraで定義、開発、公開されたものだった。Open Gatewayプロジェクトはその後、17種類のAPIをリリース。さらに11種類がCamaraで利用可能になっている。
Open Gateway構想の立ち上げ時には、米AT&Tやインドのバーティ・エアテル、チャイナ・モバイル(中国移動)、ドイツテレコム、米ベライゾン、英ボーダフォンといった世界の大手通信企業など、20社を超える企業が支持を表明している。また、Amazon Web Services(AWS)やマイクロソフトなど、クラウドエコシステムの最大手もほとんどが前向きなコメントを寄せた。
GSMAでネットワーク部門責任者を務めるHenry Calvert(ヘンリー・カルバート)氏は、同構想について、「まれにみる、素晴らしい受け入れ方」をされている、と述べている。とりわけ通信やクラウド、アグリゲーターといった界隈から強く支持されているとした。53の通信事業者グループ(モバイルネットワークの数では合計247個、世界のモバイル市場のシェア67%に相当)、16のチャネルパートナー(アグリゲーターやリセラー、(Amazon Web Servicesや)Azureといったマーケットプレイス事業者)から支持を受けているという。
Calvert氏の説明によると、通信事業者がクラウドエコシステムに倣った形で事業を成功させたいと考えるなら、また、(さらに大事なことだが)そうしたクラウドエコシステムの有望なパートナーになりたいのなら、以下の実現をめざして進展していくことが重要になるという。すなわち、クラウドネイティブなアーキテクチャによってネットワークをさらにプログラマブルにすること、自社の顧客にサービスを提供しているハイパースケーラーのニーズに応えることだ。
ハイパースケーラーからの支持があるというのは、そうした進展をしていくうえで重要になる要素だ。Calvert氏は、ハイパースケーラー各社がプロジェクトに参加までしているという事実について、「私にとってもうれしい話です」と述べている。
「Azureなどは、モビリティアクセスであるとか、そういったことについても言及してくれました。私たちは素晴らしい仕事をしたのではないかと思います」と語った。
お金が回る、円滑な機構へ
とはいえ、こうした成り行きは、GSMAにも、広くエコシステムにとっても、この機会を無駄にしてはいけないというプレッシャーにもなっている。過去にも同じように、通信事業者が参加して集産化を進める取り組みは存在したものの、市場を引っ張り続けることはできなかった。GSMAはその事実から目を背けてはいない。
「今回、業界全体で進めているAPI戦略が最終的にどの程度の効果を発揮することになるかは、広くディストリビューションパートナーに参加していただけるかにかかっています。特に大事なのが、ハイパースケーラーと、Open Gatewayアグリゲーター(複数の通信事業者、複数の開発者の間を接続するサービスを提供するパートナー)の参加です」。GSMAのアナリスト部門、GSMA Intelligenceがレポートを最近発表し、上記のように書いている。「こうした企業は開発者やマーケティングチャネルをすでに多数抱えています。通信事業者が自社のネットワークを大きく収益化するのに必要となる要素です。こうした企業のほとんどは、GSMA Open Gatewayについて、自社のチャネルにさらなるAPI資産が加わることから、Win-Winになると考えてくれています。ですが、それが当たり前だと考えてはいけません。開発者に対してOpen Gatewayのバリュープロポジションを紹介するとなれば、労力をかけてメッセージを伝える必要があるからです」
Calvert氏は、歴史を繰り返さないためには、通信事業者がクラウドエコシステムと協力していくことが重要だと述べている。
「この辺りに関しては、ハイパースケーラーの領分です。もし摩擦をなくせていなければ、そうと教えてくれるでしょう。彼らは摩擦のないエクスペリエンスを求めているからです」と氏。「それを事業にしている人たちですから、彼らと協力していくことが非常に大事だと思うのです。何が妨げになっているのかを教えてくれるでしょう」
「供給側」を「円滑な機構」にするためにも、パートナーシップは重要だと語った。
調査会社IDCは最近、世界の通信ネットワークAPI市場が2028年までに67億ドル規模に達するという予測を発表した。昨年の7億ドルの売上高を基に計算すると、年平均成長率は57.1%という相当な数字になる。成長の要因となるのは、通信ネットワークが高価値セグメントの要求に見合った、デジタルおよびプラットフォームベースのさらなる機能を実現する方向にますます変化していくことだという。
また、こうした機会が見込まれることから、通信サービスプロバイダーには、これまで収益機会の大半を獲得してきた、技術的に高度で、焦点を絞った業界セグメントに対し、もっと積極的な位置取りをしていかなくてはならないというプレッシャーもかかっているという。
「通信業界ではこれまでにもAPIの収益化に関する取り組みがありましたが、成果はかんばしくないものでした。今回の革新的なネットワークAPIへの取り組みについては、主要な通信サービスプロバイダーすべてが支持しており、ハイパースケールクラウドプロバイダーやおもだった(CPaaS)事業者など、重要なAPIアグリゲーターからも世界的に支持されています」。IDCでIoT/通信ネットワークインフラ担当リサーチマネージャーを務めるPatrick Filkins(パトリック・フィルキンス)氏がレポートで述べている。「とはいえ、こうした取り組みが長期的な成功を収めるかは、広い意味でのエコシステムに大きく左右されるでしょう。顧客への教育や導入に必要なバリュープロポジションを生み出すことができる、APIアグリゲーターやシステムインテグレーターにかかっています」
英ジュニパーリサーチが最近発表したレポートでも、IDCと同様の数字が予測されている。同社の予測では、通信事業者が5Gネットワークを最大限に活用したいのであれば、APIやIoTに関する企業の取り組みを支持することが必要だとしている。こうした取り組みの結果、2024年の世界の通信市場は9,000億ドルに達するとした。
具体的には、オープンソースのCamaraプロジェクトに準拠したクラウド技術の利用、GSMA Open Gatewayに関する業界全体での取り組みについて触れている。
Open Gatewayについて、企業に伝える必要性
とはいえ、こうした数字が達成されるためには、Open Gatewayコミュニティが需要を喚起する必要がある。Calvert氏によると、それにはさまざまな業種の顧客にプログラムの利点を伝えることが重要になるという。
「まだ、企業各社に十分にご理解いただいているとは言えません。これは私がすべきことです。もっとたくさん話をさせていただかなくては」と氏。Open Gatewayが供給側の取り組みを進めていくなかで、この点がボトルネックになりかねないと指摘した。「供給側の機構がすっかり円滑に機能するようになった際には、企業様にぜひ実際に本格的な利用を始めていただき、市場にどんな価値を生み出しているかという話をしてもらいたいというのが私たちの願いです」
GSMAは拡大に取り組む中で、さらなるチャネルパートナーへの働きかけも行っている。「それが開発者までの距離を1歩縮めることになる」ためだ。
Calvert氏によると、Open GatewayのユースケースをFinTech(フィンテック)市場がいち早く採用した一方で、GSMAは向こう6か月から12か月をさらに多くのチャネルパートナーとのコミュニケーションに費やす予定だという。
「MWCだけでなく、他のイベントでもお伝えしたり、交流を広げたりしようとしています」と氏。「来年は、全体を通して開発者を中心とした年になるでしょう。業界の需要をどのように生み出すか。eコマースやモビリティといったセクターの人を集めて、「何が必要ですか。ネットワークのプログラミングをどんなやり方でしたいですか」と聞くにはどうするのがいいだろうか、といったことに取り組みます。開発者がほしいものは何か、何が欠かせないもので、何が必要なのか、どんな問題点があるか、何ができなくてはならないのか、ということを実際に言ってもらいます。2025年に予定している、次に集中して取り組む内容はそういったものになります。その後は、仕様および標準の策定を実際に始められるようになり、CamaraやTMForumと、GSMAが協力して推進していくことになるでしょう」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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