人工知能(AI)
文:Dan Meyer

AIがオープンソース領域の推進力に=インテルの取り組み

AIがオープンソース領域の推進力に=インテルの取り組み

近年はインテルの苦闘が続き、半導体エコシステムの競争の激しさが浮き彫りになっている。とはいえ、長期にわたってオープンソースの理念を掲げ、競合との深いレベルでの協力を可能にしてきたインテルが、そうした姿勢を貫くことをためらう様子はない。AIを活用した開発の波にオープンソース領域も乗る中で、インテルと競合による取り組みはますます的を絞ったものになってきている。

同社のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、Melissa Evers(メリッサ・エヴァーズ)氏が SDxCentralの取材に応えた。直近のオープンソース関連の取り組みの中に、Linux Foundation傘下の「OPEA(Open Platform for Enterprise AI)プロジェクト」を通じて進めているものがあるという。同プロジェクトの目的は、生成AIシステムのコンポーザブルな構成要素、たとえばLLMやデータストア、プロンプトエンジンなどをオープンソースのフレームワークで提供することだ。

「生成AIの領域で嵐のような進展が起きていますが、過去にオープンソースで起きたのとよく似た現象だと思います。新しい手法がすごい速さで次々に登場し、人々は息もつけなくなっているのです」と氏。「多くの技術が登場する中で、内容が複雑だったり技術の進歩が速すぎたりして、導入や採用が進めにくくなっています」

特に、新しいモデルや新しいベクトルデータベースプロジェクト、新しいAPIが登場するペースが速くなっているという。

「顧客と接する中で当社が見聞きしているのは、進歩が速い以外にも、生成AIのRAG(検索拡張生成)パイプラインを構築する技術の複雑さというのが挑戦的な水準で、多くの顧客はそうしたレベルの専門性を持ち合わせていないということです」と氏。「人材を確保するのは難しく、費用もかかります。また、何かを作ったとしても、すぐに陳腐化するリスクもあります」

氏によると、OPEAはかなり「一般的な実装」向けでありながらも、他の使い方もできるようになっており、「(通常よりも)複雑で、細かな違いを反映すべき点が多くありうる」ような「特定の業種」をターゲットとすることも可能だという。

たとえば、医療分野の用途で(データの)プライバシーやセキュリティに関わるもの、産業分野の用途で視覚データとテキストデータを統合し、溶け込ませるものなどがあるとした。

「オープンソースエコシステムでは、サービス市場、あるいは垂直市場に向けて、さらに興味深い手法が登場したり、改良がされていったりするだろうと考えています」

とはいえ、それらをまとまりのある取り組みとしていけるような、適切なオープンソース基盤は欠けているかもしれない。Evers氏は、似たような取り組みが行われている例として、「EdgeX Foundryプロジェクト」が小売業向けに進めているものと、(OPEAが進めている)AIのRAGパイプライン用のフレームワークに関する取り組みを挙げた。

「この2つを合併すれば、とても興味深いユースケースを検討できるかもしれません。さまざまな工程で、RAGプロセスですとか、あるいはビジョンモデルを組み込んだRAGパイプラインを活用し、改良を図るというものです」

オープンソースコミュニティではこれまでにも、ますます複雑化するプロジェクト構成を簡素化すべく、こうした類の合併が行われている。

OpenSSFに対するインテルの見方

インテルは、「OpenSSF(Open Source Security Foundation)」に関しては長期的な視点で考えている。OpenSSFとは、Linux Foundationが2020年に設立した団体で、特定のエコシステムやベンダーに偏らない、オープンソースアプリケーション開発のためのセキュリティツール/セキュリティプラクティスの開発に注力しているグループだ。

「OpenSSFへの関わり方については、長い目で考えています」。Evers氏が同団体に関する取り組みについても説明した。OpenSSFの理事会にはインテルの従業員も参加しているという。安全なサプライチェーンの確立に向けて取り組んでいるとアピールした。「開発のためのフレームワークを作るだけでなく、さまざまな政府機関とも関わり、オープンソースセキュリティが担う役割を世界中で促進しています」

インテルのオープンソースセキュリティ担当ディレクター、Ryan Ware(ライアン・ウェア)氏が最近、OpenSSFスコアカードを使った取り組みについてブログ記事を執筆している。オープンソースとなると、潜在的にどんな課題があるのかを取り上げた。

「インテルのオープンソースエコシステムは規模が大きく、リポジトリ上でOpenSSFスコアカードを走らせればよいというような簡単な話にはなりません。想像よりはるかに挑戦的な仕事になる可能性があります」。Ware氏が課題の1つに挙げている。「インテルでは他にも、GitHubチームを数多く抱えており、各リポジトリの差異や独自性を把握しておくことも課題となっています」

AI領域での協調と信頼性のためのオープンソース

こうした差異が、AI領域ではますます複雑多岐になってきている。OPEAのような取り組みで、深いレベルの協力が必要になるとしているのはそのためだ。

Evers氏の説明によると、インテルがこの領域で進めている共同取り組みの多くは次世代ワークロードに関するものだという。AIワークロードに関する取り組みもあれば、「GPUレベルで従来よりも粒度の細かいテレメトリを取得できるようにする」取り組みもある。インテルのGPU、AMDやNVIDIAのGPU、どれを使用している場合でも必要なことだ。

そうした競合とは、下流市場に向けた取り組みも進めている。強固なオープンソース基盤を用意し、下流の開発者がそれを利用して、上流側が提供する差別化されたリソースをエンドユーザーに提供できるようにするというものだ。

「さらに1歩進めて、上流側の企業の間では、こういうことができるようにしようとしています。下流で使用された際に、私たちのチップが持っている価値を人々が確実に引き出せるようにしたい。オープンソースですから、透明性をもってこれを行います」と氏。「また、こうしたことは、各社が自社の製品で何ができるのかをさらに差別化していくために行っていることでもあります」

AIに関するオープンソースのこうした取り組みは、重要な時期に進められていると言える。市場ではAIの機会を巡るバブルが続いているほか、ハードウェアスタックの最下層にAIの信頼性と安全性の基礎となる要素を組み込む必要性がますます取り沙汰されている状況だ。

「AI領域の信頼性ということに関しては、業界としてもインテルとしても、課題に直面しているのは確かで、あれこれの課題が見つかっては対応しているという状況があります。当社にはこうしたオープンエコシステムの今後において果たすべき役割、責任があると思っていますし、人々がエコシステムのもたらす力を確実に活用し、それをもとに構築ができるようにすることについてもそれは同じだと考えています。私たちは、業界が直面している課題、システム全体に関わるこうした懸念や課題のいくつかに対し、積極的な取り組みを進めています」

AI a big driver of Intel’s open-source efforts

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
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