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文:Dan Meyer

米通信大手はエンタープライズ市場の競争に挑むのか=各社の取り組み

米通信大手はエンタープライズ市場の競争に挑むのか=各社の取り組み

通信事業者から見たエンタープライズ分野のTAM(獲得可能な最大市場規模)は4,000億ドルに上ると言われている。とはいえ、市場シェアを得るには、ハイパースケーラーやセキュリティ企業、ネットワーク企業といった手ごわい競合との戦いに備える必要がありそうだ。

上記は業界団体GSMAのアナリスト部門、「GSMA Intelligence」が発表した最新レポートに書かれている内容だ。同レポートでは、「(通信事業者は)コネクティビティを中心としたソリューションやサービスの枠にとどまらず、もっと広い視野で機会を捉える必要がある」と指摘している。2023年は通信事業者によるエンタープライズ市場の売上高のうち、SD-WANやユニファイドコミュニケーション、モバイル音声/データサービスといった「中核的な」サービスが70%を占めた一方で、こうしたサービスの2020年代の年平均成長率(CAGR)は3%になると予測している。

「短期的には、ネットワークスライシングやプライベートネットワークといった高度なネットワークソリューションの提供にもっと重点を置き、長期的にはエンドツーエンドのソリューションを発展させて、エンタープライズ領域のさまざまなユースケースを支えていくことを重視する必要があります」。GSMA Intelligenceのリサーチ責任者、Tim Ratt(ティム・ラット)氏が書いている。「企業がますます求めているのは、自社のIT環境や事業上のニーズに合わせて、さまざまな技術をインテグレーションしてくれるサービス事業者です。競争は熾烈ですが、通信会社が持っている資産や能力を活かせば、(エンタープライズ市場という)兆ドル規模の市場のうち、3分の1以上の領域に参加することが可能です」

熾烈な競争をする相手となるのは、さまざまな分野の事業者だ。レポートでは、従来の通信業界の競合、機器ベンダー、ハイパースケーラー、セキュリティベンダーなどを挙げている。

「実際、通信事業者の24%がハイパースケーラーはエッジネットワーキングやクラウド分野の手ごわい競合になると考えています。また、41%がセキュリティ分野の主な競争相手はセキュリティベンダーだと考えています」と述べている。

競争環境については、調査会社も同様の見方をしている。

米テクノロジー・ビジネス・リサーチが最近発表したレポートでは、ハイパースケーラーが今後、「(AIを重視するなど)分散コンピューティングのユースケースで利益を上げていくことに力を入れる」と予測している。

米不動産コンサルティング会社JLLの国内データセンター市場担当マネージングディレクター、Andy Cvengros(アンディ・スヴィングロウス)氏も同じ見解だ。SDxCentralの取材に対し、そうした大規模事業者が事業拡大能力を強化していると語った。

「いろいろなものが大手グループのもとに集約されていくでしょう。そうするだけの資金力があるからです」と氏。「データセンターのスペースを調達するのも、必ずしもユーザー自身で行う必要のないことなので、大手グループのサービスで提供されることになるのではないでしょうか。Oracleのサービスに登場するかもしれないし、Microsoftかもしれないし、あるいはAWSかもしれません。(中略)ある特定の市場ではAWSのクラウドエッジサービスを利用するですとか、Cloud on Rampなどについてもそうですが、自社で行うよりもそういう風になりそうだと考えています」

エンタープライズ市場の特徴―通信事業者はどう考えるべきか

調査会社GlobalDataが最近レポートを発表した。通信事業者は収益性の高いエンタープライズ市場に対してもっと水平的な捉え方をして、中核としているネットワーク資産を活かすべきだとしている。

過去に通信事業者がエンタープライズ分野の垂直市場を果敢に狙ったケースでは、特定の市場への参入にリソースを集中しきれずに、失意の結果に終わっているという。分野によってはサードパーティと提携して成功した例もあるが、リサーチディレクターのGary Barton(ゲイリー・バートン)氏は、「往々にして、成功というのはある業種に深く関わるよりも、日和見主義によって築かれたりするものです」と書いている。

「特定の業界で使用されるIoTなどのポイントソリューションや、共同開発のソリューションが成功した例はありますが、それが慣例になることはなく、例外的な事例にとどまっています」。プリンシパルアナリストのRobert Pritchard(ロバート・プリチャード)氏も補足している。

Barton氏の説明によると、ある業種の中でもセグメント(GlobalDataでは「サブバーティカル(下位分類の業種)」と呼んでいる)ごとに動きは異なるが、それぞれの特殊な購入パターンを通信事業者が理解しておらず、それが原因でつまずくケースがよく見られるという。エンタープライズ市場に関しては、他の分野とは別の見方で考えることが必要だ。

「そうした非常に細かな差異のあるニーズに対し、すべてに対応できるほど通信事業者が理解を深めるというのは現実的ではありません」と氏。「また、そのようなことをすれば、ますます少数の企業をターゲットにすることになり、結果としてTAM(獲得可能な最大市場規模)が縮小したり、市場開拓費用が過剰になったりするでしょう」

通信事業者はむしろ、今後もネットワークをベースとしたサービスに集中すべきだという。エンタープライズ市場全体の水平的なニーズを満たせるためだ。ある業種のエキスパートと目されることを目指すほどわくわくするようなアプローチではないが、そうすれば多くの機会があるとした。

「通信事業者が提供できる中核的な能力は、コネクティビティとネットワーキングにあります。もとより水平的な事業です。あらゆる種類の企業と協力するわけですから、垂直市場の専門性を持つというのは難しいでしょう。そうした弱みはありますが、一方で、これほど広く訴求できるというのは強みでもあります。通信事業者が販売しているソリューションはほとんどすべての企業が必要としているものです。課題となるのはメッセージの伝え方で、自社のソリューションがもたらす事業上のメリットを中心に、(ターゲットごとに)伝え方を細かく変えていくことでしょう」

通信事業者の反応

通信事業者各社も注目している。

10月に開催されたMWCラスベガスの基調講演に、TモバイルUSのテクノロジー担当プレジデント、Ulf Ewaldsson(ウルフ・エヴァルドソン)氏が登壇した。その席上、同社がエンタープライズ市場への進出を進めるうえで、5Gネットワークとその基盤を支える5GCが重要な推進力になるとアピールしている。

具体的にはネットワークスライシングなどを挙げ、同社が最近立ち上げたファーストレスポンダー向けの「T-Priority」や、プライベート5Gネットワークの提供を支えているサービスだと語った。

「(5Gによって)当社のエンタープライズ市場は今までにない形で活性化しています」と氏。「以前はスマートフォンで競争していましたが、一転して、国中の企業経営幹部と戦略的にかかわり、コネクティビティに関する差し迫った課題の解決に取り組むようになりました」

ベライゾンのHans Vestberg(ハンス・ベストベリ)CEOも、同様の方針を述べている。

「5Gのユースケースに関しては、プライベートネットワークについて議論することが多くなってきています。数は増えましたが、そこから得られる利益はまだかなり小さいためです」と今年の決算説明会で話している。「ですが、プライベートネットワークの基盤やエンタープライズ向けのマネージドスペクトラム(サービス)を構築していれば、いずれ営業部隊がモバイルエッジコンピューティング(MEC)を追加でご紹介できるという大きな機会となります」

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Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
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