米AT&T、ASTスペースモバイルの衛星通信サービスと正式契約
米通信大手AT&Tが15日、米ASTスペースモバイルとの正式契約を発表した。衛星通信によるブロードバンドネットワーク接続をAT&Tのスマートフォンに提供するプランを開始する。
今回締結した「正式な商業契約」では、ASTスペースモバイルが間もなく打ち上げる商業衛星をAT&Tが利用、標準的なAT&T端末にブロードバンド接続を提供できるようになる。契約期間は2030年までとなっている。
ASTスペースモバイルは今夏、最初の商業衛星を低軌道(LEO)に打ち上げる予定だ。最終的に5基の衛星を軌道に乗せる計画だという。これらの衛星では、AT&Tが同社にリースしているローバンドの周波数を使用する。従来から使われており、標準的なモバイル端末が対応しているセルラー用の周波数帯域だ。
「宇宙からモバイル端末への直接通信(Direct-to-Mobile、D2M)は、当社の既存のモバイルネットワークと統合、補完することで、ユーザーに接続を提供するものです」。AT&TのCOO(最高執行責任者)、Jeff McElfresh(ジェフ・マッケルフレッシュ)氏が述べている。「今回の契約は、当社が業界をリードしていくうえで新たな1歩となります。近年注目を集めている衛星技術を利用して、これまで接続を提供するのが難しかった場所にもユーザー向けのサービスを提供いたします」
AT&Tが長年温めてきた衛星計画
AT&TはASTと長期リース契約を締結、ASTはAT&Tサービスのための周波数資産を利用することが可能となる。AT&TがFCCに提出した書類には、既存のサービスにASTのサービスをスムーズに統合することが可能になると書かれている。
「ASTは、貸与された周波数に接続しているAT&Tユーザーの携帯電話に直接ブロードバンドアクセスを提供する計画です。改修や特殊なチップセットの使用は不要で、地上無線インフラの追加・増築も不要です」と同文書にはある(SDxCentralが取材で取得)。「これにより、AT&Tは、免許エリア内で宇宙通信によるブロードバンドカバレッジを提供することが可能になる見込みです。自然災害発生後の一時的なサービス提供エリアも対象に含まれます」
両社は昨年、試験衛星「BlueWalker 3」と改造していないスマートフォン2台を接続、5G接続での音声通話サービス、データ通信サービス試験に成功した。同試験では「3GPP Release 16」仕様に基づく5G技術を使用している。
別の試験では、AT&T、ASTスペースモバイル、ボーダフォン、ノキアが協働、衛星と地上端末間の5G接続でダウンロード速度14Mbpsを達成している。以前に4G LTE接続で達成した10Mbpsを上回る結果となった。
速度の水準は重要だ。衛星通信によるブロードバンド接続の性能が向上するためで、特に、衛星通信はデジタルデバイド(情報格差)の解消や、SD-WANサービスのような高スループットの企業用途に役立てたいという理由で注目されている。また、速度を確保できれば、従来の携帯電話事業者が衛星システムを利用して5Gのカバレッジを拡大できる可能性もさらに広がる。
今回の契約を受けて、ASTスペースモバイルの取締役会に、AT&Tで現在ネットワーク責任者を務めているChris Sambar(クリス・サンバー)氏が加わることになっている。
ASTスペースモバイルの勢いが加速
AT&Tとの提携拡大には、ASTスペースモバイルにとっても大きな意味がある。
低軌道衛星コンステレーションは通常、高度1,000km未満の比較的地球に近い位置で運用するもので、地球周回軌道を約90分で1周することができる。このため、中軌道(MEO)で運用する衛星と比較すると、遅延を抑えることが可能だ。
ASTスペースモバイルが参入している宇宙分野には、大手のスペースXをはじめとする競合がひしめき、競争が激化している。スペースXはD2C(Direct to Cell)サービスの構築を続行しているところで、何十もの新しいスターリンク衛星の打ち上げを続けている。同サービスはすでに、米T-Mobile、カナダのRogers、日本のKDDI、オーストラリアのOptus、ニュージーランドのOne NZ、スイスのSalt、チリ、ペルーのEntelなどの通信事業者と契約を結んでいる。
市場予測については、D2D(Direct-to-Device)市場の売上高が2032年までに500億ドルを突破するという予測を英調査会社アナリシス・メイソン(Analysys Mason)が出している。米ABIリサーチの予測はさらに強気で、2030年までに衛星通信市場全体のサービス売上高が1,246億ドルに達する可能性があるという。IoT、バックホール、商用ブロードバンド、モバイル衛星通信などのサービスに商機があるとしている。
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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