HPEは機会を活かせるか=ジュニパー統合で

ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が140億ドルを投じたジュニパーネットワークスの買収を進めている件で、短期的・長期的な影響を分析しようとする議論が業界観測筋の間で活発に行われている。買収が完了に向けて進んでいけば、議論はさらに大きくなっていきそうだ。
議論の多くは、買収後に製品・サービスポートフォリオがどのようなものになるかに集中している。両社の事業が新たに強化されたとして、顧客企業にとってはポートフォリオの内容次第でどういう方針を取るかが変わってくるためだ。
既存の製品・サービスについては、HPEとジュニパーでどのくらい重複があるのか、今後も引き続き提供されるのかが懸念されている。顧客の意思決定に影響しうる問題だが、両社の経営陣はこの問題をたいしたことはないかのように扱っている。
「この点について明確にしておきましょう。本買収に乗り出した目的は、製品をなくすことではなく、サービス事業者様やクラウド事業者様、あるいはエンタープライズ領域のお客様など、あらゆるお客様に対し、さらに充実した選択肢、さらなるイノベーションを提供することです」。買収発表から間もない時期にジュニパーが公開したRami Rahim(ラミ・ラヒム)CEOのブログ記事には、このように書かれている。
アナリストの間では、うまく行くのか賛否両論があるが、もろ手を挙げて見込みがあると支持する人もいる。
米調査会社Moor Insights & Strategyのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト、Will Townsend(ウィル・タウンゼンド)氏がSDxCentralの取材に応じた。両社のプラットフォーム製品に大きな重複は見られず、近く提供が止まることもないと考えているという。
「データセンター向けやキャンパス向け、ブランチネットワーク向けのポートフォリオを見てみると、実際かなり補完的なものになっています」と氏。「(HPE)Arubaはデータセンター向け市場に強い企業ではありません。はじめに米Pensandoと提携してToRスイッチを市場投入した頃は、ちょっと参入してみたというようなものだったとも言えるでしょう。データセンター向けについてはジュニパーがなかなかの手腕を持っていますから、うまく合っていると思います」
また、両社の経営陣は「顧客の立場から見た時に、ほとんど重複はない」としているという。「その言葉を信じるしかありません。取引がまとまれば全容が明らかになり、もっと多くのことがわかるようになるでしょう」
とはいえ、製品の間引きがされないということではない。Townsend氏は、プラットフォーム製品がいきなり役目を終えることはないだろうと予想を述べる一方で、「ロードマップにはまちがいなく何らかの合理化が織り込まれます」と語った。キャンパス向け、ブランチネットワーク向けのプラットフォーム製品を統合し、AIを強化したものになる可能性が高いという。
「Aruba Centralはとても強力な製品です。AIに関しては、Mistが本当に強い」と氏。「これはただの茶葉占いみたいなものですが、私としては(中略)、抜け目なくやるのであれば、CentralでやっていたこととMist AI、それにAIアシスタントのMarvisを組み合わせて、ソフトウェアスタックを融合させるのではないかと思います」
Townsend氏はさらに、次のようにも話している。「アクセスポイントやルーターの類についても何らかの意思決定がされるでしょう。ブランディングをするでしょうし、ロードマップのような形で合理化や統合をするだろうと思います。まあ、なんとかなるでしょう。もし、キャンパス向け、ブランチ向け、データセンター向けの各分野に両社ともめっぽう強かったとしたら心配していただろうと思いますが、心配ないと思います」
「同業者の中には単なる市場シェアの統合だという人もいますが、私は賛同しません」と氏。「HPEにとって、ジュニパーが持っているMistとAIの価値が非常に重要であることは明らかです」
HPEとジュニパーがどう進めるかが鍵
米調査会社デローログループのリサーチディレクター、Siân Morgan(シャン・モーガン)氏も同じ見方をしている。「両社にとって素晴らしい機会です」と語った。
「エンタープライズ向けに関しては、市場の断片化が進んでいます。この買収案件についても、競争という面での問題は見当たりません。市場が非常に細かく分かれているためです」と氏。「大きな機会になると思います」
氏によると、HPEがグローバルな販売チャネルを持っている一方で、「ジュニパーにはそれがなく、事業の展開を妨げる足かせになっていた」という。また、HPEはサーバーとストレージ、データセンター向け市場に強みがあり、ジュニパーがサービス事業者向けやクラウド市場、AIで地位を築いているのと「素晴らしく補完的」な関係だとした。
とはいえ、エンタープライズスイッチやキャンパス市場に関しては、Morgan氏もTownsend氏と同じく、統合するのは簡単ではないかもしれないと述べている。
「一部の製品に大きな重複があります。今後どうしていくのかを慎重に検討し、難しい決断を下さなければならないでしょう。何かを減らさないことには複雑になってしまいますし、顧客を混乱させることになります」と氏。「また、減らした場合にも、取引を失ったり、顧客企業に不安を与えたりするリスクが生じます」
買収の影響を被る顧客のあいだで懸念が高まっていることは、すでに両社の競合から指摘されている。
「いくらか不透明感が生じたのは確かだと思います。こんな声も聞かれます――これまではHPEのベンダーだった、ジュニパーのベンダーだった、あるいは顧客だったけれども、この際、他の機会についても検討してみるべきだろうか――というものです」。昨秋に開催された投資家向けカンファレンスの席上、シスコのScott Herren(スコット・ヘレン)CFO(最高財務責任者)が話している。「当社のワイヤレス事業では、第4四半期に100万ドルを超える受注の件数が20%以上も増えました」
こうした潜在的な不満については、HPEとジュニパーが慎重に対応する必要があるとMorgan氏は指摘している。
「どのように対応するかについては、とてもうまくやらないといけないと思います。簡単にはいかないでしょう。かなり長引くことと思います」
Morgan氏によると、今後の製品ロードマップが明確になっていないことを懸念する声が聞かれる一方で、HPEないしジュニパーと確固とした関係を築いてきた企業の多くは「どうなるのか様子を見るつもり」だという。
「現時点では、実際に事業に影響が出ているかは不明です」と氏。「両社が(買収を)発表して以降、HPEあるいはジュニパーから顧客企業が離れていっているのかというと、今の時点でははっきりしません。もちろん競合は自社にとって好機だと言うでしょうし、実際そうだと思います。これこれの契約はこの件でごたごたしているおかげで獲得したものだと言う場合もあるでしょう。ですが、数字を見てみても、そういう兆候がはっきり見られるとはあまり思いません」
統合を成功させたければ、HPEは潜在的な可能性を引き出さなくてはならない。
「スラムダンクのように確実に成果が出る試みではありませんし、1足す1が2になるように、2つの会社をそのまま合わせればいいというものでもありません」と氏。「今回の買収に両社の市場シェアを単純に合計する以上の意味を持たせるためには、やらなくてはならない仕事が多々ありますし、多大なリスクも伴います。とはいえ、素晴らしいチャンスだと思います」

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

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