ネットワーク
文:Dan Meyer

通信業界とエッジAI=TモバイルUSは手本となれるか

通信業界とエッジAI=TモバイルUSは手本となれるか

米通信大手のTモバイルUSが未来志向の取り組みを進めている。ネットワークを強化し、RANのエッジコンポーネントをAIで支えるというものだ。同社はクラウドをベースとしたこうした技術が収益機会をもたらすとみている。

直近に開催した投資家会議では、Mike Sievert(マイク・シーベルト)CEOが次のように述べている。「一生に一度あるかないかという技術革新は他にもありますが、(AIの進歩や導入も)ある面で、そうしたあらゆる革新的な技術と同じような進展の仕方をしています。簡単なテキストを扱うところから始まって、もっと没入感のある体験に変わっていくという一面です」

TモバイルUSが取り組んでいるAI-RANも、こうした道筋をたどるのは同じだ。同社はNVIDIA、エリクソン、ノキアと共同で「AI-RANイノベーションセンター」を設立し、クラウドRANとAIを組み合わせた開発を重点的に行うことにしている。

同取り組みについて、TモバイルUSは最近、あるプレゼンテーションの中で次のように説明している。目標としているのは、統合インフラにクラウドRANの機能とAIを搭載し、同時に数百万人のモバイルユーザーにサービスを提供できるような拡張性をもたせることだ。

「AI RANでは、新たにAIアルゴリズムを使い、無線ネットワークの潜在能力を最大限に引き出すことが可能になります」「AIアルゴリズムについては、SD-RANを使って迅速に開発し、AIデータセンターでトレーニングを行い、正確なデジタルツインを使ってファインチューニングする形になるでしょう。周波数利用効率とエネルギー効率が劇的に改善されます」

計画しているアーキテクチャでは、通信事業者が各基地局または複数の基地局にサービスを提供している中央基地局のRAN機器を更新する。こうした拠点がエッジデータセンターやクラウド接続の機能を提供し、AIワークロードの処理が向上する仕組みだ。

「この種のAIワークロードについては、デバイス上で処理を行うことがますます要求されるようになるでしょう。そうした例も出てきていますが、限界があることは明らかです。デバイスの近くにあるクラウドで処理するという選択肢もあり、こちらについては今後のビジネスチャンスになると見ています」。Sievert氏は投資家会議でこのように説明し、「この件についてはまだ予算を割り当ててはいません」とすぐに付け加えた。

さらに、次のように熱意を語っている。「顧客のエンドポイントの近くでMagentaクラウドを提供し、サードパーティのAIワークロードを実行すれば、社会に対して価値を提供できるのではないかと思っています。これはパートナー所有のクラウドではなく、当社所有のものになりますから、この件に関して契約に何か書いているということはありません。これを実現するには、ネットワーク技術の組み立てを行うことになるでしょう」

「契約」について触れているのは、同社が現在Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)といったクラウドハイパースケーラーと提携しており、まだ少しずつ進めているこの件に関わってくる可能性もあるためだ。

「パートナーシップを結ぶことに関しては、何らかの形で可能なのであれば、オープンな姿勢でありたいと考えています」と氏。「当社は3社すべてと緊密な提携関係にあります。1番はおそらくMicrosoft Azureですが、AWSとの協力も深い水準ですし、GCPとも協力しています。いずれも大規模な事業者です。現在OpenAIと提携している件についてもご覧いただきましたが、同社は現在ワークロードをすべてAzureで実行しています。両社とも緊密なパートナーです。この辺りに関してはとても柔軟に考えることが可能で、当社がパートナーに付加価値を提供するとか、共同で商品化を行うとか、市場投入を進めるといったことができるのであれば、それは模索すべき重要な領域です。とはいえ、こうしたことは現時点では推測の域を出ない内容です」

エッジAIの機会―競合やパートナーも照準

ベライゾンのHans Vestberg(ハンス・ベストベリ)CEOも、何度もSievert氏と同じような話をしている。ベライゾンは何年も前からMEC(Multi-access Edge Computing)戦略をアピールしており、そうした中で述べてきた内容だ。

最近ではゴールドマン・サックス主催の「Communacopia+テクノロジーカンファレンス」に登壇し、次のような見解を述べている。AI/生成AIをとりまく市場そのものは勢いを増し続けている一方で、市場ダイナミクスとして真のエッジインフラに光が当たるようになるまでには、まだ時間がかかるかもしれないというものだ。

「本番はまだ先です」と氏。「おそらく、まだしばらくかかるでしょう。生成AIは現在のところ、大半がLLMで、まだ訓練がされているところです。はるばるデータセンターまで(トラフィックを)送り返している状況です。ですが、ベライゾンもそうですが、アプリケーションの使用が始まれば、すぐに顧客の近くに持って行きたくなるでしょう。転送コストやセキュリティ、場合によってはレイテンシーが理由になります」

また、ベライゾンは米国の最大手ハイパースケーラー3社と長年提携し、エッジに関する態勢を強化しているとアピールした。

「当社はMECに取り組む中で、すでに全米各地に処理やコンピューティング、ストレージといった機能を構築し、電力も確保しています。生成AIに適した現代のエッジコンピューティングに携わるうえで、通信業界の中ではベライゾンよりも準備が整っているところはないと考えています」

アナリストによると、エッジAIに機会がある中で、大きなシェアを獲得しそうなのがハイパースケーラーだという。

「顧客にしてみれば、すでに膨大なデータを扱っているハイパースケーラーを選ぶのが自然な選択になるでしょう。生成AIソリューションを別のコンピューティングエコシステムに移行することはしたくないけれど、データを使用する場所と処理する場所は近づけたいからです」。米テクノロジービジネスリサーチが最近レポートを発表し、以上のように書いている。

Can T-Mobile guide operators toward an edge AI opportunity?

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
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