クリーンな5G、WiFi 6Eは2021年には実現しない
2020年が私たちに教えてくれたことがあるとすれば、私たちが計画を立てたり、将来がどうなるかを推測したりするのに忙しくしている間に、人生は起こるということだ。米調査会社のABI Research社は最近、昨年の大半を通じて多くの計画や予測が頓挫してしまったことを踏まえ、評判の水晶玉をひっくり返し、2021年には達成され「ない」であろう成果の数々を新たに予言した。
(何かが「起こらない」という)逆張りの観点から将来を考える方が安全かもしれないが、業界全体をカバーする技術者や調査会社の間では、そうした行いは大抵の場合、めったになされない。テクノロジーの特徴はしばしば、私たちの生活の仕方や遊び方、働き方が急速に進歩し、劇的な変化を遂げるというところにあるが、とはいえそうした変化は社会やビジネスに浸透するまでに数年、あるいは数十年もかかるものだ。
ABI Research社のチーフリサーチオフィサー、Stuart Carlaw氏は、「私たちはみな変化を迫られています。ビジネスプロセスの標準化という基本的な策略が強調され、変化するのは進化上必要なことだとまで言われてきました」と書いている。
「この不確実性と変化の時代にあって、揺るぎない真実の柱が1つあります。テクノロジーは、企業の健全性を確保するに当たって最も強力なツールになるだろうということです。テクノロジーの進化、実装、そしてテクノロジーへの熱意は、発展段階や最終市場に関係なく、あらゆる企業が受け入れなければならないものです」とCarlaw氏は締めくくっている。
ABI Research社、通信事業者各社のメッセージを否定
ABI Research社は、2021年にはみられないであろう傾向、達成されないであろう成果を31個挙げている。そうした予測の中にはベンダーや技術保有社各社がくり返し主張する内容をはっきりと否定するものもあれば、長期的な変化であり、まだ遠く地平線上に見られる蜃気楼のようなものだと広く考えられているものもある。
2021年、サブスクリプションベースのエンタープライズビジネスモデルはまだ実現にはほど遠く、通信プロバイダはソフトウェアの価値創造に挑戦して失敗し、5G導入の急速な成長は環境に負荷をかけ、環境に優しい5Gという概念は誤った想定になってしまうと聞けば、ネットワーク通信事業者であれば失望することだろう。
また、ABI Research社によると、今年は「エンタープライズ向けセルラービジネスモデルにとって、勝負の年」になるという。エンタープライズ向け接続サービスを開発するネットワーク事業者やハイパースケーラが保有する周波数帯資産の交渉力が周波数帯の自由化によって低下しているため、「モバイル事業者はプライベートセルラーでは成功しないでしょう」と同社は述べる。
また、クラウドネイティブコンピューティングは大宣伝がされるに値するものになってきているが、CNFやマイクロサービスアーキテクチャが2021年の間にネットワーク事業者の間で採用され、主流となるところまでは行かないという。「CNFへの流れは確かに見られますが、通信業界の大部分はいまだ、主に仮想マシン(VM)をベースにしてVNFを動作させています」と同社は書いており、CNFの売上予測はVNFの3分の1程度にとどまり、この比率は少なくとも2025年まで大きく変わることはないだろうと補足している。
また、2021年の5Gミリ波スマートフォンの出荷台数は世界の販売台数の5%未満にとどまり、クリティカルマスに達することはないという予測だ。5Gに関しては、キャリア各社が屋内5G接続の実現に向けた取り組みを始めているものの、こうした展開はコロナ禍によって遅れると同社は考えている。モバイル事業者は2021年を通じて主に屋外5Gネットワークの高密度化に注力すると予測する。
IoTは引き続きAWS社とMicrosoft社が支配
また、ABI Research社はIoTに関してもいくつか予測を発表している。この市場はクラウド対応のIoTを備え、マーケットプレイスを介して幅広い機能を提供するAmazon Web Services(AWS)社とMicrosoft Azure社が支配しており、2021年にこの構図が脅かされることはないという。
また、NTTドコモはNB-IoTネットワークを1年未満で閉鎖し、米Dish Network社もNB-IoTネットワークの構築計画を放棄したが、ABI Research社はまだこの技術が「現れたとたんに終わった」とは言えないとしている。とはいえ、NB-IoTモジュールは中国市場で96%が製造され、65%が消費されており、中国市場を超えてNB-IoTを広めるのは簡単ではないだろうと忠告する。
ABI Research社によると、この優位性はより広範なIoTセグメントにも及んでおり、欧米に拠点を置くベンダー各社はIoTモジュール市場を奪還することはできないという。欧米の既存企業はこの市場を開拓し、「世界中のデバイスOEMメーカーの信頼を得ているため、そのことが大事になる場面では今でも優勢です」と同社は書いている。
サプライチェーンにおける中国の優位性は低下
同社が自ら「リスキーな賭け」だと称する予測の1つに、世界的なパンデミックが終わった後も、中国がサプライチェーンにおける優位性を取り戻すことはないだろう、というものがある。「企業は3つの理由からサプライチェーンの多様化を追求しており、変化の歯車を止めることはできません」と同社は書いている。新たなパンデミックの発生がありうること、多くの国でますます現地生産が望まれることが考えられること、業界として中国から離れて技術的・経済的に多様化できる技術やツールの台頭がありうることの3つだ。
また、同社の予測では、人工知能(AI)は2021年もブラックボックスかつ説明不可能なもののままだという。クラウドプロバイダーの中にはAIを説明可能なものにするツールやフレームワークを開発しているところもあるが、「こうしたソリューションに基づいて構築されたAIは、大量商用化できるほど成熟していません。現状、AIモデルのほとんどは説明可能性はおろか、透明性を考慮した設計になっていません」と、ABI Research社の主席アナリスト、Lian Jye Su氏は書いている。
同様に、VR(仮想現実)も2021年は主流となるほどの普及はしないという。市場の力学が広範な普及を可能にする状態ではないからだ。
最後にWiFi 6Eについて、ABI Research社は冷や水でいっぱいのバケツを投げつけた。同技術の価値は示されてはきたが、その影響は2021年は限定的なものになるという。世界的なパンデミックによってより優れたWiFi接続への需要は急速に高まっているものの、ほとんどの国の規制当局はまだWiFi 6Eに必要な周波数帯を割り当てておらず、チップセットの入手可能性は限られており、ブロードバンドサービスプロバイダー各社は最近になってようやく顧客の機器をWiFi 6にアップグレードし始めたところだ。
Matt Kapko, senior editor at SDxCentral, covers 5G network operators, radio access network suppliers, telco software vendors, and the cloud. He has been writing about technology since before the dawn of the iPhone, and covering media well before it was social. Matt can be reached at mkapko@sdxcentral.com or @mattkapko.
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