5G
文:Dan Meyer

5Gの上り速度向上=第3のアンテナは鍵となるか

5Gの上り速度向上=第3のアンテナは鍵となるか

サムスン電子が台湾MediaTekと共同で5G SA(スタンドアロン)方式のアップリンク試験を実施した。米通信事業者や半導体企業が共同で実施してきた試験と類似した内容だが、アップリンクアンテナをさらに1本追加、性能のさらなる向上を試みたものとなっている。

試験は韓国の研究拠点でサムスン製のCバンド対応MIMO無線機、仮想分散ユニット(vDU)、SA方式の5GCを使用して行われた。これに対してMediaTek製チップセットを搭載した試験用デバイス1台を接続、1.9 GHz帯と3.7 GHz帯の別々のアップリンクチャネルに加えて3.7 GHz帯ではもう1つMIMOリンクを使用している。

これにより最大上り速度363 Mbpsを達成。両社は現在のスマートフォンやCPE(顧客構内設備)は送信アンテナを2本までしか備えていないとしながらも、今回の試験によってデバイス側がいずれアンテナを3本搭載するようになれば性能を向上させられる可能性が示されたとしている。

今年は米通信大手のT-Mobile US、AT&T、ベライゾンがいずれも同様のアップリンク試験を実施、性能向上が見られたと発表している。

T-Mobileの試験はノキア・クアルコムと共同で実施。2つの異なる周波数帯を集約、「商用本番環境の」5G SAネットワークで上り速度200Mbps超を達成したとしている。米SDxCentralの取材に対し、広報担当者は1.9 GHz帯の20 MHz幅と2.5GHz帯の100 MHz幅を束ね、上り速度207 Mbpsを実現したと説明している。

また、来年早期には対応端末を持つユーザーが上り速度強化の恩恵を受けることが可能になるとした。

AT&Tはノキア・MediaTekと協力、AT&TのSA方式5GCを使用してさまざまな幅の周波数帯を束ねる試験を実施した。保有するローバンド(850 MHz帯)の10 MHz幅とCバンドの40 MHz幅を束ねることで上り速度70 Mbpsを実現、Cバンドで100 MHz幅を使用した場合は120 Mbpsまで向上したという。

「LTE帯の」20 MHz幅と28 GHz帯の400 MHz幅を束ねた試験では、最大1.26 Gbpsの上り速度が得られたとしている。市販のデバイスを使用、実運用中のネットワーク環境での記録となっている。

 

5Gアップリンクの何が重要なのか

ワイヤレスネットワークの上り速度は下り速度には及ばないのが普通だ。多くの場合、その理由はデバイス・基地局間で広帯域信号を送信するのには多くの電力が必要となるためだ。エンドユーザーのデバイスは基地局鉄塔より明らかに小型であることが普通で、信号を送受信するためにはより工夫を凝らしたアンテナ技術を必要とする。また、概して内蔵バッテリーに頼ることから、接続に電力を供給しようとしてすぐに発熱し、バッテリーを消費していくことがある。

この落差は英Opensignalが5Gエクスペリエンスについて最近発表した調査報告で明確になった。5Gのダウンロード速度が80 Mbps~195 Mbps以上であるのに対し、アップロード速度は12 Mbps~19 Mbpsであることがわかっている。

一方、アナリスト企業は無線回線の上り速度が個人・企業ユーザーの両方にとってますます重要性を増していると指摘する。

個人向けサービスの通信量についてはエンドユーザーによる需要が増大している――ストリーミング用の動画コンテンツはモバイルデバイスで作成、セルラーネットワークを介してSNSにアップロードされることが多い。

「モバイルインターネットの使用傾向がコンテンツのダウンロードからコンテンツの作成、リアルタイムのコミュニケーションサービスの利用に変化してきたことで、アップロード速度の重要性が増すとともに、上り容量を増強できる新技術が注目され始めています」。Opensignalの報告にはある。

Telefonicaなど欧州の通信事業者は膨大なトラフィックの生成元に「フェアシェア(公平な負担)」を求める主張を展開しており、議論の中でこうした状況についても触れている。

通信事業者が上り速度の向上を図っているのは、収益性の高いエンタープライズ市場に5G SD-WANやプライベート5Gなどのサービスをさらに浸透させるためでもある。また、いずれは5Gセルラー接続でXR(Extended Reality)デバイス、XRサービスを支えられる可能性もある。

「モバイルネットワークに対する要求が高まるなか、個人・法人ユーザー向けのコネクティビティを改善するには、アプリケーション体験の向上とともにアップロード性能の向上が不可欠です」。米調査会社Moor Insights & Strategyの主席アナリスト、Will Townsend氏が今回のサムスンの試験に関するコメントの中で述べている。

Could a third transmit antenna be the key to higher 5G uplink speeds?

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。
SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
Twitter:@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
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電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。
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