エリクソン、5G-Advancedに向けてソフトウェアとAIに注力
5Gの10年といわれる2020年代も中間地点にさしかかり、いわゆる「5G-Advanced」の機能に関するアップグレードの取り組みが始まっている。差別化をして5G投資の収益化を促進することが目的だ。通信機器大手エリクソンはソフトウェアとAIに注力している。
エリクソンの戦略プロダクトマネージャーのGabriel Foglander(ガブリエル・フォグランダー)氏によると、先進的な通信事業者は5Gの初期導入を完了し、現在は定評のある、安定したネットワークが出来上がっているという。さらに高効率で高速なネットワークサービスや、5G-Advancedの基本的なサービスに着手できる状態だ。
5G-Advancedに向けた次のネットワーク投資では、ソフトウェア面の取り組みがいっそう進む可能性もある。さらにプログラマブルなネットワークが実現すれば、パフォーマンスや効率が向上し、新たな収益を生み出すサービスの提供が可能になるかもしれない。それには異なるネットワークトラフィックを識別し、インテント駆動型の優れたトラフィック管理ができる、サービスアウェアなネットワークにする必要もある。
Foglander氏は、もっと多くの通信事業者がSA(スタンドアロン)方式の5GC(5Gコアネットワーク)を導入していれば、5G-Advancedへの取り組みはもっと早く進んでいたし、差別化したサービスを提供することももっと簡単だっただろうと述べている。
「確かに、今ごろもっと多くのネットワークがSA方式になっていればよかったのですが、かなり増えてきてはいます」と氏。「今から1年後を振り返って考えるとしましょう。比較的数が増え、規模が拡大し、その影響を考慮すべき状況になりつつあることが分かります。収益化につながる別の道を開いているということでもあります」
SA方式の5GCは、ユーザープレーンとコントロールプレーン、共有データ層を持つネットワーク機能で構成されており、より堅牢なコアネットワークとなっている。また、ネットワークスライシングや自動化、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)といった評価の高い5Gサービスを支えている。
これに対して、NSA(ノンスタンドアロン)方式の5GCは、基本的な処理やルーティングを従来の4G LTEコアネットワークに頼っている。
米調査会社デローログループが1月に発表したレポートによると、2023年に新たにSA方式の5GCが導入された件数は12件にとどまったという。2022年は18件だった。「2023年最大の驚きは、AT&Tやベライゾン、BT傘下のEE、ドイツテレコムなど、世界中のMNOがSA方式の5Gを導入しなかったことです」。デローログループ リサーチディレクターのDave Bolan(デイブ・ボラン)氏が書いている。
Foglander氏の説明によると、SA方式の5Gであれば5G-Advancedのコンポーネントを使用でき、それによってネットワーク管理の仕組み全体をもっとスマートにできるという。
「ネットワークに対してあれをしろ、これをしろと正確な指示を出すのではなく、達成したい目的を伝えて、あとはネットワークに任せたい。自律的とは言えないまでも、少なくとも指針に基づいて解釈を行い、判断をしてほしいのです」
5G-Advancedの「A」はAIの「A」?
ネットワークにそうした自律性を持たせるには、AIの活用をさらに広げ、判断の舵取りをさせることが必要になる。そうした取り組みはまだ初歩の段階にあり、最良のユースケースを見出そうと、RANなどの領域で多くの実験が行われているという。
「とても積極的に取り組んでいる人たちがいます。その人たちから聞いているのは、実際にやってみたり試したりせずに、真にデータ駆動型のネットワークを作れるかというと、非常に難しいということです」と氏。「モデルによっては時々予期しない結果になることもあり、そのため、あるデータを与えてみてモデルができました、信頼度はこのようになっています。なぜこんなに低くなったのだろう、こんなに高くなったのだろう――と問わなければなりません」
エリクソンは通信大手TモバイルUSが主導する「AI-RANアライアンス」に参加している。米ワシントン州ベルビューに試験施設を建設し、クラウドRANやオープンRANの制御におけるAIの活用に向け、新たな取り組みを進める計画だ。オープンRANの導入が始まる中、こうした取り組みは重要性を増しつつある。エリクソンの他にノキア、エヌビディアがパートナー企業となっている。
TモバイルUSが最近、あるプレゼンテーションの中で、クラウドRANにAIを統合し、使用する統合基盤は同時に数百万人のモバイルユーザーにサービスを提供できるような拡張性のあるものにしたいと語った。
「AI RANでは、新しいAIアルゴリズムを使い、無線ネットワークの可能性を最大限に引き出すことが可能になります」と話している。「AIアルゴリズムについては、SD-RANを使って素早く開発し、AIデータセンターでトレーニングを行い、正確なデジタルツインを使ってファインチューニングすることになると思います。周波数利用効率とエネルギー効率の劇的な改善につながるでしょう」
クラウドRANやオープンRANの導入/管理にAIを活用する利点については、アナリストも指摘している。これらのネットワークは、分散されたマルチベンダーエコシステムのため、より複雑なオーケストレーションの課題を抱えているAIを活用すれば、従来型のRANとオープンRANの性能差を縮小できる可能性があるという。
TモバイルUSが主導するAI-RANアライアンスによる最新の活動となるのが今回の取り組みだ。同コンソーシアムは今年2月に発足した。創立メンバーにはAWS、Arm、エリクソン、マイクロソフト、ノキア、サムスン電子、ソフトバンク、エヌビディア、DeepSig、TモバイルUS、ノースイースタン大学が名を連ね、その後、参加企業数は24以上に増えている。
最大の目的は、RANに対するAI活用の舵取りを行い、パフォーマンスの向上や運用コストの削減、効率性の向上を図り、新しい事業モデルを支えることだ。今回の取り組みでは、AIを使ったRANの周波数利用効率、ネットワーク利用効率の改善、新たなサービスを支えるエッジAIの導入などを行う。
AI-RANアライアンスは8月、Alex Jinsung Choi(アレックス・ジンスン・チェ)氏を議長に指名し、組織として指導力を強化した。同氏は以前にO-RANアライアンスの議長も務めた人物だ。
米ABIリサーチが最近発表したレポートでは、オープンRAN担当リサーチアナリストのLarbi Belkhit(ラルビ・ベルキット)氏が次のように述べている。「(この人事から)オープンRAN分野全体の状況がうかがえるように思います。業界としては、オープンエコシステムを拡大するよりも、”AI for RAN”(訳注:AIを活用して既存のRANの周波数利用効率および性能を向上する技術)の発展に重きを置いているのではないでしょうか」
こうした取り組みについて、エリクソンのFoglander氏は、従来からある通信標準化の取り組みよりもはるかに上回る速度で進行しているAI関連の技術革新を支えるうえで重要なことだと述べている。
「私たちが現在目の当たりにしているのは、実際の開発が標準化をはるかに上回るペースで進んでいる様子です。今の時点で標準を定めたとしても、おそらく賢明な行いにはならないでしょう。6か月もすれば制約になりかねません」と氏。「今はおそらく、ありふれた実装から学びを得て、うまくいく方法をつきとめることが必要というフェーズではないかと思います。この段階では、エコシステム間の協力がとても役に立つでしょう。通信業界の外にも非常にうまくやっている人々がたくさんいるからです。分野ごとの理解を持ち寄れば、生成AIでできることについて多くを学べますし、どこかの時点でデファクトスタンダードが明らかになってくると思います。その段階であれば、せめてざっくりとした共通ルールを作り、皆で合わせるようにしてみることにも意味があるでしょう」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
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