セキュリティ
文:Dan Meyer

米Google、Wizを買収へ=提示額は320億ドル

米Google、Wizを買収へ=提示額は320億ドル

米Google(グーグル)が3月、クラウドセキュリティ企業のWiz(ウィズ)を買収すると発表した。Googleは以前からWizに関心を示していたが、320億ドルという提示額が魔法の数字となり、とうとう合意を引き出した形だ。多くのアナリストを驚かせ、Googleが今後AI向けに提供するマルチクラウドセキュリティに大きな期待を抱かせる買収額となっている。

買収が成立すれば、ニューヨークを拠点とするWizGoogleが取得する。買収は全額現金で行われ、来年中に完了する見込みだ。その後、WizのチームはGoogle Cloud社に加わることになる。Wiz2020年設立の企業で、現在はセコイア・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ、インデックス・ベンチャーズ、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズなどのベンチャーキャピタルから支援を受けている。

Wizはエージェントレスのセキュリティソフトウェアを開発した企業だ。クラウド環境のコンテナと仮想マシンをスキャンして分析する機能を提供するもので、リソースがオンラインでない場合でも実行することが可能となっている。ハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境に対応し、Amazon Web ServicesAWS)、Microsoft AzureGoogle Cloud PlatformGCP)などのパブリッククラウドだけでなく、OpenShiftのようなオンプレミス型プライベートクラウドのリソースにも接続することが可能だ。また、マネージド型のコンテナサービスやセルフマネージド型のKubernetesにも接続できる。

GoogleWizの買収を決めるに当たって鍵になったのは、マルチクラウド環境に対応している点だ。Google経営陣が再三にわたって強調している。AIをサイバーセキュリティ領域に活用する動きが広がるなか、Wizではマルチクラウドに対応したAI活用も可能となっている。

Wizはクラウドセキュリティプラットフォーム市場の主要プレイヤーで、革新的かつ先進的な製品を提供しています。すでにフォーチュン100企業の半数以上が同社の製品・サービスを利用し、信頼を寄せています」。買収に関する説明会が開かれ、GoogleCEOを務めるSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏が語った。「新製品も続々と投入しています。採用率は高く、サイバーセキュリティソリューションのまったく新しいカテゴリーを創出するものになっています。事業が急成長しているのはこのためです」

WizCEOを務めるAssaf Rappaport(アサフ・ラパポート)氏は次のように話している。「(買収によって)ものごとを実行するスピード、技術革新のスピードを速めることが可能になります。当社が単独企業でいる場合よりも、技術革新を早めることができるでしょう」

Google Cloud社のThomas Kurian(トーマス・クリアン)CEOは、Mandiant(マンディアント)を買収・統合した時と同じように、買収完了後もWizがマルチクラウド環境に対応した製品として提供されることに変わりはないと述べている。Wizは現在、AWSMicrosoft AzureOracleといったGoogle Cloudの競合と提携しており、こうしたクラウド環境も引き続きサポートされると明言した。

GoogleWizは、現在WizがサポートしているパッケージアプリケーションとSaaSおよびアプリケーションについて、仮想環境でご利用中のものを含め、引き続きサポートすることをお約束します」と氏。「Google Cloudは今後も他の主要なクラウドセキュリティプロバイダーや独立系ソフトウェアベンダーと提携し、当社製品との相互運用性を確保、あるいは新たに当社のプラットフォームと統合していただく機会を提供していきます。こうしたパートナー企業のソリューションがGoogle Cloud Marketplaceで提供されれば、顧客の選択肢が広がります。当社はSIerやリセラー、マネージドセキュリティサービスプロバイダーの皆さまから、幅広いソリューション、幅広いサービスを顧客に提供していただけるようにしていきます」

Wiz事業の現金化

買収額の大きさにはアナリストも驚いている。

米調査会社デローログループのエンタープライズネットワーク/セキュリティ担当シニアリサーチディレクター、Mauricio Sanchez(マウリシオ・サンチェス)氏は、「(今回の買収は)サイバーセキュリティ史上、最も重要な買収事例の1つです」とブログ記事に書いている。最近の事例としては、トーマ・ブラボーによるプルーフポイント買収(123億ドル)、BroadcomによるSymantec買収(107億ドル)、GoogleによるMandiant買収(54億ドル)などがあるが、それらをはるかに上回る金額だ。

とはいえ、WizCNAPP(クラウドネイティブアプリケーション保護プラットフォーム)の主要事業者であり、急速に地位を拡大してきた企業だとも述べている。デローログループの定義では、CNAPPとは「クラウドネイティブアプリケーションをライフサイクル全体にわたって保護することを目的とし、ソフトウェアセキュリティ、デプロイメントセキュリティ、ランタイムセキュリティを備えた統合プラットフォーム」だという。

「ライフサイクル全体を通じてアプリケーションとデータを効果的に保護するためには、開発チーム、セキュリティチーム、運用チームが互いに協力することが欠かせません。この手法では、プラットフォームを使用して、そうした協力を促進できます」。Sanchez氏が詳しく述べている。「Wizは革新的な専業ベンダーで、こうした統合的な手法を実現している格好の事例です。収益成長率は3桁に迫り、急速に市場シェアを獲得しています」

米フォレスターリサーチのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト、Andras Cser(アンドラーシュ・チェル)氏は、今回の買収が実現すれば、CNAPP市場でのGoogle Cloudの地位が競合に対してさらに強くなるだろうと補足している。

Google Cloud PlatformGCP)はこれまで、自社で提供している基盤にネイティブなセキュリティを組み込もうと、CNAPP機能に資金を投じ、成果も上げてきました。ですが、こうしたツール群は、主としてGCPのエンドポイント、GCPの資産を保護することのみに特化しています」。氏が調査レポートに書いている。「2021年にMicrosoftCloudKnoxを早い段階で買収し、Defender for Cloudを開発したことを受けて、Googleは真のマルチクラウド対応CNAPPツールを提供しなくてはならないというプレッシャーを受けています。今日、実にたくさんの企業がマルチクラウド環境を運用しているためです。フォレスターとしては、買収後には、GCPが現在提供しているCNAPP機能(CSPMCIEM、エージェントレスCWPP)のほとんどがWiz製品に置き換えられ、マルチクラウド環境のサポートは維持されるものと予測しています」

CNAPP分野のベンダーとしては、他にCrowdStrike、パロアルトネットワークス、ZscalerMicrosoftなどがある。その他に比較的小規模なベンダーも数社が参入しているが、「(そうしたベンダーが)機能面の優位性を保つためには、クラウドインフラ事業者との熾烈な競争に直面することになる」という。

ユニコーン企業Wizの歩み

Wizの事業はこれまで目まぐるしい展開が続いていたが、買収によってそれもひとまず落ち着くことになる。

Wizは以前にMicrosoftのクラウドやセキュリティを担当していた元幹部たちが、2020年の初めに設立した企業だ。その年遅くに沈黙を破ってシリーズAに登場し、1億ドルの資金を調達した。速やかにシリーズBに進んで追加資金13,000万ドルを調達しており、その際の評価額は「ユニコーン企業」の条件を超える数字となっている。

昨春には競合のLaceworksを約2億ドルで買収する交渉を進めていると報じられていた。Laceworks2021年後半に参加したシリーズDラウンドで83億ドルという評価額を獲得した企業で、2億ドルというのは微々たる提示額だ。交渉は決裂し、後にLaceworksはフォーティネットに買収されている。

この出来事の後、Wizはすぐに立ち直り、新たな資金調達で10億ドルを調達、評価額を120億ドルに押し上げた。経営陣は当時、2023年に年間経常収益(ARR)で35,000万ドルを達成したこと、フォーチュン 100企業の40%以上にサービスを提供していることをアピールしている。

この時の資金調達ラウンドの直後に報じられたのが、GoogleWiz230億ドルで買収することに関心を示しているというニュースだ。ところが、Wizの経営陣はその申し出を断っている。

「いただいたオファーについては光栄に思っていますが、このまま自分たちでWizを築き上げる道を選ぶことにしました」。Rappaport氏が当時、社内文書に記している。「このようなオファーは大変謙虚な気持ちにさせられるもので、ノーと言うのはつらいことですが、当社のチームが並外れて優秀であることから、自信を持ってこの選択をした次第です」

Googleは今回、320億ドルというオファーを出した。それが正しい選択であることに賭けている。

Google bets $32B on Wiz buy

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

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