OPEN-RAN
文:Matt Kapko

楽天モバイルがオープンRANのビジョン実現のため、どのようにベンダーを集めたか

楽天モバイルがオープンRANのビジョン実現のため、どのようにベンダーを集めたか

楽天モバイルが成し遂げたような、少なくとも10社以上のベンダーが提供するソフトウェアで取り囲んだグリーンフィールドモバイルネットワークを市販のハードウェアで構築することは、難しい課題だった。この課題には複雑な部分が多く、仮想化したクラウドネイティブでオープンな無線アクセス(RAN)ネットワークを実現するべくベンダーを集めるには、他の携帯電話事業者がまだ取り組んでいないような集中的な尽力が必要だった。特にこのレベルでとなれば猶更だ。

「私たち楽天は、ソフトウェア開発において重要な役割を果たさなければなりませんでした」と、グループEVP兼CAO(Chief Architecture Officer)のTareq Amin氏は電話インタビューでSDxCentralに語った。「私たちは、このピースを1つにまとめる自動化の仕組み全体を構築しなければなりませんでした。もしこれを行っていなかったら、正直言って、『これを実現させてくれ』と言って購入できるものは何もありませんでした。そのやり方ではうまくいかないでしょう」

Amin氏は早い段階で、自分たちが「皆のための接着剤、システムインテグレータにならなければならない」ことに気がついたという。「既存のベンダーや現任者だけに任せていたのでは、うまくいくとは思えません」と氏は言う。

「VNF(仮想ネットワーク機能)アーキテクチャについては、これまでどれだけ議論がなされ、どれほど熱狂があったところで、実際のところは、少なくとも我々の経験からは、これらのベンダーが大規模にこれを行うのは初めてのことなのだと感じています」とAmin氏は言う。「私は、初歩的なミスや基礎的なアーキテクチャのギャップがあるのを目の当たりにしています。もし私たちが介入して、現在のように6,000台を超える仮想マシン(VM)上で188個のユニークなVNFをオーケストレーションし、弾力性のあるオートヒーリングも動作させられる適切なソフトウェアプラットフォームを構築していなければ、難しいことになっていたでしょう」

 

楽天モバイル、RANのリーダー企業にオープン化を働きかける

Amin氏はこのプロジェクトに入るにあたり、業界フォーラムや標準化団体は十分な進み具合にあると確信していたが、「ギャップは予想よりもはるかに大きかった」という。このような規模でのエンドツーエンドの展開はこれまでなかったため、楽天モバイルは単純にベンダーの1つに頼るということができず、ソフトウェアの構築と運用サポートシステム(OSS)のオーケストレーションに「相当なエネルギーを費やす」ことになった。

Amin氏たちはこの取り組みに加えて、オープンRANのために光ネットワーク機器や無線機器をオープンにするようNokia社を説得することに成功した。氏は、それを「非常に複雑な依頼」だったとしたが、同ベンダーがクローズドでプロプライエタリなシステムを販売するよりも多くの収益を上げられる道筋でもあったと表現している。

「このプレーを選択するのは彼らにとって簡単な決定ではありませんでしたが、私は彼らに途方もない収益機会を提供しました。私は『こうしましょう、御社のリモート無線ヘッドのためのインターフェイスをオープンにして頂けた場合、私は御社に私たちの全構築工事について、第1フェーズとプロジェクト管理を外注しても構わないと思っています』と言いました。ところでこれはかなりの額の収益見込みですよね」とAmin氏は話す。

Nokia社はそれを実現し、同社が同じアプローチを世界中で再現するのをAmin氏は応援している。「彼らがこのビジネスモデルとエンゲージメント戦略を再現すれば、収益性は10倍以上になるでしょう」と氏は言う。

Nokia社はまた、Amin氏との親密な関係を築いたことで、バックボーンインフラストラクチャやIoTなど、当初のスコープを超えたビジネスを獲得することができた。「彼らがオープンであることを示してくれれば、私は彼らと一緒に仕事をすることに何の問題もありません。私は、こうした伝統的なベンダーは、(オープンになれば)多くのお金を失うという考えを吟味し、私の意見では、克服する必要があると思います」

 

コンテナのために必要だった力業

完全にクラウドネイティブなネットワークを構築する経験を得たことで、コンテナとコンテナ環境で通信事業者が得られる機会に対するAmin氏の抱負も膨らんだ。「今日のあらゆるワークロードがIT企業やWebスケール企業が10年以上前から享受してきたものと本当に似ていることは、驚くほどエキサイティングなことです」と氏は言う。

コンテナのメリットは設備投資の削減だけにとどまらないと氏は説明し、楽天モバイルでは9分以内にワークロードをインスタンス化できると補足した。マクロ基地局がWi-Fiのように動作し振舞う(主にプラグアンドプレイ動作)ネットワークを設計することで、楽天モバイルは現場の技術者なしで目標を達成している。

「私にはサイト信頼性エンジニアしかいません。彼らの唯一の仕事は、VMをインスタンス化し設定で強化するのに必要な自動化の仕組みを構築することですが、それはすべて楽天のOSSとオーケストレーションによって自律的に行われます」とAmin氏は語る。

「無線領域では、残念ながら、これは非常に複雑なことでした。フィールド技術者を必要とし、エンジニアを必要とします。彼らを現場に派遣し、拠点の立ち上げに1日から3日かかることもあります」と氏は言う。とはいえ、同氏はエンドツーエンドのオーケストレーションを「困難な課題」と表現し、現在の仮想化の最大の弱点は「ヒーリングと弾力性についての共通の目的を達成するためのユニークなVNFの調和とオーケストレーション」であるとしている。

しかし、Dockerコンテナでは楽天モバイルが直面したギャップに対応できないため、ネットワーク全体でユニークなVNFをオーケストレーションする必要があり、その仕事は「簡単ではなかった」とAmin氏は説明する。仮想化ではクラウドネイティブアーキテクチャのようなメリットは得られないと氏は言う。

 

通信事業者グレードの要件は、オープンソースにはまだ欠けている

Dockerコンテナは、マイクロサービス、ソフトウェアアーキテクチャ、複数のデータセンターにまたがるアクティブな構成にある程度の 「エレガンスさ」を提供するものの、通信事業者はオープンソースのDockerコンテナをシンプルに1つ選んで、仮想化のワークロードをコンテナに移すことはできない。「これには、ソフトウェアコードの根本的なリアーキテクチャが必要です」と氏は言う。「IPv6やサービスメッシュのサポートなど、コンテナアーキテクチャプラットフォーム自体を通信事業者グレードの要件で強化する必要があります」

「こうした機能については、どれも進みが遅れていました」とAmin氏は言う。「これらはすべてオープンソースコミュニティで利用可能ですが、誰もこれらを押し進めてコンテナのメインブランチの一部としてパッケージ化しようとは考えていませんでしたので、私たちが(複数のベンダーと協力して)実行しました」とAmin氏は話している。

Amin氏によれば、楽天モバイルのネットワークを支える技術を実現するなかで、IPレイヤーからコアやサポートシステムまでのある程度の可視性を提供するセキュリティの仕組みやフレームワークも育んだという。これにより、無線機からネットワークコアに転送されるパケット全体の透明性について、「少しの安心感」が得られるとAmin氏は話している。

また、楽天モバイルは、サプライチェーン管理やクラウド上のソフトウェアによって実行されるセキュリティプロトコルなど、ネットワーク構築のあらゆる側面において、セキュリティに関するゼロトラストの考え方を堅持しているとAmin氏は説明する。「セキュリティの部分でも非常に優れたさまざまな強化を行っています」。そのセキュリティの仕組みの所有者は、まぎれもなく楽天モバイルだ。

How Rakuten Mobile Corralled Vendors for Its Open RAN Vision

Matt Kapko
Matt Kapko Senior Editor

Matt Kapko, senior editor at SDxCentral, covers 5G network operators, radio access network suppliers, telco software vendors, and the cloud. He has been writing about technology since before the dawn of the iPhone, and covering media well before it was social. Matt can be reached at mkapko@sdxcentral.com or @mattkapko.

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Matt Kapko, senior editor at SDxCentral, covers 5G network operators, radio access network suppliers, telco software vendors, and the cloud. He has been writing about technology since before the dawn of the iPhone, and covering media well before it was social. Matt can be reached at mkapko@sdxcentral.com or @mattkapko.

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