AT&TがオープンRANプログラムを強化=重要性はどの程度か
米通信大手AT&Tが大規模なオープンRAN計画を進めている。ベンダーはエリクソン(Ericsson)を中心に、今回新たに複数のベンダーを加えた。AT&Tが全面刷新に取り組む一方で、競合各社は戦略面で有利を得ようと着々と動いている。
AT&Tが富士通、マベニア(Mavenir)と契約を結んだ。両社はオープンRAN準拠の無線機を提供し、エリクソンが中心となって構築しているAT&Tのオープンネットワーク基盤で使用されることになる。提供する無線機はロープロファイル設計で、密集した都市環境で既存の電柱や街灯に取り付けられるようになっている。
仕様としては、CバンドのTDD(時分割複信)に対応した4T4R(4送信4受信)無線機、バンド25(1.9GHz~2GHz)とバンド66(1.7GHz~2.1GHz)のFDD(周波数分割複信)に対応したデュアルバンドの4T4R無線機などとなっている。
FDDでは通常、チャンネルを上り/下りで均等に分割した固定の帯域幅を使用する。TDDでは必要に応じて1つのチャンネルの上り/下り容量を調整することが可能だ。
富士通はAT&TのオープンRANプログラムに長年協力しており、今回でさらに協力関係を強化した。エリクソンを除けば、AT&TがオープンRAN計画を発表した当初から名前を挙げていた唯一のベンダーでもある。
富士通は米国でNTTドコモやKDDI、ディッシュ・ネットワーク(Dish Network)といった通信事業者とも協力し、オープンRANではかなりの商機を獲得している。また、AT&Tの光ネットワークでも以前から同社の製品が使用されている。
マベニアにとっては、AT&Tとの契約はなおさら大きな意味を持っていることだろう。同社はオープンRANのリーディングカンパニーとして注目されてきた一方で、長年提携関係にあるエコースター(EchoStar)、ディッシュ、ブーストモバイル(Boost Mobile)を除いた大型契約の獲得に苦戦していた。財務の健全性に関しても、これまでにさまざまな局面に遭遇している。
AT&Tがメディアとの質疑応答セッションを持った際、COO(最高執行責任者)のJeff McElfresh(ジェフ・マッケルフレッシュ)氏が今回のベンダー選定について話している。ネットワークテストを実施した結果、この2社は「技術が少し進んでいて、少し成熟度が高い」ことがわかったと説明した。
現在、AT&TのオープンRAN計画のベンダーリストに見当たらないのがサムスンだ。同社についてはアナリストの多くが市場セグメントをリードする1社だと考えている。AT&TがオープンRAN計画を発表した際、サムスンは契約を獲得したいと望んでいた。
「(AT&Tが実際に)マルチベンダーのオープンRANアーキテクチャに移行するのであれば、どこに商機がありそうか、今後わかっていくでしょう。その際には当社もぜひ契約獲得に向け競いたいと思います」。サムスン電子アメリカ(Samsung Electronics America)のネットワーク事業戦略・マーケティング担当バイスプレジデント、Alok Shah(アロック・シャー)氏がSDxCentralの取材に応えて話している。「ですが、はっきりしたことを言うには少し早すぎるかと思います」
AT&TのオープンRANをエリクソンが支援
McElfresh氏も言及しているが、成熟ということに関しては、まだ構築を進めている最中のオープンRAN環境にとって重要な問題だ。
AT&TはオープンRAN計画を発表した当初、基盤プラットフォームの提供をエリクソンに頼るとしたことで波紋を呼んだ。エリクソンとは長年協業しており、同社の機器がインフラに浸透しているため、理にかなった選択なのだとMcElfresh氏は何度も説明している。
今回新たに導入する無線機も、エリクソンが提供する「EIAP(Ericsson Intelligent Automation Platform)」というSMO(Service Management and Orchestration)を利用して実行される。EIAPはサービスレベルを含めた複数の領域をカバーし、クラウドRAN機能や従来のRAN機能、無線機やハードウェアを制御することが可能だ。
また、McElfresh氏によると、AT&Tがエリクソンを選択したことで、エリクソンでオープンRANという考え方の採用が進む結果になったという。
「私たちはエリクソンに無線アーキテクチャをオープンにしてくれるように求めました。他の技術パートナーの製品が入ってくれば大きな変化が伴いますから、当社が取引を進めるまでエリクソンはあまり乗り気ではなかったようです」
これを受け入れたのはエリクソンにとって重要なことで、同社は現在、北米市場でシェアを伸ばしている。
「北米市場は引き続きとても順調で、前年比55%の成長を遂げました。AT&Tの契約を獲得した関連で出荷が好調だったためで、この契約が現在デリバリーフェーズに入っています」。エリクソンの直近の決算説明会で、Börje Ekholm(ボリエ・エクホルム)CEOが述べている。
一方、「他の大口顧客については、ネットワーク投資の対象を慎重に選択している様子」だという。
TモバイルUSが最近発表した「5Gオンデマンド」もエリクソンのプラットフォームを使用している。プライベート5Gサービスを一時的に、簡単に導入できるとして、TモバイルUSが売り込んでいるソリューションだ。エリクソンはTモバイルUSが主導する「AI-RANイノベーションセンター」の設立にも協力している。クラウドRANとAIを組み合わせた開発を行うという。
Ekholm氏は最近受けたインタビューの中で、米国での商機が拡大しているため、本社をスウェーデンから移転することを検討していると述べている。
オープンRANは勢いを増しているのか
AT&Tは10年前からオープンネットワークについて語り続けている。それはAT&Tに限ったことではなく、これまでに何十ものネットワーク事業者がオープンRAN計画を発表し、導入を進めている。
たとえば、ベライゾンが最近、テキサス大学オースティン校とオースティンコンベンションセンターで、オープンRANに対応したマルチベンダーのDAS(分散アンテナシステム)を稼働させている。サムスンとコムスコープ(CommScope)の機器を使用し、ベライゾンのエッジ向け仮想クラウド基盤で実行しているという。
ベライゾンのテクノロジープランニング担当シニアバイスプレジデント、Adam Koeppe(アダム・ケッペ)氏がSDxCentralの取材に応えた。こうした種類の展開は今回が初めてで、オープンRANの重要なマイルストーンだと説明している。
「提供されている機能によってベンダーを選定することができ、両者のいずれも相互に運用できることがわかっていれば、どのような目的であっても、高パフォーマンス、高品質、低コストなネットワークを作れることになります」と氏。「このケースでは、DASシステムにサムスンとコムスコープのコンポーネントを使っています。以前にはできなかったことです。言ってみれば、オープンRANの精神を真に形にしたものになっています。サプライヤーシステムのうち、2社の製品を同じ環境で使っていますから」
Koeppe氏はその他に、ベライゾンがオープンRANについて詳細まで発表していること、導入に当たってO-RANアライアンスの仕様に準拠することをアピールした。
「(オープンRANについては)言うまでもなく、この業界ではよく登場する話題です」と氏。「ですが、同業の通信事業者から実際のO-RAN導入に関する具体的な情報が出てくることはそれほどありません」
ベライゾンは以前、O-RANアライアンスの仕様に準拠したオープンRAN「対応」無線機を13万台以上導入したと発表している。Massive MIMOアンテナを搭載した無線機だ。
「O-RANに準拠したベースバンド処理部(BBU)と無線部(RU)を提供しているベンダー1社を採用するのではなく、BBUのベンダー、RUのベンダーを別々に採用して組み合わせるのですが、O-RANの中でもここが最大の課題です。一方で、長期的には最も利益を生み出す部分でもあります」と氏。とはいえ、この発言はAT&Tから今回の発表がなされる前のものであることには注意が必要だろう。
オープンRANエコシステムは目下のところ多くの問題を抱えており、まだKoeppe氏のように長期的な目線で考えることが重要だ。
米調査会社デローログループが最近発表した2024年の市場レポートによると、オープンRAN機器関連の通期売上高が急落する見通しだという。
「短期見通しは下方修正しましたが、長期見通しは据え置きました。従来のRANとオープンRANを合わせたRAN市場全体のうち、オープンRANが占めるシェアは、2024年は1桁台半ば、2025年は8%から10%と予測されています」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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