ネットワーク
文:Dan Meyer

通信向けAWSクラウド=柔軟性を発揮するのか

通信向けAWSクラウド=柔軟性を発揮するのか

米ケーブル大手コムキャスト(Comcast)が昨年12月、5GコアネットワークをAmazon Web Services(AWS)に移行したと発表した。通信業界ではハイパースケール・インフラの利点を活かした高度なサービスを提供すべく、徐々にクラウドへの移行が進んでいる。

コムキャストの事例では、オンプレミスのインフラをAWSに移行した。移行後のインフラは、保有する周波数帯を使用したXfinity Mobile 5Gサービスの提供に使用する。コムキャストではAWSの通信業向けサービスを利用できるようになった。

これまでにも、既に敷設されている「ブラウンフィールド」のネットワークをAWSに移行した例はある。もっとも顕著なのがドイツの通信大手O2テレフォニカが進めている取り組みで、昨年にはサービスの一部をAWSに移行、最大100万人の加入者が利用している。

AWSで通信向け事業やエッジクラウド分野のCTO(最高技術責任者)を務めるIshwar Parulkar(イシュワール・パルルカー)氏がSDxCentralの取材に答えた。氏の説明によると、既存の通信事業者によるブラウンフィールドネットワークの移行は増加傾向にあるという。また、そうした移行の場合には、高度な計画が必要になると語った。

「ブラウンフィールドのケースでは、クラウド自体が持っている特徴に関する課題のほかに、制約がある中でアーキテクチャをどうするかという問題もありました」と氏。

たとえば、コムキャストはすでにインターネットのピアリングを複数のポイントで確立していたため、1つのAWSリージョンで実行しているコアネットワークからどのようにトラフィックをルーティングするかを調整しなくてはならなかったという。

「これはネットワークアーキテクチャの問題で、必ずしもクラウド側の支援が必要というわけではありませんが、これこれの機能をクラウドのどこに、どのように展開するか、リージョンかローカルゾーンか、あるいはOutpost――AWSのインフラをオンプレミスに提供するサービスです――を使うのか、といったこととなると、クラウド側もいくらか関わってくることになります」と氏。「(ブラウンフィールドネットワークについては)エンドツーエンドのアーキテクチャ全体を見渡して、どこにワークロードを配置するかと配置の仕方、どのようにトラフィックをルーティングするかの確認を行いました」

こうした計画を作ると、クラウドインフラを利用する場合の柔軟性も浮き彫りになる。移行後には、5Gコアアーキテクチャの移行をさらに進め、SA(スタンドアロン)方式を実現することも可能だ。

「既存のネットワークがすでにありますし、いずれにせよ進めることになるでしょう。5Gを実装した後であっても同じです」と氏。「たとえば、5G SAはどの市場にもあるわけではなく、LTEから5Gへの移行が始まっているのは一部の市場です。一部の電波塔を更新するとか、そういった類のことがいくらか発生しているでしょう。それと同じような進み方になると思います。移行に着手する予定の通信事業者が複数おられますが、始めは一定数の加入者を対象に、一部の市場や地域で行うことになっています」

AWSが強調するポイント―ネットワークの柔軟性と成熟度

こうしたネットワークアーキテクチャが持つ柔軟性が浮き彫りになった例がある。昨年12月、米ブロードコム傘下のVMwareが提供するCaaS(Containers as a Service)基盤を使用していた米ブーストモバイル(Boost Mobile)が、同製品の利用をやめた。代わりに米ウインドリバー(Wind River)が提供している類似のプラットフォームに乗り換えている。ブーストモバイルはAWSクラウドで独自のオープンネットワークを運用しており、VMwareのプラットフォームはその中核を担っていた。

ブーストモバイルのCTO(最高技術責任者)を務めるEben Albertyn(エベン・アルバーティン)氏が同社独自のネットワークアーキテクチャについて説明し、利点を強調している。これほど中核に当たる部分の変更が「ユーザーが気づきもしないような形で」できたと語った。

他にも例がある。AWSの競合に当たるGoogle Cloud Platform(GCP)が昨秋、カナダの通信事業者テラス(Telus)が既存のネットワークをGCPに移行したと発表した。テラスのCIO(最高情報責任者)を務めるJaime Tatis(ジェイミー・タティス)氏がSDxCentralの取材に応えて説明したところによると、移行は数年がかりの作業となり、クラウドアーキテクチャが持つ柔軟性に大きく依存したという。

「始めは2~3年の計画にしようと考えていたとします。ところが、6か月で技術に変化があり、台無しになってしまうこともあります」と氏。「6か月前には良い考えだったのに、状況がすっかり変わってしまったことに気が付くのです」

氏によると、テラスでは絶えず計画を変更していくサイクルに入ったという。計画については、それまでの成果を次にも生かせるような形で回していく必要があるとした。氏はこれを継続的モダナイゼーションと呼んでいる。

「今はモダナイゼーションが完了したところですが、かといって、2年、3年経った時にもまだ最新の状態だと言えるかはわかりません。そのたびに発展させていかないといけません」と氏。

それには、新しい技術が登場した際にもそれまでの成果やシステムを簡単に移行できるような、柔軟なアーキテクチャが必要だ。

「継続的モダナイゼーションが可能になるような、柔軟なアーキテクチャと柔軟なコネクタが必要です」と氏。「後からほかに移行することが非常に難しくなるようなものを選択するとか、そういうものに根を下ろすようなことは避けた方が良いと思います。速やかに移行できるような製品やソリューションを利用することです」

Parulkar氏も同じ意見だ。

「クラウドの主な利点の1つが、ネットワークの修正、変更、アップグレードを行う際に、簡単に素早くできることです。まるでレベルが違います」と氏。「クラウドのような手法でのインフラ構築を詳しく見ていただくと、いつもそんなことをやっています。こちらで何か変更をしてもユーザーからは何も見えない、ピッと音が鳴ったりする程度のことすらない。ネットワークをそのレベルに持っていくのが理想です」

もちろん、AWSのようなパブリッククラウドサービスにあらゆる通信事業者が殺到しているわけではない。

ベライゾンでテクノロジープランニング担当シニアバイスプレジデントを務めるAdam Koeppe(アダム・ケッペ)氏が最近SDxCentralの取材を受けた際、同社が進めているクラウドベースのネットワークへの移行は完全に社内で完結したものになっていると改めて語った。

「当社が他社と異なる主なポイントは、ハイパースケーラーが検討対象にならないことです」と氏。「そもそも仮想化に取り組み始めた時の目標が、自社クラウドで顧客体験をコントロールできるようにすることでした。当社ではさまざまなツールを用意していますが――最適化やサービスの提供、ソフトウェアオーケストレーションや自動化の促進を目的とするものです――、目標は常に顧客体験をコントロールすることにあります」

Parulkar氏によると、クラウド統合を深化させようとしている通信事業者についても、それぞれの方針はまったく異なっているという。

「クラウドの活用に踏み切ったのは、クラウドを支持し、そうしようと考えた事業者です」と氏。「ですが、成熟度や、どの程度の自信があるかについてはさまざまです」

Is AWS set to flex cloud on telecom?

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
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