RISC-Vは中国の半導体業界で救世主となるか
中国のテック企業に対して米国が貿易規制をかけるなか、中国共産党は海外半導体メーカーへの依存をやめるようますます強く求めており、当然のことながら中国では多くのテック企業が不安を抱いている。
米商務省はここ数カ月をかけて、軍と繋がりがあるとされる中国企業に対する重要な知的財産の提供、ハイエンドチップの製造に使用する製造設備の提供をストップさせた。同時にこれらの中国企業の多くに対し、Intel社などの米国の半導体メーカーから既成の半導体製品を調達することもできないようにする措置を取っている。
こうした技術的分断に直面し、Alibabaグループ、Huawei社、ZTE社といった中国企業は半導体の既成概念にとらわれない考え方を始め、米国の半導体メーカーと距離を置く手段としてRISC-Vの研究を始めた。
RISC-Vとは何か、なぜ重要なのか
RISC-Vという言葉を聞いたことがないとしても許されるだろう。RISC-Vは登場してから10年余りしか経っておらず、ようやく商用化にこぎつけたばかりのアーキテクチャだ。
非営利団体RISC-VインターナショナルのCTO、Mark Himelstein氏は、「RISC-Vはオープンハードウェア、つまりオープンソースのハードウェアのISA(命令セットアーキテクチャ)です」と話す。
RISC-Vはその名が示すように、ArmやPower、Sun SPARCと同様にRISC(縮小命令セットコンピュータ)アーキテクチャの1つだ。しかしこれまでのRISCプロセッサとは異なり、RISC-Vは完全にオープンソースであり、誰でも自由に利用できる。また非常に小さく、命令数は47個しかない。それに比べ、Armには200個以上の命令数があり、AMD社やIntel社が使用しているCISCアーキテクチャの命令数は1500個を優に超えることもある。
命令とは、これらのチップが実行できる最も基本的な演算のことだ。ある命令は「加算」、別の命令は「減産」や「乗算」といった具合だ。RISC-Vの背景にある考え方は、命令セットをできるだけ小さくして、実装者が拡張機能を使って必要な命令を追加できるようにすることだ。
拡張機能を使用することで、より高度なユースケースで必要となる行列演算やスカラー演算など、より高度な演算が可能になる。つまり、RISC-VはASICやFPGAに近い動作をするようにスケールダウンすることもできるし、究極的にはArmやx86ベースのシステムと競えるほどにスケールアップすることもできるということだ。
RISC-Vベースのチップが少なくとも組み込み環境では非常に高い電力効率を実現している理由の1つは、ユースケースに合わせて命令セットを調整できることにある。
「私の意見では、RISC-Vの最も高度な点はその柔軟性と拡張性にあると思います。RISC-Vは50年は使えるように設計されています」とHimelstein氏は言う。
空白を埋める
現段階では、ほとんどのRISC-V開発は電力が大きな要素となる組み込み制御装置やIoT、5Gアプリケーション向けに行われている。しかしRISC-Vアーキテクチャはオープンソースであるため、中国のテック企業に対する貿易規制の影響をほとんど受けない。
米調査会社Forrester Researchの主席コンサルティングアナリスト、Charlie Kun Dai氏は、「米国の貿易規制が中国の先進的な半導体製造に与える影響は深刻で、材料、装置、(EDA)ソフトウェアなど、ほぼすべての分野に及んでいます」と話す。「中国は国内のイノベーションを促進するために戦略的な投資を行ってはいますが、長い道のりです」
RISC-Vインターナショナルのメンバー企業として参加している中国企業はAlibabaグループ、Huawei社、ZTE社の3社だけでなく、20社以上に上る。
Forrester社でVP兼インフラ・運用担当リサーチディレクターを務めるGlenn O’Donnell氏は、「貿易摩擦の影響で中国のテック企業がx86ベースやArmベースのチップを使用するのが難しくなっていることから、オープンソースの代替品の必要性がますます高まっています」と説明する。
「窮地に追い込まれたら何かをしなければなりません。まったく新しいアーキテクチャを開発することは不可能に近い。不可能であるとは言いませんが、Huaweiのような企業でさえ、そのようなことに挑戦するとは想像できません」
Alibabaグループ、RISC-Vに賭ける
そこでAlibabaグループのような企業では、車輪を再発明するのではなく、RISC-Vアーキテクチャをベースにしたチップを作り始めている。同グループ傘下のT-Head社は、ハイエンドのRISC-Vチップをいち早く市場に投入した。
T-Head社でエッジプロダクトリードを務めるYu Pu氏は「Hot Chips 2020」のイベントで、「RISC-Vはクローズドで高価な(命令セットアーキテクチャ)に代わるものとして非常に魅力的です」と述べている。「オープンかつ無料のRISC-V ISAは、オープン標準に関するコラボレーションを通じてプロセッサのイノベーションを加速させています。スケーラビリティ、拡張性、モジュール性があることで、プロセッサのカスタマイズや特定分野のワークロードへの最適化が可能となっています」
そのためRISC-Vは、機械学習のアクセラレータ、ネットワーク処理、セキュリティエンクレイブ、ストレージコントローラのようなワークロードに最適だとPu氏は言う。
昨年夏に発表されたXT910プロセッサは16コアのRISC-Vベースのチップであり、2GHzから2.5GHzで動作する。XTはXuantie(玄鉄)の略で、中国の物語に登場する玄鉄重剣にちなんで名付けられたものだ。同チップは12ナノメートルの製造プロセスによって製造されている。
同チップそのものは、クラウドエッジやIoTアプリケーションでの使用を目的としている。T-Head社によると、XT910はArm Cortex-A 73コアアーキテクチャをベースにした3年前のスマートフォンプロセッサとほぼ同等の性能を持っているという。
Dai氏によると、現時点ではこうしたチップは主にエッジコンピューティングや消費者向け電子機器のコンピュータビジョンといった分野におけるIoTでの利用を想定しているという。
RISC-Vベースのチップはまだ初期段階にあるが、AlibabaグループとT-Head社は、このプラットフォームは成長しエッジ分野以外にも広がっていく見込みがあると考えている。
両刃の剣
中国の半導体メーカーが直面している課題は2つある。1つ目はアーキテクチャだ。モバイルやIoTの分野を除いて、世の中はIntel社やAMD社が製造するx86プロセッサによって動いている。
とはいえ、これは問題の半分にすぎない。2つ目の課題はインフラにある、というよりもむしろインフラが無いことにある。最新の半導体はほとんどすべて、米国、台湾、韓国のいずれかにある一握りの企業によって製造されている。T-Head社のXT910も、実際のところ台湾のTSMC社が製造している。
中国で最大かつ最先端の半導体メーカーである中芯国際集成電路製造有限公司(SMIC)は、最近になって14ナノメートルノードのチップを製造できるようになったばかりのところだ。一方、TSMC社とSamsung社は5ナノメートルノードのチップを製造しており、Intel社は7ナノメートルノードのチップを市場に投入しようというところにある。
RISC-Vはx86やArmプロセッサに代わる有望な選択肢かもしれないが、中国が西側の競合他社に追いつくにはまだ道半ばだ。
https://www.sdxcentral.com/articles/news/is-risc-v-chinas-semiconductor-salvation/2021/03/
Tobias Mann is an editor at SDxCentral covering the SD-WAN, SASE, and semiconductor industries. He can be reached at tmann@sdxcentral.com
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