今年の仮想イベント「VMworld 2021」では、マルチクラウドSaaS（Software as a Service）モデルへの移行が話題の中心となった。VMware社の新任CTO、Kit Colbert氏によると、こうした移行は顧客とベンダー双方にとってメリットがあるという。

先月上旬に前CTOのGreg Lavender氏の後任となったColbert氏は、今月上旬に開催された同イベントでいくつかのトピックについて語った。VMware社がこのトレンドに乗って広範なソフトウェアポートフォリオのSaaSモデルへの転換をさらに進めていけるよう支援するというのがその1つだ。

サービスをSaaSモデルへ移行することは、「ベンダーの励みとなり、顧客の動機にも沿っているという点で業界にとって非常に良いことです」と氏。SaaSアプリケーションを利用すれば、顧客は大規模なサービスを数分で展開したり新機能を試したりすることができ、それには何かをダウンロードしたりインストールしたりする必要もないと補足した。

「お客様の体験はとても豊かなものになるので、その価値は非常に速やかに見て取れるでしょう」と氏は言う。

ベンダーにもメリット

こうしたメリットを得られるのは顧客だけにとどまらない。Colbert氏によれば、SaaSモデルを正しく導入すれば、ベンダーはより優れた、競争力のあるサービスを構築できるという。同社がこのロジックを既に適用したサービスが「VMware Cloud on AWS」だ。

「当社ではお客様のオンボーディング（サービスへの習熟プロセス）の全ステップに注目し、どのくらいの時間がかかっているか、どこで躓いているかを測定しています」と氏。「もし大きな落ち込みがあれば、そこに焦点を当てて解決を図ります」

このテレメトリングによってベンダーは迅速にサイクルを回し、新機能を導入し、顧客体験を向上させることができるとした。「目的はお客様により良い価値をより早く提供すると同時に、本当に素晴らしい体験をしていただくことです」

Colbert氏はこれを、VMware社の戦略の「第3波」だとしている。第1波は低レベルVM分野のプレイヤーとしての地位を確立したこと、第2波はそうした機能の提供範囲を新しいユースケースに拡大したことだ。そして現在、第3波はそうしたサービスをSaaSモデルに転換することだという。

「私たちは現在、旅路の途中にあります」と氏。「これまでにも多くのSaaSサービスが提供されていますが、今後は本格的に加速モードに移行する必要があります」

マルチクラウドとセキュリティがSaaS移行を複雑化

Colbert氏はこの移行が簡単ではないことを認めている。「私たちはこれを今ではよく理解できていますが、多くの人にとっては根本的な考え方の転換になります」と氏。

SaaSモデルへの移行がVMware社にとっても複雑なものになっているのは、1つのクラウドではなく複数のクラウドで移行が行われているためだ。これによってプロセスやコンプライアンスワークフローの重複、セキュリティへの影響など、顧客やベンダーにとって多くの課題が生じているという。

「ソフトウェアサプライチェーンに問題があってハッカーが侵入し、悪意のあるコードを出荷してしまうようなことはないか、それに気づかないということはないか、といった大きな懸念があります」と氏。

1つのクラウドでこの問題に対処することは可能だが、同じ原則を複数のクラウドに一貫して適用することには問題があるとColbert氏は説明する。これを解決するには、顧客がこの複雑さを管理できるようなツールを構築する必要があるとした。

とはいえ、VMware社はこの問題を単独で解決しようとしているわけではない。人材の再編成やSaaSに特化した従業員の雇用に加え、すでに移行を果たした企業とも協力している。

豪Atlassianはその一例だ。「彼らはオンプレミス製品をSaaS製品にシュリンク包装するという、素晴らしいストーリーを持っていると思います」と氏。「この業界には他にも多くの企業があり、私たちはそうした企業とも交渉をしています」

https://www.sdxcentral.com/articles/news/vmware-cto-champions-saas-multi-cloud-as-win-win-strategy/2021/10/