ネットワーク
文:Chris J. Preimesberger

Wi-Fi 7、データ転送速度が大きく向上=チャネル幅が2倍に

Wi-Fi 7、データ転送速度が大きく向上=チャネル幅が2倍に

一般向けのWi-Fi 6対応機器がリリースされて4年が経つ。ネットワーク構築のツールとして大変重要なものになっているWi-Fiにも、最新バージョンの機器が登場する時期が来た。11月に米シスコがWi-Fi 7対応アクセスポイントの提供を発表したことで、本格的にWi-Fiの新時代が始まっている。「未来の技術にも対応可能な職場をつくる、フレキシブルな基盤」という触れ込みだ。

とはいえ、Wi-Fi 7対応アクセスポイントを提供するのはシスコが初めてではない。それだけでなく、導入事例もすでにいくつか存在している。たとえば、ロンドンに拠点を置くボルディン・ネットワークス(Boldyn Networks)がフロリダ州オーランドにあるキャンピング・ワールド・スタジアム(Camping World Stadium)の一部エリアにWi-Fi 7対応の屋内用アクセスポイントを設置したほか、「Spectrum」ブランドで事業を展開する米チャーター・コミュニケーションズ(Charter Communications)はWi-Fi 7対応ルーターを導入した(家庭用と業務用の両対応に特化したWi-Fi 7ソリューションの導入は大手ブロードバンド事業者で初だとしている)。欧州ではスイスコム(Swisscom)が新サービスの提供を開始した。

もとよりWi-Fi 6も高性能だが、Wi-Fi 7はさらに次のレベルに進んでいる。例によって速度が大幅に向上し、遅延が少なく、容量が大きくなり、通信範囲とカバレッジが向上した。Wi-Fi 7対応のデバイスとルーターがもっと広く流通するようになれば、私たちのインターネット接続はまちがいなくグレードアップする。

具体的にはこうだ。Wi-Fi 7ではチャネル幅が320MHzとこれまでの2倍になったほか、高度な変調方式の採用によって大幅な高速化が実現し、通信速度(理論値)が46Gbpsまで上がっている。つまり、オンラインゲームやビデオ会議といった要求の厳しいアプリケーションでも、従来よりもスムーズで応答性の高い体験を提供できるということだ。

速度だけでなく、通信効率と容量も重視されている。技術の進展によって周波数の利用効率が向上し、遅延が抑えられて同時接続できるデバイスの数も増加した。このことから、家庭やオフィス、公共スペースなど、混雑した環境のネットワークに最適な規格となっている。

加えて、信号強度が向上して通信距離が延び、特に広いエリアでの通信範囲とカバレッジが拡大した。他にも複数の機能が加わり(デバイス側が同時に複数の周波数帯を利用できるMLO(Multi-Link Operation)機能など)、信頼性と性能をさらに高めている。高度なセキュリティプロトコルにも対応し、潜在的なサイバーセキュリティの脅威からネットワークを保護する備えも強化されている。

企業への普及に関しては、世のネットワーク担当リーダーが導入に踏み切るべきかを検討している頃だ。SDxCentralでは、自社にとって最善の意思決定をするために検討すべきポイントについて、ネットワーク自動化のエキスパートに話を聞いた。

ワイボットのCEO兼共同創設者、Roger Sands(ロジャー・サンズ)氏へのインタビュー

米マサチューセッツ州マールボロに拠点を置く創業8年のワイボット(Wyebot)は、AIを活用してネットワークに生じた問題を特定、解決するWi-Fi自動化プラットフォームを開発している。機能としては、問題の前兆を知らせる予防アラート機能やエンドユーザー向けのシンセティックテスト機能、リモートトラブルシューティングといった機能を備え、Wi-Fiパフォーマンスの問題が断続的に発生するのを予防するほか、事業の継続性を損なわないよう、問題発生時にリアルタイムでアラートを発し、自動で根本原因を特定して実行可能な解決策を提供するプラットフォームとなっている。

SDxCentral:御社について、事業で提供されている価値と設立に至った経緯、社名の意味について教えてください。

Sands氏:Wyebotという社名は、「Wi-Fi」のWと「eye(見る)」のye、「robot(ロボット)」のbotを合わせたものです。つまり、私たちはWi-Fi環境を監視して、パフォーマンスの問題を自動で特定し、解決する企業だという意味です。

昨今はWi-Fiで業務を行いますから、Wi-Fiに問題が起こると事業活動にも財務にも大きな影響が及びます。問題が起こるのを防いですべてを最高の状態で機能させるには、AIを活用して予防アラートを通知させ、(問題の前兆に関する)知見と解決方法を得られるようにする必要があります。ワイボットではこれを提供しています。「Wireless Intelligence Platform」はネットワーク全体を、「DEX Agent」は各デバイスをカバーする製品です。

SDxCentral:Wi-Fi 7の性能が向上したことで、小売や製造、医療といった各業種のネットワーク管理者にはどのような影響がありますか。

Sands氏:Wi-Fi 7はIEEE 802.11be Extremely High Throughput(EHT)とも呼ばれ、これまでと比べると、何といってもスループットが際立って向上しています。Wi-Fi 5の最大スループットは6.9Gbps、Wi-Fi 6は9.6Gbpsでしたが、Wi-Fi 7では46Gbpsになっています。こうした設計は、ネットワークに接続するデバイスすべてに対し、さらに高速かつ高効率な通信を提供できるようにという意図で行われました。

また、6GHz帯を16チャネル分束ねられるようになり、最大帯域幅が320MHzに拡張されました。これはWi-Fi 6Eの2倍の数字です。帯域幅が広いほど、同時に最大速度で送信できるデータの量が多くなります。最大容量はWi-Fi 6の5倍になりました。

変調方式の多値化も進みました。Wi-Fi 7では4K-QAMに対応し(Wi-Fi 6は1024-QAM)、一度に送信できる情報量(通信速度)が増えています。動画の視聴もスムーズになります。

あと2点、良くなったところがあります。MLOを導入したことと、MU-MIMO(Multi-User MIMO)のストリーム数が増えたことです。MLOに対応したWi-Fi 7対応アクセスポイントでは、異なる周波数帯域、異なるチャネルを同時に利用したデータ送受信が可能になりました。輻輳や干渉を回避して最適な送受信を行うためにきめ細かな決定ができるようになったことで、データレートの向上や負荷分散の改善、待ち時間の短縮、スループットの向上につながると期待されます。

MU-MIMOはWi-Fi 5から導入された通信方式で、複数のクライアントから1つのアクセスポイントを同時に利用できるようにするものです。当初は下り通信のみ対応し、Wi-Fi 6で上り通信についても対応しました。Wi-Fi 7では使用できる空間ストリームの数が(8から16に)倍増しています。そうするとどうなるかというと、使用できる帯域幅が増え、ネットワークを利用できるデバイスの数が増えます。それぞれのデバイスはデータをダウンロードしたり送信したりするときに順番待ちをするのですが、その時の待ち時間も減ります。つまりは、速度が速くなるということです。

SDxCentral:各企業がWi-Fi 7に今すぐ投資する価値があるかを判断するには、どのようにすればよいですか。

Sands氏:先ほどの質問への回答からお分かりいただけると思いますが、Wi-Fi 7で約束されているのは、高速化と待ち時間の短縮、接続数の増加です。非常に混雑した環境でのパフォーマンスを向上させることを意図したもので、そのためにスループットが大幅に向上しています。スループットとは、ネットワークで実際に送信されるデータ量のことです。デバイス数が爆発的に増加しているうえに、Wi-Fiに依存したユースケースもさらに増えていますから、どの企業でもデータ量は増えています。

Wi-Fi 7が最も役に立つのは次のようなケースだと思います。

・大きな企業や会場施設など、常に数千人のネットワークユーザーが同時接続する混雑した環境で業務を行っている場合。
・数千人規模の利用者を対象に、高品質な映像やAR(拡張現実)/VR(仮想現実)、ライブストリーミングやゲームアプリケーションなどに依存したサービスを提供している場合。
・大容量データのダウンロードに対応する必要がある場合。

SDxCentral:Wi-Fi 7の導入に際して、AIはどのように役立ちますか。

Sands氏:事業で何か新しいものを導入する際は、例外なく、問題が起きていないか、起きているとすればどのような問題か、即座に解決する方法は何かを把握しなくてはなりません。また、期待した通りの(投資に対する)効果が出ているかを把握することも必要です。それには、ネットワーク・エコシステム全体を継続的にリアルタイムで分析する必要があります。事業の継続性と運用効率を確実に維持したければ、目の届かない領域があってはなりません。

AIソリューションであれば、ネットワーク・エコシステム全体を監視することが可能です。休憩することもなく、瞬く間に何千ものデータパケットを処理したり、分析したりします。デバイスとデータ、双方の観点から見てネットワーク上に何が起きているのか、パフォーマンスや動作にどのように影響しているのかをリアルタイムで把握できるのはAIソリューションだけです。人の手では、たとえ当社のエキスパートであっても、同じ時間でこれほど多くの知見を提供することはできません。扱うデータが単純に多すぎるのです。企業全体の活動を支えるにはインテリジェンスが必要で、AIが支援するのはこの部分です。

こうしたソリューションは単にデータポイントをそのまま返すのではなく、取りうる予防策をインテリジェントに提案します。これによって顧客企業は時間と費用を節約することができます。

SDxCentral:2018年にWi-Fi 6が登場した後、本格的に影響が広がるまでには数年かかりました。Wi-Fi 7も同じだと考えておくべきでしょうか。それとも、もしかするともっと早く導入が進むことも考えられますか。昨今ではあらゆるものが早くなっています。

Sands氏:きわめて高速なスループットが大いに重要なケースであれば――何千人ものゲーマーにサービスを提供しているとか、従業員が膨大な量のデータをダウンロードする必要がある場合です――、Wi-Fi 7を今すぐ導入すれば効果があるでしょう。それ以外の層については、Wi-Fi 6と同じような状況になるのではないかと思います。まだWi-Fi 6や6Eにアップグレードしようかという段階の企業には、今すぐにはWi-Fi 7ほどの向上を必要としていないところもあるからです。

Wi-Fi 7 adoption starting to get up to speed

Chris J. Preimesberger
Chris J. Preimesberger

元『eWEEK』の編集長であり、2011年から2021年まで同誌の編集方針を率いた。16年間にわたり『eWEEK』で5,000本以上の記事を執筆し、ソフトウェア開発、データ管理、AI/ML、クラウドサービス、データセンターシステム、ストレージ、IoT、セキュリティなど、多岐にわたる分野での新世代ITのビジネス活用に関する優れた報道と分析で評価される。

2017年2月と2018年9月には、英国の調査会社Richtopiaが分析に基づいて発表した「世界で最も影響力のあるビジネスジャーナリスト250人」に選出された。また、2011年にはSalesforce創設者兼CEOのMarc Benioff氏のプロフィール記事でFolio Awardを受賞するなど、数々の全国的および地域的な賞を受賞している。

以前は、『IT Manager’s Journal』および『DevX.com』の創刊編集者、『Software Development誌』のマネージングエディターを務めた。また、『デイリーニューズ (ロサンゼルス)』のスポーツライター兼コラムニスト、『Peninsula Times Tribune』(パロアルト)の編集者兼テレビ評論家、スタンフォード大学のアシスタントスポーツ情報ディレクターとしても活躍した。1983年以来、AP通信のアシスタントとしても従事しており、現在はシリコンバレー在住。

Chris J. Preimesberger
Chris J. Preimesberger

元『eWEEK』の編集長であり、2011年から2021年まで同誌の編集方針を率いた。16年間にわたり『eWEEK』で5,000本以上の記事を執筆し、ソフトウェア開発、データ管理、AI/ML、クラウドサービス、データセンターシステム、ストレージ、IoT、セキュリティなど、多岐にわたる分野での新世代ITのビジネス活用に関する優れた報道と分析で評価される。

2017年2月と2018年9月には、英国の調査会社Richtopiaが分析に基づいて発表した「世界で最も影響力のあるビジネスジャーナリスト250人」に選出された。また、2011年にはSalesforce創設者兼CEOのMarc Benioff氏のプロフィール記事でFolio Awardを受賞するなど、数々の全国的および地域的な賞を受賞している。

以前は、『IT Manager’s Journal』および『DevX.com』の創刊編集者、『Software Development誌』のマネージングエディターを務めた。また、『デイリーニューズ (ロサンゼルス)』のスポーツライター兼コラムニスト、『Peninsula Times Tribune』(パロアルト)の編集者兼テレビ評論家、スタンフォード大学のアシスタントスポーツ情報ディレクターとしても活躍した。1983年以来、AP通信のアシスタントとしても従事しており、現在はシリコンバレー在住。

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