Apple Vision Proが解き放つかもしれない、プライベート5Gの可能性
米調査会社Technology Business Research(TBR)の最新の調査報告によれば、プライベート5G市場には数十億ドル(数千億円)の商機が依然として未開拓のまま眠っているという。各種の重大だが克服可能な課題によって手つかずとなっており、開拓が進む最初の推進要因は、米政府とAppleということになりそうだ。
通信担当主席アナリストのChris Antlitz(クリス・アントリッツ)氏がウェビナーでのプレゼンテーションで語ったところによると、昨年のプライベートネットワーク関連支出は40億ドル(約5,800億円)をわずかに超えたところで、2027年末までに倍近くになるという。支出対象ははじめ、すでに確立した4G LTE機器に集中し、2026年以降は5G機器が過半を占めるようになるとした。
「成長している良い市場です」と氏は言う。「成長が続いていることから通信事業者の関心は高く、多くのベンダーも関心を寄せている市場領域です。企業への直接販売もそうですし、CSP(通信サービスプロバイダー)以外の顧客へのチャネル販売でも同様です」
政府のプライベート5Gと……Apple?
成長源については、初めのうちはセルラー固有のセキュリティコンポーネントの活用を進める政府機関による直接投資、あるいは脱グローバル化関連の政府補助金によるものが多くなる見込みだ。
前者については軍事基地の接続を目的としたプライベートネットワーク関連の防衛契約が増えていることからもうかがえる。米Hughes Network Systems(ヒューズネットワークシステムズ)が最近ワシントン州の海軍航空基地のプライベートネットワークを稼働させた件もその例だ。
後者については地政学的な懸念が高まっていること、各国の経済がパンデミックから脱却したことが影響しているという。
「現在見られるのが、製造業が盛んでなかった国や、製造の大部分をアウトソーシングしていた国での新しい工場の建設です。これはかなりの部分が国家の安全保障上の考慮によるもので、たとえば半導体製造がそうです」と氏。「他に、サプライチェーンのレジリエンス(回復力)向上やローカル化も目的としています。コロナ禍でサプライチェーンが大きな打撃を受けたことから進められているもので、大手に限らずあらゆる規模の企業が自社のサプライチェーンの再評価や、それを踏まえたリスク軽減のための意思決定を行うようになりました」
また、Antlitz氏はビジョンAI(コンピュータビジョン)がプライベート5Gの導入を促進する一因になるとも予測している。なかでも、Appleが今年発表した新しいデバイス、「Vision Pro」が市場の転換点になると話す。
「私は、Appleから発売されるヘッドセットがゲームチェンジャーになると思っているのです」。氏は市場での短期的な存続可能性をめぐって議論が起きていることを認めつつも、同デバイスがプライベート5G市場に与える影響について、夢のような期待を描いている。
「業界では今、このデバイスが本当に人々に必要なものかどうか、必需品になっていくようなユースケースがあるかどうかについて、多くの議論が交わされています」と氏。「プロトタイプを試した人々から最初の反応を集めたところ、ポジティブな感想が圧倒的多数でした。私としては、あの時が分水嶺だったと言われることになる出来事だと考えたいと思います。最初のiPhoneの登場後にスマートフォンが大流行した歴史を振り返って頂きたいのですが、同じような展開になると思うのです。最初のデバイスの登場でパラダイムが変わります――デバイスとの対話の仕方だとか、そうしたデバイス、そうしたプラットフォームが実現しうる生産性、消費者や企業がそうしたデバイスをどのように使用するかが、がらりと変わるのです」
企業が持っている、プライベート5Gの選択肢
現在、プライベート5G市場の商機をつかむに最も有利なのは、免許周波数帯を持つ通信事業者だと考えられている。とはいえ、そうした優位性に安住することはできないと氏は言う。
「実際のところ、周波数帯は通信事業者が独占しているわけではありません――少なくとも現在は違います」と氏。「免許帯もあれば、免許不要帯も様々な帯域にあります。CBRS(Citizen Broadband Radio Service、市民ブロードバンド無線サービス)のような共有周波数帯もあります。さまざまな周波数帯が利用可能になっています」
そのため、この分野では他のプレーヤーも堅牢なプライベート5Gプラットフォームを市場に投入、企業の投資先の選択肢となることが可能だ。
「もしプライベートネットワークに関心のある企業に助言させていただくとしたら、どこと協業するにせよ――コンサルティング会社でも、SIerでも、OEM企業が自社で提供するサービスであるとか、サービス事業者だとしても――利用できるさまざまな選択肢と、そのメリット・デメリットを十分に理解しておくということをお伝えいたします」と語った。
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
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