5G
文:Matt Kapko

MWCバルセロナ=アナリストらが5Gの成果を批判

MWCバルセロナ=アナリストらが5Gの成果を批判

MWCバルセロナ2021ではほぼすべての人が5Gについて口にしていたが、5Gによって意味のある何かが成し遂げられたというエビデンスはいまだに不足している。

6月末から7月初旬に開催されたMWCバルセロナ2021では、ほぼすべての講演者と出席者が5Gについて口にしていたが、5Gによってどのような人や組織にとっても意味のある何かが成し遂げられたというエビデンスはいまだに不足している。

世界初のモバイル5Gネットワークが展開されたのは2年前のことになるが、業界の誰もが今も様子を伺い、5Gが約束された成果を出すのを待っている。今後も実現しないということもあり得るが、それは5Gへの取り組みや投資が不足していたからではない。

米調査会社LightCountingのチーフアナリスト、Stephane Teral氏がMWCバルセロナ2021のパネルディスカッションで述べたところによると、2020年はコロナ禍によって世界的に経済活動が大きく減速したなかでも、モバイルネットワーク事業者の設備投資額は影響を受けることなく増加したという。

「モバイルインフラは2桁成長を遂げました。考えてもみてください。これは400億ドル(約4.4兆円)規模のビジネスであり、しかも昨年は2桁成長をしたわけです。新しいG(世代)の展開がこれほどのペースで進むのは初めてのことです」と氏は述べ、ワイヤレス業界にとって「前例のない」普及速度だとした。

 

ほとんどの5Gネットワークには但し書きが付いている

とはいえ、Teral氏によると、20214月末時点で稼働している141個の5Gネットワークのうちほとんどは、ノンスタンドアロン(NSA)方式で運用されているという。「NSAが『但し書きが無い(No Strings Attached)』の意味だとは思わないでください。実際にはその逆で、これらのネットワークは4Gを強化したものなのです。LTE-Advancedに基づいています」

「スタンドアロン(SA)方式のネットワークは世界に8つしかありません」とTeral氏は言う。「これら8つの5Gネットワークはまぎれもなく5Gコアネットワークで稼働しており、4Gコアネットワークには接続されていません。これこそが我々が目指すべき5Gです」

同イベントでTeral氏やアナリストらはGSMアソシエーション(GSMA)が6Gに関するセッションを複数回開催した理由について説明を求められ、その回答では5Gの現状をいっそう厳しく批判した。「6Gについて話をしているのは、5Gで提供できると過剰な約束をしてしまった部分をすべて6Gと呼ぶことにしようとしているからです」とTeral氏は話している。

GSMA Intelligenceの責任者であるPeter Jarich氏は、マーケティングや国際的な競争上の関心、6Gという言葉が持つ話題性などが関係しているとした。また、RANのエネルギー効率、サステナビリティ、セキュリティ、新しい周波数帯の利用の仕方などを改善するには長期的な計画が必要だとも述べている。

「不調和を乗り除き、中国の6G、米国の6G、欧州の6Gに分かれてしまうなどということのないように、今から始める必要があるのです」とJarich氏は言う。「早くに始める必要があります。人々は6G2030年に起こる現象であるかのように話しますが、それは正しくありません。5G2020年よりも前から存在していたのですから」

フランスのシンクタンク、IDATE DigiWorldで主席アナリストを務めるRoland Montagne氏は、5Gの多くの部分がまだ実現していないうちから6Gについて詳細を議論するのは時期尚早だと話している。5Gの展開、周波数オークション、3GPPの標準化活動などはいずれもパンデミックの影響で遅延しているという。

Teral氏によると、5Gはほぼ全てのレイヤーでさらなる開発が必要であり、可能性があると考えられている無線技術の飛躍についてはまだ取り組みがなされておらず、5Gに広範な影響を与える可能性は低いという。

 

5Gはこれまでのところ、ほとんど期待に及ばず

3Gは期待外れでしたし、4Gは予想以上の成果を収めました。5Gはこれまでのところほとんど期待に及ばないと判定しなくてはならないでしょう。忘れてはならないのは、5Gは新しい波形として登場したわけではない初めてのG(世代)だということです。私たちはまだ、OFDM(直交周波数分割多重方式)の領域にいるのです」と氏は述べ、その原因は地政学的関係にあるとした。

Massive MIMO(マッシブマイモ)とPolar符号は「5Gで唯一新しいもの」だと氏は言う。新しい波形であれば、「実際にスペクトル効率を大幅に高め、レイテンシを1ミリ秒にまで短縮できる公算が素晴らしく高かったでしょう。まだまだ先は長いのです」

一方、5Gネットワーク事業者は5Gから新たな収益源が得られないかと模索し続けており、まだその謎は解けていないとアナリストらは指摘する。

 

エンタープライズ分野でのビジネスチャンスは未実現

「ご存じのとおり、5Gへの期待の1つには通信業界がエンタープライズ分野のビジネスを広げる援けになるのではないかというものがありました」とJarich氏は述べ、GSMA Intelligenceが調査した通信事業者のCEOのうち、83%5Gによるエンタープライズ分野での売上増を期待していると回答したと付け加えた。

英調査会社Omdiaのチーフアナリスト、Camille Mendler氏によると、ネットワーク事業者のビジネスモデルは接続を提供することから高品質の体験や企業向けのデジタル化を提供することに変化したという。「実際のところ、サービス事業者にはやるべきことがたくさんあると考えています」と氏は言う。「小規模な企業でさえも、また非常に大規模な企業でも、彼らは洗練されたデジタルバイヤーであり、通信事業者各社はエンゲージメントを向上させる必要に迫られてきました」

コロナ禍によって、「彼らはサービスの調査から購入、管理に至るまでのデジタル体験を提供するためにしなくてはならない投資について、より具体的に考えるようになりました。率直に言って、すべき仕事はまだたくさん残っています」とMendler氏は付け加えた。

モバイルネットワーク事業者のエンタープライズ戦略において重要な位置を占めているのがモバイルエッジコンピューティングだが、エッジとは何か、それはどこに存在するのか、企業がエッジを必要とする理由は何なのかについては、ほとんど意見が一致していない。

 

「エッジとは、あらゆる人にとってのありとあらゆること」

「エッジとは、あらゆる人にとってのありとあらゆることを指します。誰もが既にエッジを体験しています。パブリッククラウドにあるものから、デバイスの中にあるもの、企業内にあってサーバーのように見えるものまで、あらゆる場所に存在します。考え方にもよりますが、エッジとはあらゆるもののことだと言えるのです」とJarich氏は言う。

Teral氏は、スペクトル効率を高め、レイテンシを減少させる可能性のある他の未使用技術について論点を述べたなかで、次のように話している。「誰もがエッジについて話をしていますが、誰もがエッジとは何であるかという明確な定義を持っておらず、非常にあやふやなことになっています。問題なのはそこです」

Mendler氏が説明したところによると、エンタープライズ企業はネットワークのパフォーマンスやレイテンシに関する要求を満たすためにモバイルエッジコンピューティングを利用したいと考えているという。「パフォーマンスに関して、エンタープライズ企業は明確な要求を持っています。5ミリ秒か、それ以下にしたいのです。私たちはレイテンシがゼロに近いという世の中に適応していく必要があります。それが価値を生み出し、お金を生み出すことになるのです」

「エンタープライズ分野には多くのチャンスがありますが、そうしたチャンスがどういった部分にあるのかは多くの人が誤解していると思います。港湾や航空会社、交通機関のことだけを考えていては、5Gへの投資を回収することはできません」と氏は言う。「世界の企業の99%は中小企業です。その中小企業に5Gサービスをどのように販売するかという方程式が解けるまでは、投資収益率、利益、成長などを気にしなくてはならないでしょう」

 

エンタープライズ分野への攻勢を脅かすセキュリティ上の課題

また、通信事業者各社はこれまでのところ企業のセキュリティ要件に対応できておらず、5Gが持つビジネスチャンスを狭めているとMendler氏は説明する。今回のイベントでは、セキュリティについてはほとんど話題にならなかった。

「サービス事業者がエンタープライズ企業に向けてもっと多くのことをしたいのであれば、リスクを低減する必要があります。その方法の1つは、実際の状況を把握できる単一のビューを提供することです。現実には、通信事業者から複数のサービスを購入している企業のうち、10社中8社は実情を一望して把握できる方法を持っていません」とMendler氏は言う。

「馬鹿げた問題のように聞こえるかもしれませんが、セキュリティとリスク管理にとって非常に重要なことなのです。通信事業者のサービスを管理するためにあちらのポータルからこちらのポータルへと渡り歩き、通信事業者はもっと多くのデジタルサービスを企業に販売しようとしているという状態では、複雑性やリスクが増大していくことになります。これは今すぐ取り組まなければならない管理のひとつなのです」

Mendler氏はまた、5Gで約束されていたもので、もっと成熟させなければならないものについても強調した。2022228日にバルセロナで開催されるGSMAの次回の年次総会を視野に入れ、氏はネットワークスライシングの実例――通信事業者が企業に販売している5Gネットワークのスライス――を見たいと話している。
 

https://www.sdxcentral.com/articles/news/analysts-knock-5g-effect-at-mwc-barcelona/2021/07/

Matt Kapko
Matt Kapko Senior Editor

Matt Kapko, senior editor at SDxCentral, covers 5G network operators, radio access network suppliers, telco software vendors, and the cloud. He has been writing about technology since before the dawn of the iPhone, and covering media well before it was social. Matt can be reached at mkapko@sdxcentral.com or @mattkapko.

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