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文:Zeus Kerravala, ZK Research

シスコがオブザーバビリティを深化=主役はSplunk

シスコがオブザーバビリティを深化=主役はSplunk

米ネットワーク機器大手シスコが2日から、ラスベガスで「Cisco Live」を開催した。同社は現在オブザーバビリティに力を入れており、5日の基調講演では大半の時間をこのトピックに充てている。壇上にはシスコが買収した米Splunkの製品担当シニアバイスプレジデント、Tom Casey(トム・ケイシー)氏と、同じくシスコ傘下の米ThousandEyesの共同創設者で、同社のCEOおよびシスコのネットワークアシュアランス担当シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務める、Mohit Lad(モヒート・ラド)氏が登壇した。SplunkとThousandEyesはいずれも、シスコのオブザーバビリティソリューションを構成する中核的な要素を提供している。

クレイジーなごちゃごちゃの環境

Casey氏は、オブザーバビリティに関するディスカッションを始めるに当たり、私たちが日々向き合っている複雑さに光を当てた。「いろいろなものがごちゃごちゃになった、クレイジーな状況になっています」と氏。「私たちが働く環境は、大規模化し、ますます複雑化しています。しかも、今後、こうした複雑なありようが変わることはないでしょう」

氏によると、シスコの顧客でも、マルチクラウド環境で従来型のアプリケーション、クラウドネイティブなアプリケーション、各種のサービスを併せて利用するところが増えているという。これらをすべて連携させるのは簡単ではないうえに、適切に行うことがきわめて重要だ。また、技術スタックが複雑になったことで、死角も生まれている――シスコがSplunkで解決しようとしているのがこの部分だという。

「シスコがSplunkを評価したポイントの1つは、当社が市場にアプローチする際に主な差別化要素としている部分でした」と氏。「中でも、Splunkがセキュリティ分野だけでなく、オブザーバビリティでも市場をリードする1社だという点です。オープンソースプロジェクトの「OpenTelemetry」に何年も前から投資していますし、オブザーバビリティを中心としたツールの統合をさらに進める取り組みをしています」

Splunkを推奨、Cisco Observability Platformを非推奨に

氏によると、買収の完了後、Splunkとシスコのチームは(まだ8週間という短い期間ではあるが)一丸となって作業を進めているという。中でも注目すべきは、Splunkを推奨サービスとし、「Cisco Observability Platform」(旧Cisco FSO Platform)を非推奨とすることだ。

「Splunk Observability Cloudを代替サービスとする予定です」と氏。「フルスタックオブザーバビリティソリューションでは、AppDynamicsとSplunk Observability Cloudを使用することになります。それから、Splunkプラットフォームや「Splunk IT Service Intelligence(ITSI)」ももちろん使用します。そのようにしてフルスタックのオブザーバビリティを実現する予定です」

同ソリューションでは、AIOpsやアプリケーションパフォーマンス監視、インフラの監視、ログ分析、インシデント対応、コストおよびアプリケーションリソースの最適化、AI/機械学習/大規模言語モデル(LLM)のオブザーバビリティ、ネットワーク監視、ビジネスリスクのオブザーバビリティ、デジタルエクスペリエンスモニタリング(DEM)が提供される予定だ。

今回の変更は大胆なもので、AppDynamicsをSplunk製品と統合するほか、SplunkのGary Steele(ゲーリー・スティール)CEOをシスコのグローバル市場戦略担当プレジデントに任命している。企業買収ではほとんどの場合、被買収企業が買収企業の事業でこれほど重要な役割を担うことはない。しかし、今は平時ではないことから、シスコの経営陣は同社の今後にSplunkは重要だと考え、こうした難しい決断を下している。

Splunkへの移行による商業面への影響

Splunkを優先してCisco Observability Platformを非推奨とすることは理にかなっている。Splunkを買収した以上、その強みを生かすべきだからだ。ブリーフィングの場で私が知りたいと思ったのは、それよりも、商業面への影響についてだった。Splunkの既存顧客であれば話は簡単だが、それ以外の顧客にはどう影響するのだろうか。Casey氏に質問してみた――そうした顧客が「購入を強制された」と思わずに済むような移行を、シスコはどのように行うのですか?

Casey氏はわかりやすく答えてくれた。「当社はSplunkの購入を強制するつもりはありません。お客様を大切にし、長期的に正しい道を歩んでいただけるように努めます。シスコは多くの企業を買収しているので、ライセンスを他の製品にスワップできるようにしています。商業面についても、そうした仕組みが整っているのです」

Mohit Lad氏も、移行については顧客と密に連携を取っていると語った。「ご契約いただいているすべてのお客様と連携を取り、移行を支援しています。スムーズに取り掛かかっていただけるように、専門チームによるサービスを提供する予定です」

また、Observability CloudやAppDynamicsを利用するにあたって、Splunkの全製品を購入する必要はないとした。「必要な機能だけを利用できる仕組みになっています。全部を購入する必要はありません。その後、運用していく中で段階的に追加していくことも可能です」

Splunkの重要性

買収したSplunkは、早くもシスコにとって大変重要なものになりつつある。280億ドルもかけたことからも、シスコが切迫感を抱いていたとしても驚くには当たらない。買収の後というのは必要以上に波風を立てることをためらう場合があるが、今回は当てはまらないようだ。

シスコは急いでいるが、テック業界自体も同じくらい急いでいる。今までにないほどの速度になっているため、Splunkへの移行を望んでいない顧客でも、移行を余儀なくされることがあるかもしれない。それよりも望ましくないことがあるためだ。シスコは今回のオブザーバビリティに関する発表について、昔からの顧客にも備えを促しているようだ。

顧客によっては、準備もできていないのに、あまりにも速く先へ先へと引っ張られていくと感じることもあるかもしれない。しかし、取り残されるよりはずっとマシなのだということを理解することが肝要だ。

Cisco goes deep on observability, puts Splunk center stage

Zeus Kerravala, ZK Research
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