シスコCFO談=HPEのジュニパー買収がWLAN市場の「不透明感」に
現在、エンタープライズWLAN市場では、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が140億ドルを投じたジュニパーネットワークスの買収手続きを進めている。シスコのScott Herren(スコット・ヘレン)CFO(最高財務責任者)の見解では、この件が市場の「不透明感」となり、シスコの利益になっている可能性があるという。一方で、この分野では、シスコ自身の取り組みもいくらか顧客の懸念を呼ぶ可能性がありそうだ。
Herren氏は9日にゴールドマン・サックス主催の「Communacopia+テクノロジーカンファレンス」に登壇し、席上、HPEによる買収の影響が市場に広がっていると語った。
「いくらか不透明感が生じたのは確かだと思います。こんな声も聞かれます――これまではHPEのベンダーだった、ジュニパーのベンダーだった、あるいは顧客だったけれども、この際、他の機会についても検討してみるべきだろうか? というものです」と氏。「当社では第4四半期、ワイヤレス事業で100万ドルを超える受注が20%以上増加しました」
HPEとジュニパーの製品・サービスには重複しているものがあるため、今後も引き続き提供されるのかが懸念されている。企業の意思決定に影響しかねない要素だが、両社の経営陣はこの問題を小さなこととして扱おうとしている。
「この点について、はっきり申し上げておきます。今回の買収に乗り出した目的は、製品をなくすことではなく、サービス事業者様やクラウド事業者様、あるいはエンタープライズ領域のお客様など、あらゆるお客様に対して、さらに充実した選択肢、さらなるイノベーションをもたらすことです」。ジュニパーネットワークスのRami Rahim(ラミ・ラヒム)CEOが買収発表直後のブログ記事に書いている。
一方で、アナリストは懸念される点を指摘している。
買収発表時には、米フォレスターリサーチのプリンシパルアナリスト、Andre Kindness(アンドレ・カインドネス)氏がリサーチノートに次のように書いている。「ジュニパーの顧客とHPE Arubaの顧客、どちらにとっても今後の道のりは障害だらけのものになるでしょう」。氏の説明によると、HPEにとっては、「ポートフォリオや製品、ソリューションの合理化・最適化」が重要な決定事項になるという。
「HPEは何も変わらないと言って安心させようとするでしょう。ですが、全部をそのままにしておくというのも妙な話です。特に、AP(アクセスポイント)などは製品ラインがたくさんありますし(Instant On、Mist、Aruba Aps)、ルーター/スイッチ用OSも同様で(Juno、AOS-CX、ArubaOS)、管理システムも両社のものがあります(Central、Mist)」と氏。「すぐにではなくても製品は減らしていく必要がありますし、残ったハードウェアについても、クラウドベースの管理や監視、AIといった機能に対応するように変更していく必要があるでしょう」
「これはシスコがViptelaやMerakiを買収した後に、ルーターやスイッチ、ワイヤレス関連の製品ラインに対して行ったことでもあります。私の予想は、Aruba Centralが段階的に廃止され、Mistが残るというものです。何年かかかるだろうと思いますが、もしHPEがAruba Centralへの機能追加を止めるようであれば、Mistに引き継がれるということだと考えてください」
HPEの経営陣はジュニパー買収を支持する姿勢を崩していない。今年末か来年初頭までに買収完了の予定で順調に進んでいること、元来サーバーベンダーである同社にとって、ネットワーキング事業の促進剤となるだろうということを何度も述べている。
「この案件だけでも、売上総利益と営業利益の両方に大きく影響するでしょう」。HPEの直近の算説明会で、Marie Myers(マリー・マイヤーズ)CFO(最高財務責任者)が述べている。「営業利益の50%以上をネットワーキング事業がもたらすことになると予想しています」
ジュニパーの直近の数字を見ると、第2四半期売上高が前年同期比17%減少している。減少した分はすべて機器売上高で、サービス売上高は前年比で増加した。
経費削減と過去の投資が功を奏し、四半期純利益は40%近く増加した。一方で、上半期売上高および上半期純利益は前年比で大幅減となっている。
Rami Rahim(ラミ・ラヒム)CEOはこうした数字を肯定的に捉えており、AIを搭載した製品に継続的な需要があると指摘した。
「6月四半期は予想を上回る需要があり、受注は前期比、前年比ともに2桁の伸びを示しています」と氏。「中でも、クラウド事業者からの受注が好調です。多くは過去に購入した機器やサービスをすでに十分に活用し、今度はAIに投資しようという顧客です。エンタープライズ顧客からの需要も予想を上回るものでした。Mistシリーズがキャンパス/ブランチネットワーク事業をけん引し、勢いが継続しています。企業データセンター向け製品の需要も旺盛でした」
HPEの経営陣も特に懸念を示しておらず、以前の決算説明会でAntonio Neri(アントニオ・ネリ)CEOが投資家に対して次のように話している。「私が指摘できる範囲では、(パイプラインの)遅延や顧客による(購入の)先送り、ジュニパーの買収を発表したことなどが原因で取引を失ったという例は1件もありません」
WLAN市場が拡大―シスコ、HPE、ジュニパーの立ち位置
不透明感が生じてはいるが、WLAN市場は現在、重要な時期にある。
調査会社IDCによる最新のレポートでは、第2四半期、世界のエンタープライズWLAN市場が前四半期比12%超の急成長を遂げたことがわかった。前年比では23%減少した。今年の第2四半期は、COVID-19のパンデミック期に蓄積されていた製品の受注残が通常の水準に戻ったとしている。
市場シェアについては、シスコが39.6%を占め、引き続き市場の主力となった。大きく水をあけられた2位のHPE Arubaが14.8%、ジュニパーは5.1%となっている。
また、デローログループによるWLAN市場レポートでは、Juniper Mist WLANの売上高が競合数社を抜き去り、「(HPEによる買収が進んでいることで)売上が抑えられている様子はない」と書かれている。
シスコ、ネットワーク重視から方向転換
シスコは8月、従来のネットワーク事業を重視する方針を改め、AI、クラウド、サイバーセキュリティといった成長分野にさらに注力していくと発表した。企業再編で長年ネットワーク事業の責任者を務めたJonathan Davidson(ジョナサン・デイビッドソン)氏が同職を離れ、今後、従業員の最大7%を削減する計画だ。Herren氏はこの件に関し、前述の投資家向けカンファレンスで一歩踏み込んだ裏付けを話している。
「当社はワイヤレス領域の規模を変更するとともに、製品ラインのCatalystとMerakiを1つのクラウドプラットフォームの下にまとめ、1つのバックエンドで支えようとしています」と氏。「ワイヤレス分野には相当なチャンスがあると見ています。そのうちいくらかは、M&Aが行われているという背景から生じているようにも思います。この件は多くの人の目を開かせたのではないでしょうか。また、当社がこの分野にイノベーションを組み込んできたことで生まれたものでもあります」
アナリストはシスコの動きを称賛し、財務的にも健全な方向転換になると述べている。
「いつも思っていたのが、セキュリティ事業グループとネットワーク事業グループは意見が合わないのだろうかということでした」。米調査会社デローログループのエンタープライズネットワーク/セキュリティ担当シニアリサーチディレクター、Mauricio Sanchez(マウリシオ・サンチェス)氏が述べている。「ネットワークとセキュリティを合わせるとなると、重複する部分があったり、同じものがあったり、製品の位置づけがぐちゃぐちゃになったりしていたのです。一方にはCatalystがあり、もう一方にはファイアウォールとMerakiがあるという具合です。私にはそろそろわかりにくくなってきていました。この変更がうまくいって、今よりも製品間の調和がとれるようになり、位置づけが定まって、シスコでの活動がやりやすくなるといいですね」
氏によると、シスコがネットワーク重視の方針を変えたのは、単純に利益を追求した結果だという。
「(ネットワーク分野は)現在ドル箱になっていて、今後もここから配当金が支払われるでしょうし、事業は継続するのですが、成長市場というわけではありません」と氏。「1桁の成長を追い求めるだけで満足なのか、急激に成長していて、いずれは明日の大きなドル箱になるかもしれない新しい分野でどの程度戦えるのかを証明すべきなのか、ということですね」
Cisco CFO claims HPE-Juniper deal causing WLAN ‘uncertainty’
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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