シスコがオープンソース技術の米Isovalentを買収へ=クラウドネイティブなネットワーキング/セキュリティ
クリスマスから年末年始の休暇を目前に控えた21日、シスコがIsovalent(アイソバレント)を買収する意向を発表した(いずれも米)。オープンソースのクラウドネイティブなネットワーキング/セキュリティ技術を専門とするスタートアップ企業で、シスコによる2023年のサイバーセキュリティ企業の買収としては6件目、クラウドセキュリティ関連では3件目となる。
Isovalentを設立したのは(オープンソース技術である)eBPFの開発に寄与した主要メンバーであり、CiliumやTetragonの運営チームでもある。クラウドネイティブなインフラ向けにオープンソースのネットワーキング/サービスメッシュ/セキュリティ/オブザーバビリティ(可観測性)ソフトウェアを開発しており、これまでに2回の資金調達ラウンドで6,900万ドルを調達している。
2020年のシリーズA資金調達ラウンドにはシスコも投資家として参加した(リードインベスターは米Andreessen HorowitzとGoogle)。シスコのセキュリティ事業グループのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、トム・ギリス(Tom Gillis)氏によると、この頃すでに同社が立ち上げたCiliumは実際にクラウドネイティブネットワーキングに使用されており、Google Kubernetes Engine、Google Anthos、Amazon EKS Anywhereといった大手パブリッククラウドプロバイダーが提供する複数のマネージドKubernetesサービスの標準手段になっていたという。
シスコはIsovalentを「Cisco Security Cloud」に組み込む計画だ。同ソリューションはハイブリッドマルチクラウド環境でセキュリティサービスとネットワークサービスを統合、ITエコシステム全体を統合するプラットフォームとなっている。
「今日では、(企業が)使用するアプリケーションや仮想マシン、コンテナ、クラウド資産が複数の環境に分散しています。全体を可視化したセキュリティ制御をネットワークやアプリケーションのパフォーマンスを犠牲にすることなく行えるところを想像してみてください。シスコとIsovalentが持つ技術を組み合わせれば、これが実現します」。シスコのセキュリティ&コラボレーション事業担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、ジーツ・パテル(Jeetu Patel)氏が述べている。
買収はシスコの2024年度第3四半期に完了する見込みだ。買収金額などの詳細は非公開。Isovalentのチームは買収完了後、シスコのセキュリティ事業グループに加わる。
Isovalentの主な貢献とテクノロジー
Isovalentのチームは、オープンソース技術「eBPF」の主要コントリビューターだ。eBPFはLinuxカーネルに端を発する技術で、サンドボックス化したプログラムをOSのカーネルのような特権コンテキストで実行することができる。
「これはオープンソースの技術で、カーネルと呼ばれるOSの中核部分に高度なソフトウェアプログラムを組み込むことが可能になります――カーネル自体を実際に変更することはありません」。ギリス氏がブログ記事に書いている。「並外れて強力な技術です。セキュリティやオブザーバビリティ、ネットワークの機能について、これまで不可能だったカーネルレベルでの機能拡張が可能になるのです」
また、Ciliumの開発も主導している。(eBPFを利用した)ネットワーキングに加え、クラウドネイティブアプリケーションの振る舞いや通信の可視化を可能にするソフトウェアだ。最近CNCF(Cloud Native Computing Foundation)の「卒業プロジェクト(Graduated Project)」に認定され、KubernetesやPrometheus、Envoyと肩を並べた。Adobe、Alibaba、AWS、Google、SAPなどが使用している。
「Ciliumは、クラウドネイティブアプリケーションの振る舞いや通信に対して比類のない可視性を提供し、SDN(Software Defined Network)のポリシーをシームレスに定義できることから、ハイパースケーラーやクラウド事業者に広く採用されています」とギリス氏。
Isovalentは最近、Kubernetesクラスタをハイブリッドクラウド環境の既存インフラと簡単に接続できる「Cilium Mesh」、eBPFを活用したオープンソースセキュリティソリューションの「Tetragon」、CiliumおよびTetragonの企業向けディストリビューション「Isovalent Enterprise」の提供も開始している。
「Isovalentの技術にはネットワーキング、セキュリティ、オブザーバビリティに関して破壊的な影響力があり、大規模かつクラウドネイティブな展開に革命をもたらしました。コンテナの数を数百から数百万にシームレスに拡張するようなシナリオで実際に使われています」。米トムベスト・ベンチャーズ(Thomvest Ventures)のパートナー、ウメシュ・パドヴァル(Umesh Padval)氏がSDxCentralのメール取材に応えて語った。「先週(訳注:12月14日)には、サイバーセキュリティ関連で最も急成長しているスタートアップ企業の1社として、フォーチュン社の”Cyber 60″に選ばれました」
パドヴァル氏はIsovalentの取締役会のメンバーでもある(トムベスト・ベンチャーズはIsovalentが4,000万ドルを調達した2022年9月のシリーズB資金調達ラウンドをリードした)。
米Aviatrixの製品管理担当バイスプレジデント、クリス・マクヘンリー(Chris McHenry)氏も同じ意見だ。シスコによる買収は、ネットワーキング、オブザーバビリティ、セキュリティの融合によってクラウド上のあらゆるクラウドワークロードをカバーする技術が主流になりつつあることを示す、「さらなるお墨付き」だと述べている。
シスコ、Isovalentの今後の道のり
シスコは買収後もIsovalentのサービスを提供、強化していく計画だ。また、CNCFなどのオープンソースコミュニティと協力し、eBPF技術やCisco Talosが提供する脅威インテリジェンス、シスコのセキュリティ分析をベースに、あらゆるクラウドワークロードを保護できるソリューションの構築を目指す。
「シスコはオープンソースプロジェクトとしてのCilium、Tetragonに献身します。これらの重要な取り組みについては独立した諮問委員会を設立し、シスコの貢献がコミュニティのニーズに沿う形になるよう舵取りされていくようにしたいと考えています」とギリス氏は書いている。
「シスコでは今後もIsovalent Enterprise for Ciliumをお客様に提供し、強化していきます。IsovalentのCilium MeshはシスコのSDNソリューションを補完するもので、両者を合わせれば、支社からデータセンター、パブリッククラウドまで1つの連続したメッシュを使用する、シームレスでセキュアなネットワークをお客様に提供できるでしょう」
Cisco to acquire Isovalent for open-source cloud-native networking and security
SDxCentralの編集者。
サイバーセキュリティ、量子コンピューティング、ネットワーキング、およびクラウドネイティブ技術を担当している。
バイリンガルのコミュニケーション専門家兼ジャーナリストで、光情報科学技術の工学学士号と応用コミュニケーションの理学修士号を取得している。
10年近くにわたり、紙媒体やオンライン媒体での取材、調査、編成、編集に携わる。
連絡先:nliu@sdxcentral.com
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