ネットワーキング業界の混迷、顧客の懸念=HPEとジュニパー、シスコをめぐって
ネットワーキング市場では現在、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)がジュニパーネットワークスの買収手続きを進め、シスコが企業再編に着手し、従来事業の一部を相対的に重視しない方針に改めている。その影響で、エコシステムの混迷が続き、顧客企業の一部は嵐が過ぎるのを待って設備投資を控えている状況だ。競合他社にはシェアを奪う好機がやってくる可能性もある。
「顧客企業にはいったん棚上げにしていただいています。ジュニパー側の顧客だけでなく、両方ですね」。米フォレスターリサーチのプリンシパルアナリスト、Andre Kindness(アンドレ・カインドネス)氏がSDxCentralの取材で語った。買収をめぐる不透明感に対し、ジュニパーとHPEの顧客はどう反応しているかという問いへの回答だ。「よくあるパターンとして、顧客がシスコ以外に目を向けていて、シスコ製品を販売するショップでもない場合、主に検討されているのがHPEやAruba、ジュニパーです。ですが、今の時点では保留にしていただいています」
保留を勧めるのには、HPEとジュニパーの合併で、どのようなシステムやプラットフォームが生まれるのかが見えてこないという事情がある。
買収が発表された当時、Kindness氏はブログ記事を投稿し、次のように書いている。「今後の道のりは、ジュニパーの顧客とHPEやArubaの顧客、どちらにとっても障害に満ちたものになるでしょう」。HPEの動きとしては、「ポートフォリオ、つまり製品やソリューションの合理化・最適化」が重要になるという。
「HPEは何も変わらないと言って安心させようとするでしょう。ですが、全部をそのままにしておくというのも妙な話です。特に、AP(アクセスポイント)などは製品ラインが複数ありますし(Instant On、Mist、Aruba Aps)、ルーター/スイッチ用OSもあれだけあるわけです(Juno、AOS-CX、ArubaOS)。管理システムだって両社のものがある(Central、Mist)。すぐにではなくても製品を減らしていく必要がありますし、残ったハードウェアに関しても、クラウドベースの管理や監視、AIといった機能に対応するように変更していく必要があるでしょう」
HPEのAntonio Neri(アントニオ・ネリ)CEOや経営陣は、こうした懸念を和らげようとして、HPEとジュニパーの製品ラインにはほとんど重複がないとコメントしている。「たまげました」とKindness氏は言う。
「(Neri氏は)株式市場の金融アナリストや株主のことで気をもみ、なだめるようなことを言わなくてはならないのだと思います。それに、自社で抱えている顧客、あるいはジュニパーの顧客に大きな恐れを抱かせることも望ましくありません。それで、重複もないし変更もしない、すべて並存させると言ってしまうのでしょう」
ジュニパー化した後のHPEがどのような姿になるかについては、重複をどうするかなどの不確定要素によって変わってくる可能性もあるが、Kindness氏が予想しているのは、ジュニパーが持っている通信・ネットワーキング資産に大きく依存した形になるというものだ。たとえば、ArubaなどのHPE製品がMistやMarvisといったAI重視のジュニパー製プラットフォームに置き換えられると予想している。
「Mistはジュニパーにとって、まさにゲームチェンジャーでした。多くの可能性を開いた事業です」と氏。「(Mistの)買収によって180度変わりました。売上にもなりましたが、製品ラインそのものも拡大しました。Mistでできること、それからMarvisのバックグラウンド機能についても、現時点では(HPEが)真似をするのは難しいでしょう。HPE側は、検討はしたけれども、MarvisやMistに追いつくのには時間がかかりすぎると結論したというのが私の認識です」
買収が完了して2、3年の間は、プラットフォーム製品の大幅な削減はないというのが氏の予測だ。とはいえ、ことによるとその間はチャネルパートナーやGTM戦略に関する課題だらけの状況になるかもしれず、それによって(Broadcomに買収されたVMwareのように)市場機会を少しずつ失う可能性もあるとした。
「Broadcomは手段を選びません。正しいか間違っているかは別にして、それが彼らのビジネスモデルです」と氏。「HPEはあれほどの変更を進めることはないでしょう」
競合は虎視眈々―HPEとジュニパー、シスコの変化で
その間、HPEは顧客の関心を維持できるように考慮しながら製品を減らすことになりそうだ。Kindness氏によると、ネットワーク機器を購入するサイクルは多くの企業で複数年ごとになっており、HPEが今後のプラットフォーム計画を再設定する時間の余裕を確保できる可能性もあるという。
とはいえ、競合はそれほど待ってくれなさそうだ。
シスコも波乱にいくらか関わっている。先日開催された投資家向けカンファレンスにCFO(最高財務責任者)のScott Herren(スコット・ヘレン)氏が登壇し、エンタープライズWLAN市場の状況について語った。HPEがジュニパーの買収を進めていることで「不透明感」が生まれ、シスコの利益につながった可能性があると説明している。
「いくらか不透明感が生じたのは確かだと思います。こんな声も聞かれます――これまではHPEのベンダーだった、ジュニパーのベンダーだった、あるいは顧客だったけれども、この際、他の機会についても検討してみるべきだろうか――というものです」と氏。「当社のワイヤレス事業では、第4四半期に100万ドルを超える受注の件数が20%以上も増えました」
言うまでもなく、シスコのネットワーキング事業もひと波乱を乗り越えている最中だ。同社は数か月前に企業再編を発表した。AIやセキュリティ、クラウドといった成長分野に力を入れていくために従来事業の優先順位を落とす方針で、ネットワーキング事業の製品ラインは縮小することにしている。
「顧客の選択肢がたいへん複雑になっており、あれだけのバリエーション、あれだけの数の機能を用意しておくというのは、維持すべき方向性ではなさそうだというのがシスコの認識のようです。Chuckが気づいたのだと思います」。Kindness氏は言う。「ACIとNexus Dashboardの統合が始まれば、その後はCatalyst、Aironet、Merakiといった製品ラインも統合されていくでしょう。正しい動きです。市場は10年も前からシスコに対してそういうメッセージを送っていたのですが、気づくのにしばらくかかったようです」
他の競合も、数社がシェアを奪う好機だと強調している。Kindness氏はアリスタやエクストリームネットワークスといったベンダーを挙げた。
エクストリームネットワークスの決算説明会では、Ed Meyercord(エド・メイヤーコード)CEOが次のように話している。「シェアを奪っているのはシスコからです。(中略)ここまでに挙げた契約の中にはジュニパーやHPEから奪ったものもありますが、見方としては、各社のもともとのシェアを反映した結果になっていると思います。大半がシスコからとなっています」
シスコからのシェア獲得については、CCO(最高商務責任者)のNorman Rice(ノーマン・ライス)氏がSDxCentralの取材に応じ、詳しい話を披露している。シスコがSplunkの買収を完了したことで、それまでシスコと提携していたサイバーセキュリティ企業が新しい機会を探しているのだと説明した。
「一種の空白状態ができていて、この分野ではそれがしばらく続いています」と氏。「フォーティネットなどはこれまで以上にネットワーキング分野に進出しようとしていますし、パロアルト(ネットワークス)は当社に対してとても友好的になりました。ちょっとした連携ができるようになり、当社としてもありがたいことです。彼らは幅広い機能を提供していますから、統合サービスの提供で提携することが望ましいと考えています。そういったセキュリティ統合については、当社ではなく、彼らにできることだと考えています」
HPEとジュニパーに関しては、シェアを奪う機会があるのは買収が完了した後になるという。Meyercord氏が決算説明会で示唆した。
「HPEとジュニパーは、買収が完了すれば難しい決断をいくつか迫られることになると思います。ロードマップに関するつらいニュースを市場に打ち明けることになりますから、顧客にとっては設備投資の計画が頓挫することになりますし、パートナー企業にとっては状況が変わることになるでしょう。当社としては、こうした変化を好機と見ていますが、本格的にそうなっていくのは買収手続きが完了してからになると思います」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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