クラウド
文:Emma Chervek

ハイパースケーラーの反競争的な慣行=英国市場ではマルチクラウドを求める声

ハイパースケーラーの反競争的な慣行=英国市場ではマルチクラウドを求める声

英国の規制当局Ofcom(Office of Communications、情報通信庁)は、同国のパブリッククラウド市場に関する調査をCMA(Competition and Markets Authority、競争・市場庁)に正式に引き継いだ。こうした活動の背景には、ハイパースケールクラウドプロバイダーはマルチクラウドに対応すべきだとの市場のムードがある。これにより、世界のクラウド市場も競争環境に関する精査の対象となる可能性がある。

Ofcomの調査は、2002年企業法(Enterprise Act 2002)に基づくもので、英国の国民と企業の双方の利益のためにデジタル通信市場が十分に機能するよう保証するためのプログラムの一環として行われた。市場がうまく機能しないと企業や消費者は、価格の上昇、サービス品質の低下、技術革新の阻害といった悪影響を被る。

CMAは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといった一部のクラウドサービスプロバイダーの力が大きく抜きんでていることで、競争に悪影響が及んでいるかどうかを独自に調査する。調査後、CMAは市場に健全な競争環境を再構築するための措置を講じるか、または他の公的機関に措置を講じるよう勧告する予定である。

Ofcomによれば、この問題をCMAに付託することは「Ofcomにとって重要な一歩」であり、英国の一般消費者や企業から見たクラウドコンピューティング市場の重要性を示すものだという。

米調査会社Forresterの主席アナリストであるTracy Woo氏によると、この動きは、ユーザーがハイパースケールクラウドプロバイダーに対して、よりオープンで透明性が高く、マルチクラウドの考え方に適応することを望んでいるという、市場のムードの高まりを示す証拠にもなっているという。多くの組織が何かの拍子に陥ってしまう複雑なマルチクラウド環境をシンプル化することは、サードパーティのベンダーに任せるべきではない。「実際にはパブリッククラウドプロバイダーの責任です」とWoo氏はSDxCentralに語った。

しかし、この考え方は「公然の秘密」であり、「こうした大手テクノロジープロバイダーの反競争的な行為を批判したい」という願望は、「これまで誰もあまり強く主張せずに、あるいはできないでいましたが」、多くの人が持っているものだと氏は言う。

その点、英国で進行中の調査は、「大手クラウドプロバイダー同士の競争を抑制するという点で、クラウドプロバイダーにとって不利な要素がまたひとつ増えたに過ぎない」と彼女は言う。
「これは、各クラウドプロバイダーで、もっとオープン性を確保してほしいと望む人々の機運が高まっていることの表れです」

今回の調査によって、クラウドへの支出やハイパースケーラー同士の関係に大きな影響が出ることはなさそうだ。

Ofcomの調査報告

Ofcomの調査により、AWSとMicrosoftが独占している国内のクラウドインフラ市場に関する注目すべき懸念が明らかになった。最も懸念すべき市場の特徴として、エグレス料金、相互運用性に対する技術的な障壁、一定額以上のサービス利用を事前に約束することで受けられる割引が挙げられている。

Ofcomは、IaaS(Infrastructure-as-a-Service)、PaaS(Platform-as-a-Serivce)、SaaS(Software-as-a-Serivce)を含むクラウドインフラ市場を調査した結果、AWSとMicrosoftが2大プレイヤーであり、合計で70%から80%の市場シェアを占めていると判断した。次いでGoogleであるが、市場シェアは5%~10%と少し遅れている。

Ofcomによれば、市場をリードする2社の圧倒的な利益率は、「市場全体の競争が制限されていることを示しています」と述べている。

Ofcomは、大手クラウドプロバイダーの中でも、エグレス料金、つまりクラウドからデータを移行するために顧客が支払う料金が、小規模なクラウドプロバイダーに比べて著しく高いことを明らかにした。こうした高いコストは、ハイパースケールを活用する大手顧客がマルチクラウドモデルを採用する意欲をそぎ、最終的には顧客が別のクラウドプロバイダーに完全に乗り換えるのを妨げることになりかねない。

さらに、大規模なクラウドリソースを使用する顧客は、相互運用性と移行の容易さにおいて技術的な障壁を経験する傾向がある。つまり、顧客は異なるクラウド環境との互換性を確保するために、アプリケーションやデータを再構成しなければならない。
「このため、異なるクラウドプロバイダー間で様々なサービスを組み合わせたり、プロバイダーを変更することがより難しくなっています」と規制当局は述べている。

また、一定のサービス利用による割引は、既存顧客のコストを削減するのに適しているが、「このような割引の仕組みは、より質の高い代替サービスが利用可能な場合でも、クラウドに求める自社のニーズのほとんどあるいは全てにひとつのハイパースケーラーを使用するよう顧客を誘導する可能性があります」と述べている。

顧客を維持するためのこうした一般的な戦略に基づき、規制当局は、移行や様々なクラウドプロバイダーの利用が困難になることで、小規模な競合他社が成長し、AWSやMicrosoftに挑戦することが実質的に難しくなることを懸念している。

Hyperscalers push anticompetitive practices, ignore industry cries for multicloud

 

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Emma Chervek
Emma Chervek Reporter

SDxCentral のレポーター。データセンターのテクノロジーとビジネス ケース、環境の持続可能性、クラウドネイティブ エコシステムを担当。エマは愛犬コビーとデンバーに住み、世界一の散歩を一緒に楽しんでいる。
連絡先:
echervek@sdxcentral.com
X:@emmachervek

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