5G
文:Dan Meyer

米衛星通信イリジウムの「プロジェクト・スターダスト」=5GとIoTを宇宙から支える

米衛星通信イリジウムの「プロジェクト・スターダスト」=5GとIoTを宇宙から支える

衛星通信の米イリジウム・コミュニケーションズ(Iridium Communications)がデバイスと衛星の直接通信(Direct-to-Device、D2D)商用化に向けて新たな挑戦を開始した。3GPPの5G規格に準拠した非地上系NB-IoT(ナローバンドIoT)サービスにつなげたい考えだ。前回のプロジェクトが失敗に終わった後、数か月経っての立ち上げとなった。

新しいプロジェクトには「プロジェクト・スターダスト」という堂々とした名前が付けられており、急速に進展するD2D分野に再挑戦するものとなっている。

Matt Desch(マット・デッシュ)CEOが記者会見に臨み、同プロジェクトでは自社の既存の低軌道(LEO)衛星コンステレーションを使用、標準準拠の5G通信を提供すると語った。現在はD2D通信のためのソフトウェアパッケージ開発を進めている。衛星のアップデートと新設計のチップセットで使用するものだという。

「移動体通信事業者が提供するスマートフォンでも当社のシステムにローミングできるようになります。そうなれば、地上の通信システムの圏外にいる時でも、メッセージや位置情報を送信したり、緊急時に助けを求めたりすることが可能になります」

低速通信はIoTや資産追跡にも役立つ。

「スマートフォンだけではありません」と氏。「NB-IoTデバイスや、牛やヤギの追跡、石油会社で使われる追跡機能にも関係してきます。ネットワークを拡張して、他にもさまざまなことをさらに効果的に提供できるようにする計画です」

衛星65基がスタンバイ

イリジウムの衛星コンステレーションでは、衛星65基以上を6つの「プレーン」に分けて南北軌道に配置、主衛星のいずれかが故障した場合に備えて「予備」衛星も軌道上に9基用意している。各衛星は衛星通信用のLバンドの周波数帯を使用、うまく地球全体をカバーしている。

氏によると、こうした既存の衛星を利用することでプロジェクトのコスト管理がしやすくなるという。来年には新サービスのテストを開始し、今のところ2026年の商用開始を予定していると語った。

2か月前には前回のプロジェクトから半導体大手の米クアルコム(Qualcomm)が撤退している。同社は端末メーカーに対してD2D通信に必要なチップセットを提供するとされていた。

氏によると、イリジウムの当初の戦略は基本的に、アップルが衛星通信サービス(D2D)の提供に当たって米衛星企業グローバルスター(Globalstar)と共同で行ったのと同様の取り組みをAndroidエコシステムで行うものだったという。

しかし、関連各社はこの計画から手を引いたと氏は認めている。

「結局、もっと規格に準拠した手法の方が良いということになりました。当社はこれに応えて3GPP標準に沿った開発を進めています」

IoT、商用ブロードバンドでの商機を見据える

英調査会社アナリシス・メイソン(Analysys Mason)が、D2D市場は2032年までに500億ドルを突破するという予測を出している。米ABIリサーチはさらに強気で、2030年までに衛星通信市場全体で1,246億ドルに達する可能性があると予測、IoT、バックホール、商用ブロードバンド、モバイル衛星等のサービスに商機があるとした。

D2D市場は今年初め、大きな節目を迎えた。米スペースX(SpaceX)が衛星コンステレーション「スターリンク」(Starlink)の衛星21基を新たに打ち上げ、今年中にも地上のスマートフォンとの接続を開始する予定となっている。同社の衛星通信サービス「Direct to Cell」は、米T-Mobile、カナダのRogers、日本のKDDI、オーストラリアのOptus、ニュージーランドのOne NZ、スイスのSalt、チリ、ペルーのEntelなどの通信サービスプロバイダーと契約を結んでいる。

イリジウムが予定しているサービスはスターリンクと似たもので、どちらもメッセージングや緊急サービスといった低速通信のユースケースを対象としている。Desch氏によると、地球全体をカバーできる周波数帯を保有していることから、他の米国内事業者が保有する特定の周波数資産に依存した地域的なサービスと競争できるものになるという。

「この分野には他のプレイヤーも参入してくると思いますが、最も信頼できるのが当社のサービスになるかもしれないと主張して差し支えないと思います。当社には既に展開を完了したネットワークがあり、世界的に調整・承認済みの周波数帯があり、業務プロセスやパートナー開発支援、バックオフィスなどの仕組みがすべて整っています」と氏。「他社は他の周波数帯に依存した地域的なサービスになる可能性が高く、当社のサービスはそれらを補完することもできると考えています」

また、低速通信に引き続き全力で取り組んでいるとして、宇宙からモバイルデバイスへのブロードバンド提供については課題を抱えていることにも触れた。これはイリジウムが衛星通信分野に参入した当初に遡るもので、サービス提供のために数十億ドルを費やしながら、結局は大々的に宣伝した約束を十分に果たせなかったのだった。

衛星ブロードバンドの分野でも衛星企業の数は増えている。現在はスペースXが主力企業だが、米AT&Tや英Vodafoneと4G LTE/5G衛星通信で提携する米ASTスペースモバイル(AST SpaceMobile)、最近5機目と6機目の衛星を軌道上に打ち上げ、NTTドコモと共同でプライベート5G・エッジコンピューティングサービスに取り組んでいるルクセンブルクのSESといった企業もある。

「私は懐疑論者ではありません。ただ――イリジウムの歴史は、20年か30年前、例の携帯電話に似た端末でできることについて、過大な約束をしてしまったところから始まっていると思うのです。建物や車の中ではうまく繋がらなかった時、誰もががっかりしました」と氏。「もしマーケティングが実際の機能に即したものであれば、全体としては素晴らしいサービスだったことがわかっています。ユーザーは購入した端末とその機能に心から満足できたはずでした。(中略)(D2D市場には)さまざまなプレイヤーが参入してくる余地があり、当社もその1社になりたいと考えています」

Iridium’s Project Stardust satellite strategy supports 5G, IoT from space

Dan Meyer
Dan Meyer Executive Editor

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

Dan Meyer
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