ノキア、米AT&TのIMS契約を獲得=ネットワークの中核を支える

通信機器ベンダーのノキアが米通信大手AT&Tとの契約延長を獲得した。これは注目すべき成果で、音声サービスの中核を引き続きノキアが支えることになる。AT&Tのネットワークインフラではノキア製品の存在感が徐々に低下していたが、そうした流れもいくぶん調子が和らいだ形だ。
今回結ばれた複数年の延長契約では、AT&Tが従来利用しているノキア製IMS(IPマルチメディアサブシステム)の「Nokia IMS Voice Core」を更新し、VoNR(Voice over NR)を使えるようにする。同システムは更新によってクラウドネイティブアーキテクチャとなり、「Nokia Cloud Platform(NCP)」で実行することになる。NCPは高度な自動化や制御など、典型的なクラウドの利点をすべて備えたクラウドインフラ基盤だ。
また、AT&Tは顧客サービスの設計/提供/管理でもソフトウェア基盤の「Nokia Digital Operations」を利用し、自動化を促進するとしている。
今回の更新はVoNRの導入をさらに進めるものであることから、ネットワーク分野としても大きな動きとなっている。VoNRとは、5G網上で音声トラフィックをデータトラフィックとして扱うための技術標準で、4G LTEデータ網におけるVoLTE(voice over LTE)と同様のものだ。通信事業者がVoNRを導入すれば、VoLTEトラフィックを5G網に移行できるようになり、4G LTE網に投じているネットワークリソースを5G網へと移行できるようになる。
米調査会社イグザクト・ベンチャーズ(Exact Ventures)の創設者で主席アナリスト、Greg Collins(グレッグ・コリンズ)氏がLinkedInのブログで述べているところによると、ノキアは北米市場へのIMSとVoLTE設備の提供で優位にあり、今回の契約でさらに地歩を固めることになるという。ノキアは2023年半ばに通信業向けのコンテナ/クラウド基盤のサポート、導入、運用を米レッドハットに移管している。
「音声サービスは、通信事業者に不可欠な基本のサービスであるだけでなく、生成AIサービスや生成AIエージェントのインターフェイスとしても、ますます重要性を増しています」とCollins氏は述べている。
ノキアとAT&T
今回の契約延長が決まる以前から、AT&Tネットワークにおけるノキア製品の採用状況は、ジェットコースターのように激しい変化をたどっている。
両社は昨秋、5年間の契約を結んだ。ノキアが光ネットワークソリューションを提供し、AT&Tネットワークの拡充/更新を支援するというものだ。提供するのはプログラマブルハードウェアの「Lightspan MF」と「Altiplano Access Controller」で、これらのソリューションはPON(パッシブ光ネットワーク)に対応し、最大速度は100Gbpsとなっている。
ノキアは規模で劣る光通信機器の競合、米インフィネラ(Infinera)を23億ドルで買収している。AT&Tとの5年契約を獲得したのはそれから2か月も経たない時期のことだ。同社は買収によって光ネットワーク事業の規模が75%拡大し、「製品ロードマップの予定が早まるとともに、幅も広がる」としている。
当時、米調査会社デローログループのバイスプレジデント、Jimmy Yu(ジミー・ユウ)氏が見解を述べている。ノキアがインフィネラを買収すれば、ファーウェイ、シエナに続き、光ネットワーク市場の上位3社に入る企業として地位を固めるというものだ。ファーウェイが支配的優位を保っている中国市場を除くと、買収後のノキアとこの2社で、世界の光ネットワーキング市場の70%を占めることになるという。
「そういった意味で、かなり大きな買収です」と述べている。
一方で、AT&Tのネットワークを他の部分も含めて広く見渡すと、ノキア製品の存在感はじわじわ低下し続けている。AT&TはオープンRANの拡張計画にノキアを参加させておらず、数年前にはノキア製RAN装置の購入を停止している。
ノキアの経営陣は、2024年第3四半期には北米市場とインド市場での販売が減速し、モバイルネットワーク向けの売上高が前年同期比17%減となったものの、第4四半期には穏やかな数字に戻ってきたと述べている。調査会社の指摘によると、RAN市場では、エリクソンやファーウェイといった上位の競合とノキアの差は広がり続けているという。
こうした状況にある一方で、調査会社ABIリサーチは、技術革新と実装に関する評価基準に基づき、オープンRAN市場をリードするベンダーの1社としてノキアを挙げている。
ノキアの経営陣も、通信機器事業の今後については自信を保っている。欧州市場でさまざまなRAN契約を獲得しているほか、西側では通信インフラから中国製機器を除外しようとしている国が増えており、さらに多くのビジネスチャンスがあると強調した。
第3四半期決算説明会では、Pekka Lundmark(ペッカ・ルンドマルク)CEOが説明に立ち、苦戦を認める一方で、他の分野、中でもデータセンター市場に商機があると指摘している。
「来年は通信事業者のTAMがいくらか回復するとされていますが、当社としては現実的にならなくてはなりません」と氏。「今後、通信事業者のTAMが大きく成長することはないでしょう。通信向けの売上高を伸ばすにはシェアを奪うしかありません。原価企画を行う分野であって、成長市場ではないのです。(中略)当社が向こう数年のあいだ最も大きな成長目標を掲げるのは、データセンター向け事業です。他の分野でも成長を目指しますが、最大のターゲットはデータセンターです」

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
JOIN NEWSME ニュースレター購読
月に1回、newsMEのトピックスをメールで配信しています!
登録解除も簡単です。ぜひお気軽にご購読ください
KCMEの革新的な技術情報を随時発信
5G・IoT・クラウド・セキュリティ・AIなどの注目領域のコンテンツをお届けします。
KCME注目の技術領域に関するテックブログを配信しています。
KCME注目の技術領域に関するテックブログを配信しています。
RELATED ARTICLE 関連記事
-
ネットワーク StringerAI2025.02.10
Nokia、ベトナム航空交通管理公社の通信ネットワークを安全性向上のために近代化
Nokiaは、旧式のシステムを置き換え、航空交通管理…
-
ネットワーク StringerAI2025.01.09
ノキア、アルカテル・サブマリン・ネットワークス(ASN) のフランス政府への売却を完了
ノキアは、同社の海底ネットワーク事業であるアルカテル…
-
OPEN-RAN Dan Meyer2024.12.26
AT&TがオープンRANプログラムを強化=重要性はどの程度か
米通信大手AT&Tが大規模なオープンRAN計画を進め…
-
ネットワーク Dan Meyer2024.12.25
ノキアがデータセンターとAPIにますます注力=RAN事業は苦戦
ノキアがこのところ、従来の通信事業者向けRAN(無線…
HOT TAG 注目タグ
RANKING 閲覧ランキング
-
ネットワーク Sean Michael Kerner
2024年における10のネットワーキング技術予測
-
IT Dan Meyer
BroadcomによるVMware製品の価格/ライセンスの変更がどうなったか
-
スイッチング技術 Tobias Mann
コパッケージドオプティクスの実用化は何年も先=専門家談
-
セキュリティ Nancy Liu
SASE市場が急成長=第1四半期、首位はZscaler
-
IT Dan Meyer
BroadcomがVMwareパートナープログラムの詳細を発表
-
セキュリティ StringerAI
Abnormal Security、2024年版Gartner「メールセキュリティプラットフォームのマジック・クアドラント」でのリーダーに認定
-
ネットワーク Chris J. Preimesberger
Wi-Fi 7、データ転送速度が大きく向上=チャネル幅が2倍に
-
ネットワーク StringerAI
Nokia、Openreachと提携し、英国でオープンアクセスの光ファイバーネットワーク構築を推進
-
IT Dan Meyer
ネットワーキング業界の混迷、顧客の懸念=HPEとジュニパー、シスコをめぐって
-
セキュリティ Tobias Mann
米CitrixはMcAfee社、FireEye社と同じ運命を辿るのか=買収合併の後に