サムスンの困惑=米AT&Tの5GオープンRAN計画を受けて
米通信大手AT&Tが先日、オープンRANインフラをシングルベンダーで構成すると決定したことを受けて、韓国の電子機器大手、サムスン電子は当惑を見せている。とはいえ、2024年に向けて、市場に大きなポテンシャルを見出していないというわけではない。
サムスン電子アメリカ(Samsung Electronics America)のネットワーク事業戦略・マーケティング担当バイスプレジデント、Alok Shah(アロック・シャー)氏がSDxCentralの取材に応えて語った。オープンRAN市場は今年、力強い進展を見せたという。AT&Tが決定した、オープンRAN計画で挙げられている企業名や数字からもそのことはうかがえる。
計画では、オープンRAN機器の提供元をエリクソンとし、向こう5年間で140億ドル以上を展開に費やすという。また、2026年末までに無線ネットワークトラフィックの70%をオープンRAN経由で流すことを目標としている。
Shah氏はこれを手放しで称賛し、「AT&TがオープンRANに移行する意思を示したのはとても良いニュースです。オープンRANの進展に常に積極的に取り組んできた同社にとって、さらなる素晴らしい一歩です」と語った。
一方で、AT&Tの具体的な計画に関しては、ひとつの「過程」になると話す。
「彼らの今回の決め方が、私が過去にうまくいくのを見てきたものと、必ずしも同じであるかはわかりません」。AT&Tがベンダー1社に大きく頼ったオープンRAN展開を選んだことについて述べている。「つまり、他の業界であれば、支配的なベンダーがネットワークをオープンにする責任を負うというのは、利益相反のようなことになると思います――たとえば意欲の面で。ですので、どういう風になるかは様子を見なくては何とも言えません。とはいえ、全体的に言って、AT&TがオープンRANの方向に進んでいるのはエコシステムにとって非常に明るいニュースです」
10月に開催された「Cable-Tec Expo 2023」で米調査会社Mobile Expertsのリードアナリスト、Joe Madden(ジョー・マッデン)氏が参加者に語ったところでは、オープンRAN関連市場の売上高は2022年の20億ドル強がピークで、今年は若干落ち込むという。また、2024年から2026年にかけては年間15億ドルにまで落ち込むという予測を述べた。
Shah氏はAT&Tがネットワークの展開、稼働に関する目標を発表したことも評価している。
「ええ、私たちはオープンRANやvRANを自社のネットワークに展開します、と宣言することと、2026年までにオープンRAN準拠のシステムでトラフィックの70%を扱う計画です、と宣言することは別の話です。そちらの方がはるかに具体的です」と氏。「2026年になって目標を達成していなければ、状況を事細かに探られることになります。でも、逃げ場がなくなることで全員が責任を果たさなければと考えるでしょうから、良いことだと思います」
AT&Tは、SDNやNFVに取り組む際にも、自らに同じような(詮索されかねないという)プレッシャーを課している。
Shah氏はさらに、オープンRANが成熟すればAT&Tのエリクソンへの依存は弱まると思われるが、それでも思わぬ困難が生じることになりかねないと述べている。
「私としては、1社のサプライヤーをその活動の管理者のように扱うかどうかは選択の問題だと思いますし、結果がどうなるかは見てみなければわからないことです」と氏。「この問題は結局、影響力を持つことはいつでも役に立つという話になると思います。1社のサプライヤーの製品がネットワークの100%を占め、米国で圧倒的なシェアを持ち、世界的に見ても非常に強い力を持つとしたら、どういった展開が待っているのかについてはいくらか疑問符が付くと私は思います」
AT&Tのネットワーク担当CTO(最高技術責任者)、Igal Elbaz(イガル・エルバス)氏が今回の発表に関するプレスブリーフィングで説明したところによると、他のベンダーが計画に加わる門戸は開かれているという。
「基本プラットフォームの構築はエリクソンの協力で行うことになりますが、マルチベンダープラットフォーム、マルチベンダーエコシステムに移行する際には、ノキアやその他のベンダーにも参画いただけます」と語った。
Shah氏によれば、サムスンは引き続き、どこかの時点で参加することに関心を持っているという。
「(AT&Tが実際に)マルチベンダーのオープンRANアーキテクチャに移行するのなら、どんなチャンスがありそうか、今後わかっていくと思いますし、その時は当社もぜひ契約を競いたいと思います」と氏。「ですが、はっきりしたことを言うには少し早すぎるかと思います」
他のベンダー各社も同様に、AT&Tの計画に参加したい意向を表明している。
サムスンが乗る、オープンRANという船
AT&Tの当初のオープンRAN計画には参加していないものの、サムスンはこの分野については国内外で忙しく活動している。
米通信事業者ディッシュ・ネットワーク(Dish Network)が新たに構築した5Gネットワークではサムスン製品が中核を担い、オープンRAN機器やvRAN機器も供給している。また、競合のノキアに代わって米通信大手ベライゾン(Verizon)のRANサプライヤーにもなった。
さらに最近では、無線通信市場へのさらなる進出を目指し、コムキャスト(Comcast)のような米国のケーブル通信プロバイダーとの提携を拡大している。
また、欧州やアジアでも大きな関心を集めており、定評ある通信事業者と協業、既存ネットワークへのオープンRANコンポーネントの展開を進めている。
Shah氏は2024年の市場について、「とても興味深い年」になりそうだと述べている。
例として、FWA(Fixed Wireless Access)などのサービスで市場に勢いがあることを挙げた。FWAは堅調な成長を見せており、ネットワークリソースに負荷がかかり始め、通信事業者による強化のための投資が必要になる可能性がある。
また、氏は今後、他の通信事業者でも5Gネットワーク展開の収益化に重点を置き、オープンRANやvRANに「踏み切る」ところが増えると予想しており、今回のAT&Tの発表はその直近の一例だということになるだろうと語った。
「業界としては、5Gのキラーサービスは他に何があるかがわかるのをまだ心待ちにしているところだと思います」と氏。「エンドユーザーデバイス側から見れば、そうしたイノベーションが進展するところを見られる興味深い年になるでしょう。私たちは非常に素晴らしいネットワークを構築しました。次は起業家やイノベーターがトラフィックの提供を始める番です」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
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