今月10日にシリコンバレー銀行（SVB）が急速に破綻したことで、米テック業界に衝撃が広がっている。業界にとっては財務面に関する大きな方向性の1つが消えた形だ。連邦政府が介入、遅ればせながら預金の保証に乗り出したが、影響は大きく広がり、今後のスタートアップの資金調達計画にも影響しかねない。

SVBはテック業界では定番の銀行だった。大手ベンダーやスタートアップ、ベンチャーキャピタルが資金を預けており、そのうち数社は同行の破綻を受けて自社に影響する可能性があるかを説明するステートメントを出している。

たとえば、ZscalerはSVBを取引銀行の1つとしていたものの、同行に預けているのは現金・預金総額19億ドルのうち0.1%にも満たないとするステートメントを出している。

「じっさい、19億ドルのうち大半は銀行預金ではなく、米国短期国債やガバメントMMFなどの極めて安全で流動性の高い資産に投資しています」。CEOのJay Chaudhry（ジェイ・チョードリー）氏が述べている。

SVBと同様にテック業界と関係のある中堅銀行に対する不安も広がっている。

「マクロ経済情勢に対する懸念に加えてSVBファイナンシャル・グループ破綻の影響が波及し、他にも同種の銀行や貸し手が資本不足の問題を抱えているかもしれないという憶測が生まれ、売りが殺到する結果となりました」。英調査会社GlobalDataのアナリスト、Murthy Grandhi（マーシー・グランディ）氏が自社ブログに書いている。

似た立場にある各行は週末にかけてステートメントを発表、投資家に向けて強固な資本があると説明、懸念の払しょくに努めた。

ファースト・リパブリック銀行（FRB）、パックウェスト・バンコープ（PacWest Bancorp）、ウェスタン・アライアンス銀行（WAB）などがこうしたステートメントを出している。

ベンチャーキャピタルへの影響

ベンチャーキャピタルも懸念に対応しようと奔走している。

今月中旬、Y Combinatorはレイターステージの投資チームの人員を17名削減する計画を発表したが、これについてGarry Tan（ギャリー・タン）CEOが米TechCrunchに対しSVBの破綻とは無関係だと述べている。

政府による介入以前、タン氏はTwitterで「米国内の何千社というスタートアップ」がSVBを取引銀行としており、「スタートアップが絶滅しかねない出来事だ。スタートアップやイノベーションは10年以上遅れることになるだろう」と述べている。

一方、政府の対応によってSVB破綻による損害は大幅に抑えられると指摘する声もある。

「ベンチャーキャピタルはどこも無傷でしょうし、多くのスタートアップ、イノベーター、起業家は廃業や給与未払いに追い込まれることもないでしょう」。シリコンバレーに拠点を置くThe Kerton Groupの主席アナリスト、Derek Kerton（デレク・カートン）氏が米SDxCentralのメール取材で述べている。「経済にとっては素晴らしいことでした。先週より良くなったわけではありませんが、もっとずっと悪くなる可能性があったということです。スタートアップの創業者というものはリスクを取ることを選ぶ人々で、自分の判断を基に沈むか泳ぎきるかしなくてはなりませんが、判断すべきは事業が成功するかどうかであって、取引銀行が支払い能力を維持できるかどうかではありません」

最大の影響は、スタートアップが業界固有のニーズに強みを持つ取引銀行を失ったことかもしれないという。

「もちろん他の銀行を選べますし、それで問題はないのですが」。デレク氏は言う。「スタートアップがSVBを失うというのは、たとえばサーブ（SAAB）のようなユニークな車を持っていたとして、住んでいる町にサーブのディーラーがあって良いサービスを受けていたとします。ところが倒産してしまった。もちろん総合的な対応ができる整備士を見つけて自分の車を見てもらうことはできますが、あなたの具体的なニーズを分かっていて、部品の在庫を備え、特定の要望に対してアドバイスをくれる専門家がいなくなってしまったということなのです」

Silicon Valley Bank Collapse Impact Limited