米AT&Tが5Gクラウドスタックを放棄、マイクロソフトが拾い上げる
米AT&Tは先月末、世界第2位のクラウド事業者であるマイクロソフトに「Network Cloud」技術を売却し、5Gコアネットワーク、各種ワークロード、各種サービスを「Microsoft Azure for Operators」に移行する方向に舵を切った。
AT&Tが直面した、背景にある動向と実情は明らかだ。クラウドコンピューティングにどれだけ投資し、手腕を発揮したとしても、モバイルネットワーク事業者はハイパースケーラの力にはかなわないということだ。
AT&Tが5Gコアネットワークの自社開発を事実上断念し、「Network Cloud」技術とそれに携わってきた従業員をマイクロソフトに譲り渡すという方向転換をしたことは、同社の10年近くにわたるクラウドネイティブへの取り組みが岐路に立ったことを意味している。複数のクラウド事業者と中途半端な提携を結べば複雑さが増し、クラウドにモバイルネットワークインフラを置くという方針の実現は遅れることになる。
両社は約2年前に契約を結び、マイクロソフトはAT&Tにネットワーク以外のアプリケーションや社内ITインフラを支えるクラウドサービスを提供していたが、今回の移行でこの契約は大幅に拡大することとなった。今回、AT&Tは自社のネットワークの重要な部分をマイクロソフトのクラウドに移行し、自社で開発したネットワーククラウド技術の管理を放棄することになる。
米調査会社Technology Business Researchの主席アナリスト、Chris Antlitz氏はSDxCentralに対し、「これは大きな動きですが、予想外のことではありません」と語った。
AT&Tとマイクロソフトは今回の取引の金銭的条件を明らかにしなかったが、ソフトウェア開発とNetwork Cloudのデプロイメントの両方について、直ちに移行が行われるとした。また、マイクロソフトはAT&Tが持つコンテナ化ネットワークサービス・仮想化ネットワークサービス向けのエンジニアリング・ライフサイクル管理ソフトウェアも取得する。
AT&T、まずコアネットワークをAzureへ移行、その他の資産も順次移行
AT&Tによると、最初の事業で対象とするのは同社がまだ展開していないスタンドアロン(SA)方式の5Gネットワークコアであり、既存のネットワーククラウドも2024年半ばまでにAzureに移行する計画だという。
AT&Tのエンジニアリング・運用担当SVP、Igal Elbaz氏は、AT&TのSA方式5Gコアネットワークの導入時期や、関係する他のベンダーがどこかについては回答を避けた。
AT&TのCTO、Andre Fuetsch氏はあるステートメントの中で、今回のマイクロソフトへの売却を「AT&Tのネットワーク仮想化におけるリーダーシップ、イノベーションという社風、通信事業者グレードのクラウドスタックの実現を示す証拠」と表現した。
しかし、同社はそうした取り組みが持つ価値をすべて実現することはできなかった。また、自社開発やオープンソース開発にこだわったことで、SA方式5Gコアネットワークの展開が遅れたという意味のことも言っている。
「これによってAT&Tのクラウドネイティブへの移行が加速し、DIY(自分でやる)アプローチに比べてコストを削減できる可能性が高い」とAntlitz氏は言う。「AT&Tが自社のプライベートクラウドを利用するのではなく、このアプローチを選択した主な理由はそれでしょう」
また、この取引の結果、AT&Tは約100人の重要なエンジニアを失う。Elbaz氏によると、
コンテナ化コアネットワーク開発で重要な役割を果たしたネットワーククラウド担当VPのRyan van Wyk氏はマイクロソフトへの移籍に同意したという。氏は質問に答え、「AT&T Network CloudチームはMicrosoft Azureチームへの参加オファーを受けています」と書いている。
マイクロソフト、オープンソースプロジェクトへの取り組みも吸収
AT&Tは、これまでのビジョンでは重要だった各オープンソースプロジェクトにおいても、その役割を弱めることになる。「今回の取引によって、(オープンソースプロジェクトの)AirshipやOpen Infrastructure Foundationに寄与しているAT&Tの各チームに影響があります」とElbaz氏は説明する。
「マイクロソフトはAirshipのオープンソースコンポーネントを引き続きサポートし、さまざまなオープンソースコミュニティで貢献していく意向です。また、今後もOpen Infrastructure Foundationと協力していきます」と氏。
Elbaz氏によると、AT&Tが他のクラウド事業者と結んでいる契約は、IoTやマルチアクセスエッジコンピューティングに関してIBM Red Hatと結んでいるものも含め、変わらず継続するという。「今回の発表はモビリティネットワーク機能に関するものです」。「この提携により、オンプレミスやパブリッククラウド上での通信事業者グレードの能力を備えたAzure for Operatorsのハイブリッドクラウド上で、当社のモビリティネットワーク機能を実行するための道筋ができました」と氏は付け加えた。
マイクロソフトの「Azure for Operators」プラットフォームには、クラウド、エッジコンピューティング、IoT、ネットワーク機能、人工知能のためのサービスが含まれている。同社の5G戦略では、プライベートの「Azure Edge Zones」、「Azure IoT Central」、米Affirmed Networksを買収して得たvEPC(Virtualized Evolved Packet Core)ソフトウェア、英Metaswitch Networksを買収して導入したCNF(クラウドネイティブ・ネットワーク機能)を組み合わせている。
Azure、5Gコアネットワーク技術を獲得
マイクロソフトはこうした組み合わせにAT&Tのネットワーククラウド技術を加え、他の通信事業者にも提供することを計画している。
AT&Tのネットワーク仮想化への道のりは2013年後半に前CEOの元で本格的に始まり、その際、2020年までにネットワーク機能の75%をSDNで仮想化するという野心的な目標を掲げていた。経営陣による一連のコメントは紛らわしく、矛盾していたこともあるのだが、それによると同社は予定より3ヶ月早く、あるいは9ヶ月遅れで目標を達成している。
同社はパブリッククラウド中心の企業になるという長年の目標を追求し続けており、今回のMicrosoftとの広範な提携はその取り組みを強化するものだ。また、これによってAT&Tは5Gコアネットワークをパブリッククラウドで展開する最初の通信事業者の1社となり、競争力を持つことになる。
米Dish NetworkはAmazon Web Services(AWS)上でノキアによるSA方式の5Gコアネットワークを稼働させる予定で、同社初の5GオープンRAN市場であるラスベガスで今秋に運用を開始するとしている。
「5Gコアネットワークのような重要なものをパブリッククラウドに移行するのにはリスクが伴いますが、マイクロソフトには間違いなくこのような複雑なワークロードをクラウドで大規模に処理することができる、世界でも有数の人材と能力があります」とAntlitz氏は説明する。「誰かがそれをできるとしたら、それはWebスケール企業でしょう」
Matt Kapko, senior editor at SDxCentral, covers 5G network operators, radio access network suppliers, telco software vendors, and the cloud. He has been writing about technology since before the dawn of the iPhone, and covering media well before it was social. Matt can be reached at mkapko@sdxcentral.com or @mattkapko.
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