Broadcomは「脅迫者」=米AT&Tが酷評
米Broadcomによる買収を受けて、VMwareのライセンスモデルが変更された。同社のクラウド基盤を長年利用していた顧客はあまり良い受け止め方をしておらず、通信大手の米AT&Tもそうした顧客の1社と考えてよいようだ。
AT&Tは8月、Broadcomを相手にニューヨーク州で訴訟を提起した。AT&Tは数十年前からVMwareの仮想クラウド基盤を利用する契約を結んでいたが、新しくVMwareの親会社となったBroadcomが、既存の契約条件を違法に変更したという主張だ。AT&Tにも昔から規模で劣る競合を買収してきた来歴があり、ビジネスはビジネスだということは認めている。だからといって、契約条件は維持しなければならないという認識だ。
「新しく所有者となったBroadcomは、VMwareの事業モデルを将来に向かって変更するあらゆる権利を有する」とAT&Tの訴状には書かれている。「ただし、VMwareが結んでいる既存の契約を新しい企業戦略に合わせて遡及的に変更することはできない。しかし、Broadcomはまさにそれを行おうとしている」
具体的には、「AT&Tに対し、AT&Tが必要としていないソフトウェアやサービスを含む数億ドル相当のバンドルサブスクリプションを購入するように要求しており、これを受け入れない限り、以前に永久ライセンスを購入したVMwareのソフトウェアに不可欠なサポートサービスの提供を保留すると脅迫している」という。
サポートサービスというのは、AT&Tがサーバー約8,600台で75,000個を超える仮想マシンを実行するのに利用しているVMwareソフトウェアのサポートサービスで、「日常的なメンテナンス、セキュリティパッチ、アップグレード、トラブルシューティング」などがあるという。AT&Tはサポートの必要性をさらに強調して、次のように述べている――「(VMware基盤で実行されているシステムは)AT&Tの緊急通信サービスを提供するのに不可欠であり、同サービスは米国政府と全米の無数の警察官や消防士、救急救命士、救急隊員、緊急対応チーム(ERT)、およびその他の広く公共安全に携わる人々に必要とされている」
訴状では旧来のVMwareの価格モデルが複雑だったことも明るみに出された。20年以上前に提携を結んで以来、数多くの再交渉や修正を行った旨が書かれている。最も新しい修正は2022年8月に行われたもので、それによって「(AT&Tは)その時点での契約期間の終了前に限り、“単独の選択”でサポートサービスを“最大”2年間更新できる」ことになった。
AT&Tの主張によると、同社はBroadcomに対してこのオプションを行使する意向を通知したのに対し、「BroadcomはAT&Tに対して更新を拒否」し、「サポートサービスだけの価格よりも数千万ドル高い」コストを支払ってVMwareの新しいライセンスプログラムに参加するようにとあくまで主張しているという。
「BroadcomはAT&Tが望んでおらず、必要ともしていないサブスクリプションの契約代金として多額の身代金を支払わせようとし、さもなければ、AT&Tが世界中に抱えている数百万の顧客の業務に損害を与えうるような広範なネットワーク障害の発生リスクを負うことになると脅そうとしているが、このような試みは、両当事者の書面による合意の明示的な条項によって禁じられている」と訴状にはある。「従って、AT&Tは恐喝に応じることを拒否し、契約違反及び誠実かつ公正な取扱いの黙示の誓約違反を申し立て、宣言判決及び差し止めによる救済を求めて本訴訟を提起する」
Broadcom、VMwareの料金は低下したと主張
Broadcomの経営陣はこうした主張に対して何度も反論を試みており、VMwareの新しいライセンスプログラムに加入すれば、実際はコストを削減できると主張している。
VCFのアップデートに関するプレス向けのあるブリーフィングでは、VMwareのクラウドプラットフォーム/インフラ/ソリューションのマーケティング担当バイスプレジデント、Prashanth Shenoy(プラシャント・シェノイ)氏が説明に立ち、かなりの時間を割いて「市場のFUD(不安や疑念を煽る言説)やノイズ」に対する反論を試みた。「Broadcomの子会社になったら値上がりした、製品数が大きく減った」という批判のことだ。
前者の批判については、「これほど事実とかけ離れたものはない」と語った。
「VMware Cloud Foundationのサブスクリプション価格は半額になりました」物理コア1個当たりの価格は年間700ドルだったのを、新しいサブスクリプションでは350ドルに引き下げたと説明している。
「私たちが行ったのは、以前に提供していたCPU単位の永久ライセンスモデルから、物理コア数を単位とするサブスクリプションモデルへの完全な移行です」と反駁した。
Shenoy氏はさらに、VMwareはこうしたサブスクリプションモデルへの移行が遅れていたと語った。以前にも述べていた見解だ。「率直に申しまして、クラウドインフラ業界の動きを詳細に追っている皆様であれば、こうした価格モデルは、ここ数年であらゆるインフラベンダーやエンタープライズソフトウェアベンダーが採用してきた業界標準だと認識されているのではないでしょうか」
このように豪語する一方、VMwareの永久ライセンスを長年利用し、サポートやサービスを更新してきた顧客にとっては「価格面が課題に」なっていることも認めている。
「永久ライセンスとそれに伴うサポート&サブスクリプション(SnS)の更新が終了したことで、こうしたお客様に関しても、サブスクリプションモデルに移行する以外に選択肢がなくなりました。値上げになったといわれるのはこの場合のことで、SnSの更新価格とフルスタックのサブスクリプション価格を比較されているのです。(中略)当社としては実施するより仕方のないことでした」。サブスクリプションモデルが業界標準になっているという主張に触れつつ、このように述べている。
VMwareの顧客に向けたアナリストによる忠告―Broadcomの影響について
席上、Shenoy氏はVMwareプラットフォームの変更によって新旧の価格比較がさらにしづらくなったことにも言及した。この話題にはアナリストも飛びついている。
調査会社Forrester Researchの主任アナリスト、Naveen Chhabra(ナヴィーン・チャブラ)氏は、SDxCentralの取材に対して次のように語った。以前のモデルであれば、顧客がシャツを1枚だけほしい場合には単品で購入することが可能だったが、今はBroadcomがスーツを一式購入するよう強要してくるのだという。
「確かに、このモデルでお金の節約になると主張することは可能です。ですが、探していたものはこれでしょうか。あなたはシャツがほしかっただけです」と氏。顧客はVCFのような大きなパッケージを買わされるが、その中のアイテムにはいらないものがあるかもしれないと語った。Broadcomはパッケージの価格を引き下げてお得であるように見せかけることができる一方で、顧客は製品を1つ購入したかっただけの場合でも、余分な支払いをするはめになるということだ。
新しいサブスクリプションモデルでは、その後も毎年支払いが必要になるため、こうした余分な請求は長期的に影響を及ぼすことになる。
「(TCOは)5年分というわけにはいきません」と氏。「毎年支払いが積み重なっていきます」
VMwareサービスの価格設定とライセンスモデルが変更された結果、長期顧客の支払いは大幅に上昇し、多くが代替製品を探しているという。こうした状況が何度もアナリストに取り沙汰されている。
Chhabra氏のチームでは最近、あるレポートを作成している。こうした状況の中で、企業が今後、VMwareの変化に対応していく際に使える雛形を提供しようと試みた。同レポートによると、Broadcomが実施した変更による影響は、製品マーケティングで定番の「5P」――製品・サービス(product)、価格(price)、デザイン・包装(packaging)、流通(place)、プロモーション(promotion)、協力者(partners)――すべてに及ぶという。
「あるVMwareの顧客は、現在のVMware製品の使用状況が新しいライセンスモデルと製品パッケージのどこに対応するかを踏まえると、価格が500%上昇することになりそうだと話している」として、影響の大きさを指摘した。
また、価格が変更になるのは予期されていたことで、以前から氏のチームでは次のように予測していたという。「(世界の大企業の20%が)離脱を――この言葉はとても慎重に解釈していただきたいのですが――VMwareスタックからの離脱を始めるでしょう」
「一夜にしてすべてを入れ替えるわけではなく、徐々にですが、始まると思います」と氏は言う。「いま現在、実際にそうなっているのをはっきり目の当たりにしています。この予測が正しかったと言えるようになるまでに、さらに5か月もかかるということはないでしょう」
Broadcomはほとんど揺らがず
Broadcomはこれまで、一部の大口顧客に対しては価格設定に柔軟な姿勢を見せている。
「大口顧客に対しては、Broadcomも柔軟であろうとするでしょう。そうした顧客を失いたくないからです」。競合の米Nutanixが直近の決算説明会を終了した後、プレス向けの質疑応答を行った中で、Rajiv Ramaswami(ラジブ・ラマスワミ)CEOが述べている。「顧客はおおむね、価格も、Broadcomが取ったやり方にも不満のようです。顧客ファーストではなく、Broadcomファーストといったところでしょうか。それによって大いに顧客の不安を招いていますし、そうした企業様が当社の方に来られていて、そのうちの多くの企業様と関わらせていただいています」
AT&Tとの騒動をよそに、Broadcomでは長期顧客に対して新しいサブスクリプションライセンスモデルに移行してもらう取り組みを進めている。第2四半期決算説明会ではHock Tan(ホック・タン)CEOがその進捗具合を伝え、「既存の最大顧客10,000社のうち、3,000社近く」が契約に至ったとした。「こうしたお客様には、おおむね複数年契約を結んでいただいています」とも述べている。契約額を年率換算すると、今年第2四半期の総額は19億ドルとなり、第1四半期の12億ドルから増加している。
「進捗は順調です」と氏。「まだ決して完了したわけではありませんが、期待通りに移行が進んでいます」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
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