2023年、通信業界のトレンドTOP5=テイラー・スウィフトもランクイン
通信・ネットワーク分野の今年1年の浮き沈みをまとめると、どのようになるだろうか。以下は筆者が考える、2023年の5大トレンドをピックアップしたものだ。
(ネタばらしは控えるが、テイラー・スウィフトもランクインしている)
FWA市場が順調に拡大
FWA(固定無線アクセス)市場は2023年、好調なスタートを切った。FWAで定評のあるTモバイルUSやベライゾンでは、年初時点でいずれもFWAシステムへの接続が数百万件あった。2023年を通じて成長は続き、両社のFWA接続数はおおむね倍増、業界の主な成長分野の1つであるFWAの強化が進んだ。
AT&Tは広帯域を使用するブロードバンドサービスが長期的に持続できるのか疑わしいとする発言を繰り返していたが、市場の勢いは強く、同社もついに動いている。
今年も終わりが近づいた今、FWAは通信事業者に新たな収益機会をもたらす数少ない5Gユースケースの1つとなった。
「私はこの5Gユースケースが大好きなんです」今年のMWCラスベガスでSDxCentralが取材した、ベライゾンのEVP兼グローバルネットワーク/テクノロジー担当プレジデント、Joe Russo(ジョー・ルッソ)氏がてらいなく話している。「当社にとっても素晴らしいものですし、お客様にとってもブロードバンドの選択肢を増やしてくれる、素晴らしいものだと考えています」
プライベートネットワーク、MEC、5G SAは停滞
FWAが5Gによる恩恵となった一方で、プライベート5G、モバイルエッジコンピューティング(MEC)、5GC SAは2023年、いずれも停滞している。
プライベート5G市場には依然として豊富なチャンスが眠っているものの、通信事業者やネットワーク事業者では、マクロ経済の逆風の中で、有力なユースケースや法人顧客を探し続けている状況だ。明るい材料となったのは(米)政府や軍向けのセグメントで、同セクターはプライベート5Gネットワークシステムを強く支持している。
MEC市場もなかなか発展せずにいる。プライベート5Gと同様に、MECの利点である低遅延を必要とする有力なユースケースがまだ不足しているほか、財務的に健全なMECプラットフォームを提供するのに有利なのは通信事業者とハイパースケーラーのどちらなのかをめぐり、多少の混乱がまだ続いている。
今年は5GC SAの立ち上げも停滞した。5GC SAの運用については、多くの大手通信事業者が引き続き限定的なものにとどめている。TモバイルUSのように、既に立ち上げを行った事業者は運用効率の高さを変わらずアピールしているが、そうでない事業者は導入時や運用面の課題に対して対応を決めかねている。
通信設備投資の縮小が始まる
5GC SAの新規立ち上げにさらに影響を及ぼしたのが、通信事業者によるネットワーク支出の削減だ。名目としては、数十億ドルをかけた初期の5G展開が一段落し、次の段階でさらに数十億ドルを投じる前に、いったん財務面の休息を挟んで費用対効果を確認したいという。
AT&TのPascal Desroches(パスカル・デローシュ)最高財務責任者(CFO)は今年、ある投資家向けカンファレンスで次のように話している。「今年が終わる頃には、当社としては投資のピークを過ぎているでしょう。(中略)設備投資の規模が2022年、2023年のようになることはまずないと思われます」
ベライゾンも同じ見方を示し、ミッドバンド展開への投資を徐々に縮小している。今年は最大で192億5,000万ドルの支出を予定しているが、来年は175億ドル弱になる見通しだとした。
こうした設備投資の削減によって最も痛手を被ったのがファーウェイ、エリクソン、ノキアといったネットワーク機器ベンダーで、各社とも純損益への影響が生じている。
BEADプログラムの莫大な補助金
もしも連邦政府から何某かのお達しがあれば、設備投資の縮小は長続きしない可能性もある。
政府は6月、NTIA(米国電気通信情報庁)の「Broadband Equity, Access, and Deployment(BEAD)」プログラムに約425億ドルの資金を割り当てた。同プログラムはインフラ投資雇用法(IIJA)の下で進められているもので、同法ではブロードバンドインフラに約650億ドルを割り当てている。
BEADプログラムの資金は全米50州、コロンビア特別区、5つの準州に分配され、ブロードバンド接続の提供拡大に使われる。使用する機器は米国内で構築されたものである必要がある。
「各社の機器構築を奨励することになるでしょう。BEADがなければROIが見込めず、行われなかったかもしれない取り組みです」。コンサルティング会社の米RSMで技術・メディア・通信担当シニアアナリスト兼ディレクターを務めるAndrew Fedele(アンドリュー・フェデーレ)氏がSDxCentralの取材で話している。
通信事業者やベンダー各社は2023年、BEADの助成金獲得に向けて準備を整えてきた。獲得した資金は光回線やFWA、あるいは衛星通信の拡大のために使われると見られている。
「当社は複数のサービス事業者から大きな支持を得ています。中にはTier2、Tier3のサービス事業者で、投資およびBEADの助成金獲得を予定している所もあります」とノキアのPekka Lundmark(ペッカ・ルンドマルク)CEOが話している。「2024年には徐々に進展があるでしょう」
「スウィフティーズ」向けの周波数帯
2023年、通信事業者が5Gネットワークの規模や範囲を拡大する上で、周波数帯は大きな役割を担った。
2.5GHz~6GHzに存在する、いわゆるミッドバンドを中心に、各社は数十億ドルを費やしてネットワークの到達範囲を広げた。ベライゾンとAT&Tが大量に保有しているCバンド周波数を使用、いずれも高速5Gのカバレッジを2億人以上に拡大した一方で、TモバイルUSは2.5 GHz帯の保有が多く、これを使用してやはり高速5Gで3億人以上をカバーしている。
ミリ波を使ったネットワーク容量の拡大についても取り組みが強化された。カバレッジが課題となるミリ波帯と、障害物の影響を受けにくいミッドバンドやローバンドの周波数を組み合わせて束ねる、スペクトラムアグリゲーション試験に関する取り組みが多数を占めた。FWAやプライベートネットワークなど、収益性のあるユースケースでの活用を目指している。
ベライゾンのRusso氏が最近、投資家向けカンファレンスで次のように話している。「私は子どもたちと冗談ばかり言っていますが、それはともかくとして、テイラー・スウィフトのコンサートに行ったことがあればお分かりかと思います。その場にいるのは皆そうした人々(集まって何かをしたい人々)で――当社の顧客です――現地での体験を友人や家族とストリーミングで共有したくても、4Gの時代にはそれができずにいたのです。そんな容量はありませんでした。当社では、イベント会場にミリ波を使用すれば、そうしたことを可能にできると分かりました。顧客にそうした体験を提供するのは、ミリ波なしでは不可能です」
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime
電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
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