メタバースのインフラはどのようなものになるか=バーチャルライフを支えるもの
メタバースとは何かについて、こんな風に聞いたことがあるのではないだろうか。VR(仮想現実)やMR(複合現実)でできた世界のことで、そこでは誰にでもなることができ、どこに行ってもよく、誰とでも、好きな方法で交流ができるのだ――と。とはいえ、メタバースは「現実」でこそないが物理的に必要とする物はあるし、メタバースを実行しているインフラは各種の体験版の中ではなく現実世界に存在する。そして人々のバーチャルライフはそうしたインフラにかかっている。
「どんな技術も進展するのには時間がかかるものです。ネットワークリソースを必要とするものは特にそうです」。米AT&Tのマスマーケット担当アシスタント・バイスプレジデント、Andrew Bennett(アンドリュー・ベネット)氏が語った。「トラックを進ませ、シャベルで土を掘り、投資をする必要があります。実に大仕事です」
メタバースとはじっさい何なのか
2022年、メタバース市場の規模は約620億ドル(約8兆2,470億円)だったが、2027年までに4270億ドル(約56兆7,950億円)近くに成長すると予測されている。CAGR(年平均成長率)は脅威の約50%だ。メタバースは役員室でもお茶の間でも議論の的になっているが、火付け役となったMetaは月額10億ドル(約1,330億円)という驚くべき金額をメタバースに投じている。
それでも、メタバースは未だにつかみどころのない「変わった」概念のままだ――メタバースとは何なのか、どこで、いつ、どのように使うのかが長らく議論され続けている。
たとえば米ガートナーはメタバースを次のように定義している。「複数の独立ネットワークを相互に接続した没入型デジタル環境であり、通信には新しいプロトコルを使用する。永続的、分散的、協調的、相互運用可能なデジタルコンテンツを提供するもので、そうしたコンテンツは物理世界の空間インデックスを付けて整理したリアルタイムコンテンツと交差する」
もっと簡単に言えば、「メタバースはインターネットの進化形であり、終着点」だという。ガートナーのディレクターアナリスト、Tuong Nguyen(トゥオン・グエン)氏が語った。
メタバースが具体的にどのようなものになり、どのような展開をしていくかについては多くのアイデアや定義、見解が見られるが、氏がさまざまな場面で対話してきた経験からすると、情報通の90~95%はメタバースを支持しているという。反対意見は本質的なものではなく、家族で休暇の計画を立てている時に細かい部分や旅行先についてまだ合意に達していない時のようなものだとした。
とはいえ、片鱗や足がかりこそ見られるものの、「現在のところメタバースと呼べるものはまだ存在しません」とNguyen氏は言い切る。「貴方が大人になったのはいつですか? ある日突然ということはないでしょう。発展してなっていくものなんです」
メタバース実現へ、ゆるやかだが絶え間ない競争
じっさい、メタバースは「まだ非常に高レベルで概念的」な段階にあるとBennett氏も同意する。
氏はメタバースの初歩的な例としてSnapChatを挙げ、どのようなものになり得るかという大きなビジョンを投げかけていると語った。
「私たちはいつか『レディ・プレイヤー1』の世界に住めるのでしょうか? ええ、可能かもしれません」と氏。「私が生きている間のことかというと――ちょっとわかりません」
Bennett氏もNguyen氏と同じように、画期的な新技術というよりは徐々に発展していくものだと話す。いつの日か、人々はヘッドセット等のウェアラブル端末を介していつもメタバースとやり取りをすることになりそうだが、それは「ゆっくりと、しかし確実にAR(拡張現実)を生活に取り入れる」というものになりそうだと述べている。
メタバースのインフラ=5G、光ファイバー、デバイスの互換性
メタバースのインフラを実現できるかを左右するのが5Gだという。最近開催された「Immerse Global Summit」でBennett氏が語った。
「帯域も必要ですし、こうした体験を実際に可能にするためには速度や遅延も重要です」
とはいえ、「5Gはまだ初期の段階」で、大規模な展開が始まって2年も経っていないと指摘する。
氏によると、メタバースではエッジコンピューティングが中核を担うことになるという。エッジでの計算速度と遅延が非常に優れているためだ。また、家庭での利用のためには光ネットワークの整備が不可欠となる。
端末に目を向けると、コンシューマーデバイスの入れ替わりが記録的なペースで進むという。人々はいろいろなデバイスからメタバースにアクセスしたいと考えるだろうし、そうした端末は5G(あるいはそれ以降)に対応していなくてはならないためだ。
「ウェアラブル端末のエコシステムの行く末は誰にもわかりません」と氏。
たとえば、氏は毎朝「Oculus」を使ったVR瞑想をしているという。「でも、顔につけたまま車に乗るのは無謀でしょう」
最終的には時間の問題、文化の受容の問題だ――消費者も企業もメタバースの価値を理解し、投資することが必要になりそうだ。
「顧客やネットワークがクリティカルマスに達すれば、エコシステムが大きく拡大するチャンスになります」。Bennett氏は話している。
既存インフラの活用
メタバースに必要な物理的条件は何か。大きな答えが1つあるとNguyen氏は言う。
あるインフラが――インターネットのことだ――すでに存在し、デジタルだけの世界も存在している。物理世界の上にデジタルの世界を構築する際には空間コンピューティングが不可欠になりそうだ。
たとえば、旅行の計画中に何かを検索している時は即座に回答が得られなくても困らない。一方、街を歩いていて最寄りの地下鉄やトイレを調べる時にはすぐに答えが必要だ。もしわずかでも遅延があれば、既に間違った方向に2ブロックも歩いてしまった後になるかもしれない。
「知りたいのは正面に何があるかであって、後ろに何があるかではありません」
現在のインフラは集中型コンピューティングと集中型ストレージ向けにできている。しかし、帯域を広く確保し低遅延を可能にするにはエッジネットワークやP2Pネットワークに移行していく必要があると氏は言う。
また、ローカル接続には5G、WiFi、Bluetoothの機能向上が必要だ。
「5Gがスタートになります」と氏。次のステップになるのは6Gだ。
他にも多くのピースが登場するのは明らかだが、「その中には私たちが知っているものもあれば、まだ知らないものもあるでしょう」とNguyen氏は語った。
メタバース=「イノベーションのためのエコシステム」
Nguyen氏によると、メタバースはいずれ単一の技術やインフラによらない「イノベーションのためのエコシステム」になるという。インターネットの場合と同様、インフラの要件も絶えず発展していくとした。
たとえば、インターネットを発明、構築した人々は携帯電話のことを考えていただろうか。考えていたとしても、恐らく現在私たちがポケットやハンドバッグに入れているような水準の端末ではなかっただろう――氏の指摘によると、当時入手可能だったどんな物よりも高性能になっているという。
「インターネットにはさまざまな要素があります。メタバースも同じでしょう」と氏。主観にもよるし、ユースケースしだいだと語った。
ひとつだけ確かなことがある。「私たちが周囲の世界とどのように関わるかをメタバースが変えるでしょう」
Bennett氏も同意見だ。「可能性は無限に広がっているように感じます。北極星のように指針を示し、手引きとなってくれるような大胆かつ大規模なユースケースがきっと存在すると考えています」
次の「キラーアプリケーション」は何だろうか。その登場はもしかすると目前に迫っているかもしれない。
What the Metaverse’s Infrastructure Will Look Like (and Why Your Virtual Life Depends on It)
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