米Broadcom、クラウドネイティブ対応を強化

米Broadcomがプラットフォーム製品の「VMware Cloud Foundation(VCF)」に重点的に力を入れ、収益を大きく伸ばしている。また、VCFに含まれているクラウドネイティブなコンポーネントの「vSphere Kubernetes Service(VKS)」も支持を得ているようだ。
今月初め、ロンドンで「KubeCon + CloudNativeCon Europe」が開催された。Linux Foundation傘下のCloud Native Computing Foundation(CNCF)が主催する旗艦カンファレンスだ。開催に先立ち記者会見が行われ、Broadcomでクラウドプラットフォーム/インフラ/ソリューションのマーケティング担当バイスプレジデントを務めるPrashanth Shenoy(プラシャント・シェノイ)氏が登壇した。氏の説明によると、VCFの利用状況については、VCF上で仮想マシン(VM)やコンテナアプリケーションを実行しているケースがほとんどだという。
「自社のワークロードのうち、VMが占める割合が50~60%という状態になっている顧客は――残りがクラウドネイティブアプリケーションやコンテナアプリケーションです――いずれもVKSを活用したいということで、積極的にワークロードの移行を進めておられます。VKSはVCFの一部であり、すでに料金をお支払いいただいていますから、これを活用すれば他のプラットフォームに料金を支払う必要がないからです」
VKSの採用に伴い、新たにAI関連などのコンテナワークロードをVCFで実行するケースが急増している。
「ほとんどの人は、VMwareやVCFのことを思い浮かべる時には、『ああ、VMを実行できるプラットフォームがあるな』という風に思っています」と氏。「それについてはその通りで、今後もそれは同じですが、現在、大きく増えているのが各種のモダンなワークロードです。AIワークロードやモダンなデータベース、モダンなデータサービスなど、何でもありますが、クラウドネイティブなコンテナワークロードです。VCFはこうしたワークロードの実行基盤にも利用されています」
BroadcomはAIも重視している。VMwareを活用し、AI関連の商機を拡大することに力を入れているようだ。
直近の決算説明会では、2023年にNVIDIAと共同でリリースした企業向けのプライベートAI基盤「VMware Private AI Foundation」について、CEOのHock Tan(ホック・タン)氏が説明している。「大企業がAIを採用する場合、AIワークロードを(オンプレミスの)データセンターで実行する必要があります。GPUサーバーを使用するケースと、従来のCPUで処理するケースの両方があるでしょう。VCFはCPUを使用している従来型のデータセンターの仮想化に使われますが、それと同じように、GPUを仮想化して共通基盤で使用することができます。顧客はAIモデルをインポートして、(オンプレミス環境にある)自社の独自データを扱うことが可能です」
Broadcomの主張―競合のサービスを利用するより低料金
Shenoy氏によると、VCF上で競合他社のCaaS(Container as a Service)を利用し、コンテナワークロードを処理しているケースもあるという。具体的には、Red HatのOpenShiftなどが増えているとした。とはいえ、この方法を採用している顧客は余分な支払いをするはめになっているという。
氏の発表では、ある分析結果について詳しく紹介している。VMやコンテナで800~900のワークロードを実行している平均的な顧客について、コンピュート要件とコスト要件を調べたところ、VKSのみを利用している顧客はコストを50%削減できていることがわかったという。
「柔軟性と選択肢を確保することはできるでしょう。ですが、当社のTCO分析では、2つのプラットフォームを使う、あるいはベアメタル上でコンテナを実行するよりも、VKSを使用してコンテナワークロードをネイティブに実行する方が、コスト効率がはるかに良くなる場合が多くなっています。顧客とお話をすると、最も話題が集中する部分です」
Red Hatを利用した場合と比較していることには意味がある。BroadcomによるVMware事業の再編が進められていた当時、親会社のIBMがVMwareから顧客を奪う機会だとアピールしていた経緯があるのだ。
「Broadcomによる買収を受けて、今現在、VMwareのあらゆる企業顧客がプラットフォームアーキテクチャに関する決断を迫られています。仮想化なのか、コンテナ化なのかという選択です」。昨年、ある投資家向けカンファレンスにIBMのJames Kavanaugh(ジェームズ・カバノー)CFOが登壇した際、このように話している。IBMのコンサルティングサービスや、生成AIプラットフォームのIBM Watsonx、Red Hat OpenShiftのアピールを交えて語った。「こうしたことから、当社には非常に高い関心をお持ちの顧客が来られます。向こう何年もの間、事業の成長要因となるのではないかと思いますし、当社としては大いに期待しています」
BroadcomがVMwareを買収したことによって変曲点が訪れているという見解については、Red HatのAndrew Sullivan(アンドリュー・サリバン)氏がさらに発展させている。同社のハイブリッドプラットフォーム事業部門で仮想化/プラットフォーム製品の技術マーケティングを担当しているシニアマネージャーだ。SDxCentralの取材に対し、この件について市場からは否定的な声が上がっていると語った。
「私個人の経験になりますが、昨年は感情的な反応が多くみられました。最近では消化が進んでいる様子で、各社とも今後どうしていくかを模索されているように思います。動揺している様子もみられなくなりました」と氏。「『ああ、今すぐ移行しなければ』というのではなく、『では、今後の戦略をどうするか、仮想化についてはどう扱うべきか。シングルベンダー戦略を維持する方がよいのか、それとも複数のハイパーバイザーを利用して多様化すべきだろうか』という具合です」
また、こうした問題が生じたことで、「通常の計画サイクルを外れた見直しが大いに行われている」という。
「皆さん、仮想化基盤に求めるものについて、自社の立場をはっきりさせたり、綿密に調査をしたりしているようです。『以前のやり方は簡単だったし、時間や労力、エネルギーをそれほどかけなくても、必要なことはすべてできていた。同じやり方を続けるべきだろうか。多様化する場合はどうなるだろう』といった具合です」
Red Hatと同じような主張をしているVMwareの競合は他にもある。不満を抱いたVMwareの顧客をBroadcomから奪うことに成功しているというものだ。一方で、Broadcomの経営陣は買収したVMware事業の成功を異口同音にアピールしており、Shenoy氏のメッセージも全体としてそうした内容を踏襲したものとなっている。
市場に困惑か
Shenoy氏の発言では、BroadcomによるVMware事業の運営について、主力製品のVCFだけでなく、その他のサービスにも引き続き力を入れ、改善を続けていくことも示された。
同社は昨年、VMwareが長期にわたって提供してきた「Tanzu Kubernetes Grid Service」をVCFに移行し、別名として新たにVKSと称している。この変更について、Tanzuユーザーの間ではいくらか困惑があるようだ。
11月に年次イベントの「Broadcom Explore Europe」が閉幕した後、Broadcom Tanzu部門のゼネラルマネージャーを務めるPurnima Padmanabnan(プルニマ・パドマナバン)氏がブログ記事を投稿し、次のように述べている。「今週のイベントで私が持ち帰った教訓の1つは、当社が販売しているKubernetesランタイムがどういうものなのか、VMware by Broadcomの製品ポートフォリオの中ではどういう位置づけになっているのかについて、まだ混乱があるようだということです」
「これは明確な意図のある変更です。Kubernetesランタイム自体はあらゆるモダンなクラウド(IaaS)に含まれているものですが、VCFスタックにこのように深く統合したことで、VCFの顧客がTanzuの高度なサービスを利用したい場合に、苦労して統合プロセスを経る必要がなくなります。以前よりも速やかに導入いただける場合が多くなるでしょう」と氏。「Tanzuの既存顧客には、特定の要件を満たすために、他のタイプのKubernetesランタイム(『Tanzu Kubernetes Grid Integrated』『Tanzu Kubernetes Grid Multicloud』のこと)を利用されている顧客も多いです。Tanzuはこうしたバージョンについても引き続きサポートします。つまるところ、Tanzu Platformは(CNCFに)準拠しているあらゆるKubernetesランタイムを実行できるようにつくられています」
Shenoy氏もこうした取り組みを強調している。Broadcomは今でもKubernetesコミュニティで3本の指に入る上位コントリビューターだと語った。
「業界でもあまり知られていないかもしれませんが」と氏。コントリビューターとしての取り組みについて、次のように語った。「当社はKubernetes市場のイノベーションを促進し、エコシステムやコミュニティの発展を積極的に推進しています。これは当社にとって不可欠な、非常に重要なことであり、VMwareの功績を引き継いで、Broadcomにも取り入れていこうとしています」

電気通信、5G、無線アクセスネットワーク(RAN)、エッジネットワーキングを専門とし、電気通信分野を20年以上担当している。SDxCentral入社以前は、RCR Wireless Newsの編集長を務めていた。
連絡先:dmeyer@sdxcentral.com
X(旧Twitter):@meyer_dan
LinkedIn:dmeyertime

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